NTT東日本と所沢市、京都大学発のベンチャーDeepForest Technologiesは、ドローン撮影画像 × AI解析ソフトを活用した「ナラ枯れ」把握効率化の実証実験の実施に向けた協定締結式を10月16日に執り行った。

ドローン×AIによる森林管理によって、従来の枯れ木調査の大幅な効率化を図る今回の取り組み。10月17日に所沢市の里山保全地域で実施された現地調査の様子などを取材した。

■ドローン×AIによる森林管理で圧倒的な効率化を実現

近年、昆虫が媒介する病原菌によってナラ・シイ・カシなどのブナ科樹木が枯れる「ナラ枯れ」が全国的に発生し、森林被害の把握調査における業務コストが大きな問題となっている。

都市においてもその被害は決して小さくなく、広大な範囲の緑地や森林を管理する所沢市では樹林地内に職員が足を運ぶ枯れ木の調査を実施。時には危険な崖地などもある森林に分け入り、1本ずつ樹木を確認しなければならない森林調査だが、同市ではより効率的で実用性のあるナラ枯れの把握方法の検討を進めてきた。

  • (左から)DeepForest Technologies 代表取締役・大西信徳氏、所沢市環境クリーン部長・安藤善雄氏、NTT東日本 埼玉事業部 埼玉西支店 支店長・丸山猛氏

DeepForest Technologiesのソリューションを活用した今回の実証実験は、そうした調査にかかる職員の稼働コストを削減し、緑地の保全や管理を迅速かつ確実な実施に向けた取り組みとなる。

NTT東日本、所沢市、DeepForest Technologies社の3者による協定書への署名後、DeepForest Technologies社長の大西信徳氏は同社の事業内容について説明した。

ドローンによる撮影で森林状況の解析・把握する新技術の研究開発を京大で行ってきたという大西氏。同社は京大発ベンチャーとして“ドローン×AIによる森林管理”の社会実装を掲げ、コンサルティングサービス事業を展開しており、昨年7月からはソフトウェア「DF Scanner」の提供も開始している。

「従来は現場を歩いて木を一本ずつ、木の太さや種類、病虫害の状況といったものを把握する手法が一般的でした。現在、『ナラ枯れ』が全国的な問題となっているなか、その把握のための業務負担が大きな課題となっています。従来の人間による森林調査は1ヘクタールにつき37時間ほどかかるとも言われますが、ドローンを使うことで簡単に広範囲の計測・スキャンができ、1回約20分のフライトで10ヘクタールほどの調査が可能です。森林管理の圧倒的な効率化を実現します」(大西氏)

■ナラ枯れ把握での調査は初、幅広い展開が期待される技術

DeepForest Technologies社の「DF Scanner」では、GPSとカメラを搭載したドローンを立体的に自動飛行させて静止画を撮影し、画像データを合成して森林を3次元で再現。独自のAI解析によって “樹冠”から各樹木を分離し、1本1本の樹種、幹の太さ・高さ、材積量、炭素蓄積量といった情報を誰でも高い精度で把握することが可能だ。

撮影などは自動プログラムによって行われ、10ヘクタールにつき400〜500枚ほどを撮影するという。すでに林業分野のDX施策として事業者の間では活用が進んできているようだ。 「枯死木の検出・判定まで行えるため、開発当初から『ナラ枯れ』問題での活用は想定していました。ただ、地方では林業での活用が中心で『ナラ枯れ』に焦点が当たりにくく、都市部のエリアでは大きな森林を所有する自治体様が少ないといった背景もあって、ナラ枯れ被害の実証は今回が初となります。創業から1年半、製品リリースから約1年の当社が全国の自治体様と関係づくりをしていく上で、NTT東日本さんの存在は非常に大きいです」(大西氏)

森林の正確かつ詳細な基礎情報を取得する技術を基に事業展開を進める同社だが、大西氏曰く、その取得データの汎用性の高さゆえにソリューションとしての提案の仕方など、営業面での難しさを感じることもあるという。

「1つでも多くのユースケースが積み上げて、こうしたデータの有用性を自治体の方々にしっかり理解いただくことがまずは非常に大事なことなのかなと思っています。さまざまな地域の各自治体のニーズにハマる活用方法を一緒に考えながら、その一つひとつに対応していきたい」とは、NTT東日本のまちづくり推進部 カーボンニュートラル推進担当の中川 応能担当部長。今回、所沢市とDeepForest Technologies社の橋渡し役を担った。

NTT東日本が「ナラ枯れ」に関する業務における所沢市のニーズや課題について把握したのは8月末とのことで、わずか1カ月ほどで今回の実証実験の実施まで漕ぎ着けたと語る。

「広大な森林を管理する北海道の自治体など、ナラ枯れに限らず森林の病虫害の被害は、全国的に大きな問題になっていくと思いますし、DeepForest Technologies社の技術には高いニーズがある。良きビジネスパートナー・良き営業として我々を使っていただきたいですね。NTTグループにはドローン専業会社もあるので、さまざまな連携や展開が今後考えられそうです」(中川氏)

■「効率的な森林の保全・管理を技術面で支えたい」

締結式の翌17日に実施された実地調査では、ドローンが上空から撮影した画像データを現地で「DF Scanner」に読み込ませ、実際に静止画を合成していく作業などが行われた。使用機体は「Mavic 2pro」(DJI製)という小型のドローンで、2,000万画素のカメラとGPSを搭載する20万円ほどの市販ドローンだ。

「2018年と比較的古い型のドローンですが、十分現役で稼働できます。最近はレーザーを搭載しているものなどドローンの大型化も進んでいて、レーザーを使うとより精度は高まりますが、現場での使いやすさなどを踏まえて、今回は小型ドローンを使用します」(大西氏)

今回の実証実験自体は2日間にわたって行われ、撮影後1カ月ほどで約9ヘクタールの解析データを納品予定。所沢市職員が今夏に実施した同地での調査結果との答え合わせを行い、「ナラ枯れ」に関する調査の精度の確認やブラッシュアップなどを経て、所沢市では令和7年度頃からの実用化を目指しているという。

所沢市内の管理対象の樹林は約100ヘクタール。主に多いのは雑木林で、職員8人を動員して2週間かけて行ってきた「ナラ枯れ」の調査が、単純計算だと10回のフライトでカバーできることになるそうだ。

また、「ナラ枯れ」で枯れた木を放置すると周辺の木への被害の拡大や、倒木の危険などが生じるため、伐採など早期の対処が必要となる。調査後はその費用を算出する作業が職員に発生してきたわけだが、今回のような調査で樹木の基礎情報がデータ化されることで、そうした作業時間の圧縮にもつながりやすくなるようだ。

所沢市では森林の管理・保全に留まらず、生物多様性という観点からの貢献や分析材料にも応用できる技術として、今回の実証実験の成果やDeepForest Technologies社の技術に期待を寄せている。

「生物多様性の評価などもできるよう、機能のバージョンアップも考えています。当社の技術は世界でもあまりない技術で、とくに樹種識別を成功させた技術は世界初の技術になります。そうした高い開発力こそ我々の強み。現場の課題感なども汲み取りながら、これまでない新技術の開発を今後も進め、効率的な森林の保全・管理を技術面から支えていきたいです」(大西氏)