大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で、茶々(北川景子)の茶番が怖すぎる。第41回「逆襲の三成」では、正月、大名たちが勢力を増す家康(松本潤)のところに集まってにぎやかにやっているのに対して、茶々と秀吉(ムロツヨシ)の息子・秀頼のもとには誰も来ていなくて閑散としていた。今も昔も、強力な後ろ盾がいなくなると不安定な状態になるもの。あんなに栄華を誇った豊臣家が少しかわいそうにもなるが、それでしょげ返る茶々ではない。家康と三成(中村七之助)との関係をさらに悪くしようと図る。一時、佐和山城に籠もっていた三成を呼び寄せ、頼りにしているようなふりをして、家康には三成が勝手なことをして怖いと泣きつくような文を出す。

  • 『どうする家康』茶々役の北川景子

■皆を翻弄する茶々 家康と三成の友情も引き裂かれる

茶々からの文を読んだ家康が笑い出すことも怖かった。家康は茶々の茶番を見抜いて、すっかりバカバカしくなったのであろうか。三成に家康が疑わしいと吹き込んだのも茶々だった。それで2人の友情は引き裂かれたようなものだ。

茶々はどういう心理なのかやたらと嘘をついて皆を翻弄している。秀吉が亡くなったときは秀頼のことを「おまえの子だと思うか」と不穏な問いかけをしていた。『どうする家康』のなかでは、彼女だけのものだという、秀吉を軽視した発言だったのだと推測するが、秀頼は実は秀吉の子ではない説というのも存在している。秀吉にはなかなか子供ができず、しかも高齢だったにもかかわらず、茶々に子供ができたことを訝しんでの説である。

秀頼の実父候補は、大野治長(玉山鉄二)。家康暗殺計画に関わり流罪となるも、茶々が呼び戻し、以後、大坂の陣まで誠実に仕える人物だが、その彼と茶々の不適切な関係を記した書物もある。治長の母が茶々たちの乳母で、治長と茶々は幼い頃から親しく、茶々は秀吉の側室になってからも信頼を寄せていた……というような状況は想像が膨らみやすい。歴史二次創作を書くにはうってつけの人物が大野治長なのだ。

『どうする家康』で治長を演じているのは玉山鉄二。顔で判断してはいけないが、端正な顔立ちで、茶々と並ぶとお似合いな感じがあり、実は……というのもありそうな雰囲気もなくはない。残り少ない放送回で、茶々とのエピソードがあるのかないのか。玉山が演じているのだから、何かしら治長の見せ場は期待したいところだ。

  • 大野治長役の玉山鉄二

■数々の作品で“そばにいてほしい男性”を演じてきた玉山鉄二

玉山の大河出演は『天地人』(09年)、『八重の桜』(13年)、『西郷どん』(18年)に次いで4作目。すっかり大河常連であるが、どちらかというと朝ドラこと連続テレビ小説『マッサン』(14年度後期)の印象がいまもなお鮮烈だ。ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝をモデルにしたマッサンこと亀山政春を演じた。夫婦愛の物語が中心だったため、なかなか肝心のウイスキーを作らず、妻のエリー(シャーロット・ケイト・フォックス)に日本人特有の亭主関白的な態度で接し続ける。でも常に支えてくれたエリーに先立たれ、最後はひとりでウイスキーを完成させる、という感動ヒューマンドラマを演じきった。明るく能天気で頑固、憎めない人物を演じて、全国区の人気を得た。ドラマ終了後、ニッカウヰスキーのCMにも出ていて、玉山とウイスキーが切り離せないものになっていた。

『マッサン』以前は、『離婚弁護士』シリーズ(フジテレビ系/04年・05年)で天海祐希演じる弁護士のアシスタント役を演じていて、ヒロインの活躍に花を添える、ちょっと抜けた年下男子キャラを好演し、女性人気を獲得していた玉山。その後、再び天海主演の『BOSS』シリーズ(フジテレビ系/09年・11年)では、かわいい男子ポジションは溝端淳平(『どうする家康』では今川氏真を好演)が担当し、玉山はクールで腕利きの刑事を演じていた。いずれにしても、女性にとってそばにいてほしい男性キャラを演じていたのである。そういう点では、大野治長もその路線である。『マッサン』に限っては、そばにいてほしいというよりは、少しいらっとするけれどお世話したくなるタイプの役であった。

2023年のいまは、Amazon Original映画『次元大介』に主演している。以前、実写化された映画『ルパン三世』(14年)でも次元を演じた玉山が、次元単独の作品に出るということで注目された。『ルパン三世』はあまりにも絵のイメージが強いので、実写化は難しいと思われていたが、実写版もおおむね好評だったからこその、単独次元の物語が実行されたのだろう。東映出身の橋本一氏の演出で、昭和の拳銃アクションやハードボイルド感も醸されている。行き過ぎないポピュラーなハードボイルドぽさが親しみやすい。ただ、全身黒尽くめのクールなスタイルは暗闇だと映えるが、普通の商店街だと浮くのは否めないのだが、それは別に玉山のせいではない。

アニメの次元は独特の細い線をしているが、玉山は顎をはじめとして骨格がしっかりしているので、見た目が次元っぽいと言っていいのかよく分からないが、本質――無口で実直そうなところの再現は悪くない。おそらく『どうする家康』の治長も実直そうな人物で、もはや味方が全然いない、孤軍奮闘の茶々に、最後まで仕え続けるところが魅力になるだろう。忠誠心の強い騎士的演技に期待する。

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