あなたは職場で自分の意見を言えているでしょうか。あなたの考えは、きちんと同僚や上司に理解してもらえているでしょうか。残念ながら、そこに課題を感じているビジネスパーソンが多いようです。

私は国内唯一のビジネス数学教育家として活動をしています。数字に強いロジカルパーソンを育成することをテーマに、企業の研修やセミナーなどでビジネスパーソンの皆さまにお会いします。

仕事柄、「質問はありますか?」と尋ねる場面があります。ところが、積極的に質問や意見を言うビジネスパーソンはほとんどいません。

しかし、彼らは質問したいことや主張したいことがないわけではありません。ないのではなく、それを私に言葉で説明することに苦手意識を持っているのです。

  • 自分の考えを「すぐに」言葉で説明できますか?

実際、研修の休憩時間などに個別に対話をし、私が"引き出す"ことで「それが聞きたかったんです」「それが言いたかったんです」「整理していただいてありがとうございます」と笑顔で感謝されます。

感謝自体ははうれしいですが、一方で私は複雑な気持ちになります。それほどまでに、現代のビジネスパーソンは言語化スキルがないからです。

そこで、私がしている"引き出す"とは何をしているのか、少しだけご紹介することにします。

まず、欠かせない質問があります。

「ひとことで言うと?」

そもそも、ひとことで言えないものを言語化などできるわけがありません。理屈っぽいようですが、これはとても大切なことです。ビジネスにおいては、これがそのまま質問の第一声になったり、意見を言う際にメインとなる主張になったりします。

"ひとこと"が言語化できたら、次にこのような質問をします。

「聞き手がそれを理解するためにはどんな情報が必要?」

ここで重要なのは、「聞き手がそれを理解するために」というスタンスです。言語化とは、言葉にすることですが、言葉とは誰のためにあるかというと話し手のためにあるのではなく、あくまで聞き手のためにあります。聞き手が理解するために言語化するのです。

この問いがあることで視点が「自分」ではなく「相手」になります。そして、最後に次の質問をします。

「その情報を、どんな順番で伝えればよい?」

先ほどの質問で、相手が理解するために必要な情報を列挙しました。もし、それが複数あるのなら、それらには順序という概念が生まれます。

最初に言うべきものを最後に言っては伝わりませんし、その逆も然りです。相手に言葉で伝えるにあたり、順序というものは以外に重要です。

以上の3つを私から問うことで、研修やセミナーの参加者は自分の言いたいことや聞きたいことが言語化され、私にわかるように(!)質問をしたり意見が言えたりします。

もし、言語化が少しばかり苦手に感じている方がいたら、この3つの問いを自分自身にしてみることをおすすめします。少し大袈裟かもしれませんが、言語化のための3ステップとして、マイルールにしてしまうのです。

そもそも私たち人間は論理的にできていません。ふと思いついたことや、直感的に思ったことにいちいち論理的な理由はありません。しかし、難しいことに、ビジネスの世界では意見や質問にいちいち論理が求められます。

そういう意味で、ビジネスコミュニケーションにおける論理とはたいてい"後づけ"なのだと思います。後づけなのですから、後からつければよいのです。先ほどの3つの質問がそれを証明しています。

誰でも今日からすぐにできることです。日常の何気ないテーマで練習してみてはどうでしょうか。一例を挙げておきます。

・内閣総理大臣に質問したいことは?
・SNSなどでの誹謗中傷に関するあなたの意見は?
・あなた自身の魅力は?

なんとなく思っていることを言語化するとは、こういうことです。あなた自身の魅力、伝えたい人に伝わることを願っています。

詳しくは、拙著『思いつきって、どうしたら「自分の考え」になるの?』(日本実業出版社)をお読みいただければと思います。あなたの課題解決にお役立ていただければ幸いです。

著者プロフィール:深沢真太郎(ふかさわ・しんたろう)

ビジネス数学教育家。BMコンサルティング株式会社代表取締役。一般社団法人日本ビジネス数学協会代表理事。明治大学客員研究員。数字に強いロジカルパーソンを育成する「ビジネス数学教育」を提唱する人材育成の専門家。初のビジネス数学検定1級AAA認定者。