研究チームは今回の技術ポイントとして、無線通信品質推定高速・高精度化技術と、計算に必要な量子ビット削減技術、の2点を挙げる。

前者については、まず今回、建物壁面などに対する電波の散乱現象を模擬できる「Fraunhofer近似」を、QUBOモデルへと落とし込んだとのこと。これにより、実環境が再現されたサイバー空間での無線品質推定精度を大幅に向上できたという。

電波の通り道が複雑な50m四方程度のエリアに相当するモデルで計算を行ったところ、散乱回数3回の条件の時に厳密解となるレイトレース法に対する従来技術の誤差は、損失量の小さい上位3経路で10dB以上となっているものの、今回の技術では上位2経路で1dB以内の誤差を実現できていることが確認されたとする。

この結果は、端末の移動による通信品質の変動を安定制御しようとする時に必要な精度を満足できることに相当するという。なお、今回の技術は、従来技術と同様に古典計算機でのレイトレース計算に対して100万分の1以上に計算時間を短縮できており、高速性は維持できていることを確認済みだとしている。

  • 今回の技術による電波の通り道推定例と推定結果の比較

    今回の技術による電波の通り道推定例と推定結果の比較(出所:NTT プレスリリースPDF)

また量子ビット削減技術について、研究チームは、現在の量子アニーリングマシンで利用できる量子ビット数は、今回の技術の大規模な計算実行時に十分な量ではないため、利用可能なレベルまで量子ビットを削減する技術を確立することから求められたとのこと。そこで、建物構造に対する電波の性質を考慮することで、電波の通り道の組み合わせ数爆発を抑制する技術が確立された。実際の都市モデル(面数450面)を用いて散乱回数7回の大規模計算を行ったところ、必要量子ビット数を25分の1にまで削減することに成功。現行のアニーリングマシンで提供される量子ビット数以内に収めることができたという。

研究チームは、このようにリアルタイム性と高精度化を両立した無線通信品質推定が、現行の量子アニーリングマシン上で実現されたことで、無線端末1台1台に対し、周波数、時間、空間などの無線リソースの最適化を実プロダクトの量子ビット提供レベルで実現できる道が拓けたとする。

また今後は、6Gで目指す信頼度99.99999%を達成するための技術開発を進めるといい、さらに今回のアルゴリズムを無線通信ネットワークに組み込み、高速・大容量・低遅延でつながり続ける無線システムの実証を進めることで、2030年を目途に技術確立を目指すとしている。