西日本電信電話(以下NTT西日本)は10月20日、NTTビジネスソリューションズ、マクニカと共同で自動運転の普及に向けて産官学で課題解決を考える「次世代モビリティDAY 2023」を大阪・京橋のQUINTBRIDGEで開催した。
会場には自動運転EVバスを展示。また有識者を招いた基調講演を行った。
社会実装に向けて
NTT西日本グループとマクニカでは2023年8月に、次世代モビリティの社会実装を加速させるため協業をスタート。お互いの持つ強みを活かしながら、国内における交通課題の解決に向けて取り組んでいる。
次世代モビリティDAY 2023では”未来の地域交通”をテーマに掲げ、地域づくりに関わる人々に様々なインテリジェンスを共有する場を目指した。
自動運転EVバスでグローバルに実績のあるマクニカでは、乗車定員15人の車体NAVYA、および遠隔モビリティ管理システム「everfleet」を提供。
同社では、すでに茨城県境町、茨城県常陸太田市、三重県四日市市、佐賀県嬉野市などで自動運転を”定常運行”するなどの実績を積み重ねている。
一方でNTT西日本とNTTビジネスソリューションズでは、導入コンサル、EV設備、エンジニアサポート、クラウドデータセンターなどを担当する。
NTT西日本の代表取締役社長 森林正彰氏は「私たちが展開しているN.mobi(エヌモビ)は、EV車の導入コンサルから、車両管理、充放電の管理などをワンストップで提供しています」と紹介する。
例えば地方自治体がEVバスの導入を検討しているケースなら、どこにバスルートを設定するか、というディスカッションの段階からNTT西日本グループが参加。道路の使用、充電設備の設置に必要な行政手続きもサポートする。
このほか、自動運転に必要な3D / 2Dマップの作成、路車協調システムなどの関連サービスを担当。
遠隔管理システムではバスの運行状態を監視しながらのオペレーションが必須となるが、そのときに必要なネットワーク(ローカル5Gを含む)も提供する。
さらには、自動運転EVバスを活用した観光客の輸送、乗客に視聴してもらう広告やVR/ARのエンタメコンテンツなども提案。
地方自治体によっては、オンデマンドバス、医療MaaSなどのニーズも高いとのことで、NTT西日本グループでは柔軟に対応していく方針を示している。
森林氏は「マクニカさんでは積極的に実証実験を行っており、全国で導入事例も増えています。とても心強いパートナーです。私どもは日頃から地方自治体とお付き合いがあり、ITに関するサポートもやっております。地域密着のサポート力がある。そんな両社で連携して、自動運転の社会実装の実現に向けて取り組んでいきます」と力強い言葉でむすんだ。
そしてマクニカの代表取締役社長 原一将氏は、自動運転EVバスの提供により、地域交通の利便性向上、交通事故の削減などに取り組んでいきたいとアピールする。
「NAVYAは現在、様々な車両が混在している一般道路、生活道路において時速18kmで自律走行できています。搭載する高性能センサー、信号機とのインフラ協調によって、道路や交差点の状況を把握しながら安全を確保しています」(原氏)
同社の遠隔モビリティ管理システムeverfleetは、自動運転のレベル4、つまり運転者が車内にいないドライバーレス走行を可能にするもの。
国内では2023年5月12日に福井県で初めて運転許可が下りたばかりだが、こうした「将来のニーズ」に対しても積極的にフォローアップして開発・導入していく、と意気込む原氏だった。
本当に安全運転できるの?
午後のセッションでは「次世代地域交通システムの社会実装実現に向けた今後の展望」と題したトークセッションが開催された。
はじめにNTTビジネスソリューションズの宮崎一氏は、いま地方の路線バスの経営環境が非常に厳しい状況であると報告する。それによれば、コロナ禍中の2021年にはバス事業者の実に96%が(コロナ禍前の2019年でも74%が)赤字経営だったという。
「この10年で約1万5,000kmの路線が廃止になっている状況です」と宮崎氏。
そこで自動運転EVバスを導入することにより、将来的には住民の利便性の向上、町のにぎわいの再生が期待できるだけでなく、道路渋滞の解消、交通事故の減少など、町づくりに関わるいくつもの課題も解決できる、と解説する。
マクニカでは数年来、日本各地で自動運転の支援を行ってきた。これまでに積み重ねた実証運行は26件を数え、国内の4ケ所では定常運行を実現させている(2023年10月現在)。
ここでマクニカの可知剛氏は「NAVYAに乗ったことのない人からは『ハンドルもない自動運転車に本当に安全な運転ができるのか』といった質問をよく受けます」と苦笑いする。
「やはり乗る前には、そうした不安も出てくるようです。でも実際のところ、例えば3年ほど定常運行している茨城県境町でも無事故無違反を維持しています。地域の皆さんからは『安心して乗車できる』との評価もいただいています」。人が運転するよりも安全です、とあらためて強調するのだった。
これまでは地域に住んでいる人の利便性の向上などを目的に走らせてきたNAVYAを、今後は観光地などにも打っていきたい考え。
可知氏は「新幹線で遊びに行っても、降りた駅から観光地までは距離がある、けれどタクシーの数も限られている、なんてケースがよくあります」と話し、これからは観光の足としての利用も促進していく考えを明かす。
このほか、子どもたちのスクールバスの代替、あるいは病院の巡回バスとしての利用も視野に入れている、と紹介した。
両社では実証実験を継続して行い、定常運行の本数も増やしていく考え。そして2026年には「次世代地域交通基盤を確立する」というロードマップを描いている。
宮崎氏は「さらなる安全性の向上に向けて、地域の需要も探りながら、今後も検証を重ねていきます。今年から来年にかけて様々なことをスタートしないと、目標とするステージまでたどり着けない、と危機感を持ってやっていきます」と気を引き締めていた。