三井不動産は10月17日、グループにおける脱炭素への取り組みの状況や新たな取り組みなどについて、記者向けに説明会を開催。業界のリーディングカンパニーとして、街づくりに関わる様々なステークホルダーと連携し、2050年のネットゼロ達成に向けて新たなスタンダードの形成を目指していくと発表した。
街づくりから社会課題を解決する
まず、三井不動産代表取締役社長の植田俊氏から三井不動産の理念と脱炭素への取り組みの概要について説明が行われた。
三井不動産では、かねてから街づくりを通して社会課題の解決を目指してきた。近年、社会が2050年に向けカーボンニュートラルの達成を目指していく中、三井不動産はウェルビーイングを高め、街と共生する緑の空間づくりをさまざまな形で手掛けている。
5,000ヘクタールにもおよぶ保有林の管理をはじめ、2022年度からはオリンピアンとともに植林活動を行うなど、CO2削減のために重要となる緑の循環を目指した森づくりに勤しんでいる。また、神宮外苑地区の街づくりにおいても、イチョウ並木をはじめとした景観の保全など緑の保存と創造を目指しつつ、バリアフリー化などの回遊性を向上し、地震などに備えた施設の向上などに取り組んでいる。緑の割合は25%~30%ほど拡大予定で、芝生広場などのオープンスペースも拡張するという。
脱炭素社会の実現のためのグループ行動計画としては、まず2030年度までに2019年比で40%削減、そして2050年度までに100%削減を目指す。しかしながら、グループにおける温室効果ガス(GHG)の排出比率を見ると、90%は他社排出分(SCOPE3)となっている。ビル1棟を建設するにも、多種多様な協力会社の貢献が不可欠となるため、サプライチェーン全体を巻き込んだ排出削減や新たな排出削減手法を提案し、街づくりに関わるあらゆる人々への働きかけから行動変容へとつなげていく必要がある。
そこで、脱炭素化に向けて適切なGHG指標を設定し、GHG排出を見える化。指標に基づいた新たなルール作りをして、新しい建築物の在り方を業界に提案していく。そして、入居テナントや生活者に向けても、グリーン電力提供サービスや「くらしのサス活」などを通じて働きかけ、プラットフォーマーとして行動変容を促していきたいとした。
サプライチェーン全体を巻き込んだ取り組み
具体的な進捗については、三井不動産取締役・専務執行役員の広川義浩氏より説明された。
脱炭素行動計画策定後となる2021年以降の新規物件については、すべての物件でZEB(快適な室内環境を実現しながら消費するエネルギーをゼロにすることを目指した建物)やZEH(生活で消費するエネルギーよりも生み出すエネルギーが上回る住宅)水準の環境性能を実現。既存物件においても、省エネ性能向上を図るリニューアルを順次実施していくという。
そして、2030年度までに、保有する全国の施設の物件共用部・自社利用部の電力をグリーン化する。すでに2022年度までに首都圏25棟のグリーン化は完了しており、自社保有の約180施設に順次拡大する。そして、入居企業や住宅購入者向けに太陽光パネルやエネファーム導入などグリーン化メニューを提案、提供していくほか、再生可能エネルギーを安定して確保。2030年度までに総出力約17.5万kWの新規メガソーラーを開発し、年間総発電量3.8億kWhの創エネ事業を推進する。
そして、建築時のCO2排出量を削減する取り組みについては、まず排出量を正確に把握するツールを整備し、従来とは異なり工種や資材別に排出量を見える化。建築会社には、削減計画書の提出を義務化する。
その他の取り組みとしては、森林活用のほか、企業投資や次世代の再生可能エネルギーの開発を支援。そして、GRBSBなど外部認証も積極的に取得していくという。
SCOPE3削減に向け、さらなる挑戦を続ける
続いて、三井不動産サステナビリティ推進部長 山本有氏から、SCOPE3の削減に向けた取り組みについて解説された。
三井不動産グループの排出量の内、9割をSCOPE3が占めているが、その中でも建設時排出は65%と大きな割合となっている。そこで「建設時GHG排出量産出マニュアル」の策定と公表を2022年にしており、さらに不動産協会内で検討会を組成。協会マニュアルを2023年6月に公表した。排出量の見える化については高精度の排出量算定を実現しており、各企業の削減努力が数値で反映できるようになっている。これらの共通ルールに基づき、2023年10月以降に着工する全物件でマニュアルを活用した排出量算出を義務化した。これは業界初の取り組みとなり、これを業界全体に広げるべく推進していく。
建築物においても、脱炭素時代の旗印となるような「新しい建築物の在り方」を提案し、木材を活用したビルなどイノベーティブな建物づくりを目指す。東京・日本橋には、地上18階、高さ84メートル、延床面積28,000平方メートルの木造賃貸オフィスビルが着工予定となっており、これは木造高層建築物としては国内最大級となる。同規模の一般的な鉄骨造オフィスビルと比較し、躯体部分において建築時の約25%のCO2排出削減効果を想定しているという。
木材の活用については、木を育てながら資源として活用し、森林を循環させていくことが大気中のCO2排出削減に貢献できるという。木を植えて育て、成熟してCO2吸収量が低下した木を使って建築し、伐採したあとに木を新たに植えることで森林を若返らせていく。植える、育てる、使うという「終わらない森」づくりのサイクルが、持続可能な好循環となるとした。
続いて、グループによる温室効果ガスの排出量のうち全体の20%を占める入居者や購入者による排出への対策について説明された。
入居テナントや生活者に向けては「暮らしのサス活」を通して、脱炭素化に向けた新しい暮らしの提案と促進により、行動変容を促していく。各住戸ごとのCO2排出量を見える化し、省エネ行動による削減量をポイント化。ポイントをインセンティブと交換し、省エネを楽しく続けてもらえるようにしていく。この仕組みを首都圏における2022年設計開始の分譲物件において標準導入(原則全物件導入)し、2024年より本格稼働予定となっている。さらに過去分譲物件の24万世帯を巻き込んだ取り組みに育てていきたいとした。
そして、さらなる排出削減を進めていくためには、イノベーションの創出による革新的な脱炭素技術が必要となる。三井不動産ではプラットフォーマーとして脱炭素イノベーションの創出を支援。京都大学との産学連携によるペロブスカイト太陽電池の共同研究や脱炭素に特化したVCファンドへの出資、東京大学との産学連携による共同研究など、オープンイノベーションや産学連携を促進する街づくりによって脱炭素化を加速させる。そして、今後も街づくりにおいて新時代に合わせた新たな”標準”を作っていくことに挑戦し続けていくという。