マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、円安トレンドの動向について解説していただきます。


日銀はYCCを柔軟化

日本銀行(以下、日銀)は10月30-31日に金融政策決定会合を開催し、YCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)の柔軟化を決定しました。これは従来、長期金利(10年物国債利回り)の許容変動幅の上限を1.0%としていたものを、「上限の目途(めど)」に変更し、長期金利が一定程度1.0%を上回るのを容認するというもの。

日銀は今回の決定を、金融緩和の修正ではなく、「長期金利の上限を厳格に抑えることは、強力な効果の反面、副作用も大きくなりうると判断し、大規模な国債買い入れと機動的なオペ運営を中心に金利操作を行うこととした」と説明しました。

一方で、日銀は金融緩和を継続することを表明。「粘り強く金融緩和を継続することで、経済活動を支え、賃金が上昇しやすい環境を整えていく方針」としました。

マイナス金利解除の判断は春闘の結果を見てから!?

もっとも、同時に公表された「経済・物価上昇の展望(展望レポート)」では前回7月時点から物価見通しを引き上げました。また、声明でも「消費者物価の基調的な上昇率は見通し期間終盤にかけて、2%の『物価安定の目標』に向けて徐々に高まっていくとみている」としました。

日銀が物価目標達成の重要なカギとみている賃金の上昇について、植田日銀総裁は会合後の会見で、来年は「ある程度期待できる」と述べました。来年の春闘の状況を見極めたうえで、いよいよマイナス金利の解除(=利上げ)に踏み切るのかもしれません。

金融市場の予想を織り込むOIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、11月1日時点で24年3月までに7割以上の確率で利上げが見込まれています。さらに、6月と9月にも利上げが確実視されています。

他の主要中銀は利上げ打ち止めから利下げへ!?

他方、FRB(米連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)、BOE(英国中央銀行)など、他の主要な中央銀行は昨年から続けてきた利上げが最終段階に差し掛かっています。すでにインフレのピークアウトが鮮明となっており、物価目標を達成するうえで政策金利は十分に景気抑制的な水準に到達したと判断しているからです。

いずれの中央銀行も政策金利の高水準を長期間続ける意向を表明しているものの、金融市場では「利下げはいつか」へと関心が向かいそうです。上述したOISに基づけば、FRBやBOEが来春までに追加利上げを行う確率はせいぜい4割程度。また、ECBが追加利上げに踏み切る確率はほぼゼロです。いずれも24年の年央前後には利下げに踏み切ると予想されています。

円安トレンドはいったん終了か

Bloombergが集計する主要通貨の騰落率をみれば、円は22年が17通貨中の16位、そして今年は10月末までで最下位です。日銀が長短金利操作付き量的・質的金融緩和という大規模緩和を続ける一方で、多くの中央銀行が利上げを行ってきたからです。もっとも、そうした内外の金融政策の方向性は、これから24年にかけて逆転する可能性が高そうです。そうであれば、昨年来の円安トレンドもいったんは終了するかもしれません。