シャープは、電子ペーパー分野の世界最大手であるE Inkと手を組み、4月から「ePoster」(イーポスター)と名付けた電子ペーパーディスプレイ製品群を展開しています。“消費電力ゼロで常時表示”をウリにしているePosterはどんな製品なのか、取材しました。

  • シャープの電子ペーパーディスプレイ製品「ePoster」。写真は大規模展示会「CEATEC 2023」シャープブースにて

10月に開催された大規模展示会「CEATEC 2023」のシャープブースでは、42型から7.3型まで大小4サイズの実機がズラリ。ラインナップは以下の通りで、なかにはカラー表示できる機種もあり、個人的には見やすく感じられて画質も好印象でした。現在はスーパーやコンビニといった店頭、イベント会場などで見かける紙のポスターを置き換えるデバイスとして、法人向けに展開しています。

  • 7.3型4色両面モデル「EP-C070」(単階調:白/黒/赤/黄)
  • 13.3型カラーモデル「EP-C131
  • 25.3型カラーモデル「EP-C251
  • 42型モノクロモデル「EP-421」(グレースケール16階調)
  • ePosterのラインナップと主な仕様一覧

  • 小型モデルの利用イメージ

さらにシャープは、E Inkの最新電子ペーパープラットフォームである「Spectra 6」をいち早く搭載し、同プラットフォーム搭載製品として世界初のA2サイズを実現した機種を開発発表。11月にシャープが単独開催する技術展示イベント「SHARP Tech-Day」で初披露する予定です。E Inkとの協業で4月に第1弾製品を投入してからというもの、かなり精力的にラインナップを強化していることがうかがえます。

  • A2サイズのカラーモデルも開発発表。11月の技術展示イベント「SHARP Tech-Day」で初披露する

駅やデパートなどの施設では、広告やお知らせを画面上で流すデジタルサイネージをよく見かけますが、現在主流のシステムではバックライトを備えたディスプレイに常時通電しておく必要があり、設置・運用コストや環境負荷が高くつきがちです。

その点、電子ペーパーディスプレイは、液晶ディスプレイなどの表示デバイスと比べて薄くて軽いので自由に設置でき、画面表示のために常時通電しておく必要もありません。印刷物レベルの見やすさと、自由な書き替えを両立できる点も大きな特徴。低消費電力性能もあいまって、環境負荷の軽減にも寄与できるメリットがあります。

  • ePosterの主な特徴

シャープは2005年にデジタルサイネージ事業へ参入以来、製品開発から設置場所に応じた企画・プロデュース、システム構築や保守メンテナンスまでをワンストップで担ってきています。

2022年には独自の電子ペーパー技術を保有するE Inkと協業し、電子ペーパーモジュールにIGZO(酸化物半導体)バックプレーンを採用することを明らかにしていました。2023年からは電子ポスター分野で協業し、まずは42型モノクロモデルを市場投入。従来の紙のポスターに替わる電子ポスターとして「ePoster」を提案し、これまでデジタルサイネージの設置が困難だった場所への提案を推進していく方針を打ち出しています。

シャープの担当者によると、特にカラーモデルは2023年9月から順次追加し始めたばかりということでまだ大々的な導入事例はないものの、顧客からは新しい取り組みということで試してみたいという反応が来ているとのこと。

東京都内の鉄道では既にシャープのデジタルサイネージを導入しているところが多々あり、担当者は「時刻表」への導入に意欲を見せていました。ePosterは比較的長いスパンで切り替えていくような掲示物に向いており、時刻表はその好例といえます。張り替えの手間は相当かかるといわれていますが、いずれはePosterに置き換えられていくのかもしれません。

  • こちらはイベント会場のイメージボードを想定した展示(スタンドは別途用意する必要がある)

いいこと尽くめのように見える電子ペーパーディスプレイですが、取材していて気になる点もありました。まず価格面では担当者によると「1インチあたり1万円程度」ということで、現状は一般的なデジタルサイネージ製品よりも高くつくイメージ。

また、これは特にカラーモデルの仕組み上の問題のようですが、一度表示したコンテンツを書き替えるのには20秒程度と比較的時間がかかります。書き替え実行中は、知らない人が見たら「故障かな?」と一瞬思ってしまうような、アグレッシブな表示になる様子も垣間見えました。書き替え中の様子を見せないようにするといった運用でカバーできそうですが、画面に「書き替え実行中です」といったメッセージがひと言表示されているだけでも、安心感が増すように思いました。

  • カラーモデルをスーパーなどの店頭表示で使うイメージ。いったん表示書き替えが終わってしまえば安定した画質で表示される

なお、ePosterは表示部の裏側に、数GB程度の内蔵ストレージと、コンテンツ転送用のUSB端子、無線LAN/Bluetoothといった通信部を備えています。消費電力ゼロで常時表示できるのが強みとはいえ、完全に電源不要というわけではありません。表示書き替えには画面サイズにもよるものの、最大で数十W必要になることもあります。フォトフレーム程度のサイズならモバイルバッテリーで動かせていましたが、より大がかりなものになると、シャープが現在提供しているデジタルサイネージ用ソフトウェア「e-Signage S」で集中管理するかたちとなり、ePosterの設置場所に電源を追加で確保する必要も出てきそうです。

CEATEC会場でも注目を集めていたePoster。今後は前述の通り、A2サイズのカラーモデルが加わることがアナウンスされています。紙のポスターで一般的な国際規格のA2サイズ(幅420×縦594mm)を表示できるのが大きな特徴で、IGZO技術によって周辺回路を小型化して狭額縁化も図ったとのこと。「SHARP Tech-Day」で取材する機会を得られたら、改めてまたレポートします。