初代モデルの登場以来、かたくなにスタイルを変えてこなかったPFUの小型キーボード「Happy Hacking Keyboard」(HHKB)が、27年の歴史で初めてといえる大きな変化を伴う新製品「HHKB Studio」を発表しました。シリーズのアイデンティティであるキー配列こそ変えていませんが、シリーズ初のポインティングスティックとメカニカルスイッチの採用で操作性は大きく進化。特に、メカニカルスイッチの採用でカスタマイズの幅が格段に広がり、より自分好みの1台に仕上げてられる点が魅力的だと感じました。
あのトラックポイントがHHKBにやってきた!
HHKBといえば、無駄をそぎ落としたコンパクトボディやキー配列がパソコンに精通した人を中心に熱狂的に支持されているキーボードとして知られています。ワイヤレス対応などのモデルチェンジを重ねても本体サイズやキー配列をかたくなに変えず、“変わらないこと”を売りにしてきました。
そのようなHHKBですが、今回登場した「HHKB Studio」は伝統の“変わらない”部分をしっかり堅持しつつ、シリーズで初めての装備や要素をいくつか盛り込み、HHKBらしさを保ちつつも新しさを感じさせる1台に仕上がっています。
まず変わらないのがキー配列です。英語配列モデル、日本語配列モデルともに伝統の配列を継承しており、この点は「HHKBでないと」と考える熱心なファンを多く抱えるHHKBらしいと感じます。さらに、HHKB StudioはBluetoothのワイヤレス接続にも対応しますが、内蔵バッテリーの劣化でキーボードの寿命を迎えることを避けるため、充電式のバッテリーではなく単3型乾電池を用いる点も継承します。
一方、変わったことは豊富。まず大きな変化が、マウスポインターを操作するポインティングスティックを搭載したことです。長らくThinkPadシリーズでトラックポイントの名称で採用され、「これがないとダメ」という根強いファンも多いデバイスです。デバイス自体は独自開発したもので、トラックポイントを徹底研究したというだけあって、わずかな指の動きにも吸い付くように動く操作感は良好で、作り込んだことを感じます。
合わせて、クリックボタンもスペースバーの手前に設けられました。左右とセンターの3ボタン式で、センターボタンを押しながらの操作で画面のスクロールもできます。クリックボタンはロープロファイルの茶軸スイッチが採用され、操作性も良好。ちなみに、このクリックボタンも自由にカスタマイズできるため、親指で押せるCtrlキーとしても割り当てられ、重宝します。実質的に、HHKBに3つのキーが増えたと言ってもよいでしょう。
もう1つの変化がジェスチャーパッドの搭載です。本体の左右側面と手前側左右の4カ所にタッチセンサーを搭載し、指で左右になぞることで画面のスクロールや各種パラメーターの調整、ボリューム調整などができます。実際に試してみると、基本的にホームポジションから指を離さないと操作できないので、特に手前側のパッドは慣れがいりそう。響く人には響きそうなデバイスですが、誤操作が心配ならば機能をオフにできます。
Cherry MXのキースイッチが使える! キーキャップに“落とし穴”
操作デバイスが追加されたHHKB Studioですが、最大の魅力はメカニカルスイッチを採用し、多彩なCherry MX互換のキースイッチが使えるようになったことです。
静電容量無接点方式のキースイッチを採用していたこれまでのHHKBは、ユーザーがキースイッチを交換することはできませんでした。「静音タイプを購入したけど、ある程度タイプ感がある方がよかった」と感じても、キーボードを買い替えない限りはその願いは叶えられませんでした。
しかし、HHKB Studioは市販のさまざまなCherry MX互換のキースイッチが使え、しかもホットスワップ対応なのでハンダ付けの手間もなく手軽にキースイッチが交換できるようになりました。標準搭載の静音リニアスイッチは打鍵音があまりせず、オフィスでも周囲に気兼ねすることなく使えますが、自宅で使うならば上品なタイプ感が伝わるタクタイルスイッチや、明確なクリック感が得られるクリッキースイッチにするのもアリ。「HHKBでHoly Panda」「HHKBで青軸」はインパクトがあると感じます。
先に述べましたが、3つのクリックボタンもメカニカルスイッチが採用されており、こちらもホットスワップで簡単に交換できます。キースイッチは、背の低いロープロファイルのスイッチとなり、選択肢の幅はやや狭まりますが、それでもさまざまなスイッチに置き換えられます。
キースイッチが変わったことで、キーキャップ(キートップ)も市販のCherry MX対応のものに交換できるようになりました。標準状態の墨ボディは、ボディとキーキャップの質感や色合いが同じで、よく言えば一体感があるものの、悪く言えばメリハリのない地味な印象を感じます。キーキャップを変えることで、見た目も触感もガラリと華やかに変えられ、より自分好みの1台に仕上げられます。
ただ注意したいのが、市販のキーキャップの利用にはいくつかの制約が存在すること。まず、ポインティングデバイスとキーキャップが干渉するため、「G」「H」「B」のキーキャップは一部を削る必要があります。市販の電動工具を使えば割と簡単に削れますが、もし失敗するとそのキーキャップだけを買い直すのは難しいので、加工には勇気がいります。
さらに、一部の市販キーキャップはスペースバーが適合しない場合がありました。HHKB Studioのスペースバーは、左右のスタビライザーの位置がわずかに外側寄りに設けられているようで、手持ちのDomikey製のキーキャップはスペースバーが正しく装着できませんでした。キーキャップのメーカーがHHKB Studioに対応するかどうかを案内してくれればよいのですが、しばらくは“人柱”の情報に頼るしかなさそうです。
カスタマイズが思う存分楽しめる新生HHKB
これまでのHHKBは、キースイッチやキーキャップ、カラーなどのカスタマイズがほとんどできず、完成されたものをそのまま使うキーボード、という印象がありました。しかし、Cherry MXのキースイッチを採用するHHKB Studioはカスタマイズの自由度が格段に高くなり、キーの割り当ても自由に変更できることから、より好みに合った1台に仕上げて愛着が深まるのが魅力だと感じます。キーキャップの互換性の乏しさは気になりますが、キーキャップの3Dデータを公開していることから、さまざまなメーカーからHHKB Studio対応キーキャップが登場することを期待したいところです。
価格は44,000円と高めですが、ポインティングデバイスの追加やメカニカルスイッチの採用など、従来のHHKBからの改良幅が大きいことを考えると割高感は感じません。基本的な設計が優れているため、カスタマイズ前提のベースモデルとして自作キーボード派にも注目の1台となりそうです。