日本初公開となったソニー・ホンダモビリティ「AFEELA」は、はたして革新的なクルマなのでしょうか? プロトタイプに乗り込み、特殊な形状のステアリングや眼前に広がる大型ディスプレイなどを実際に触ってみました。現時点での注目点は3つあると筆者は考えます。
ソニーとホンダがタッグを組んだ「ソニー・ホンダモビリティ株式会社」が開発を進めるアフィーラ。2023年10月時点での注目点は3つあると筆者は考えています。
1.AFEELA Prototypeはソニーとホンダ、どちら寄りなのか?
2.HMIにはどんな仕掛けがあり、どれほどワクワクさせてくれるのか?
3.SDVの進化には誰が関係し、どんな領域まで踏み込むのか?
ソニーのクルマ? ホンダのクルマ?
まず1点目。結論からすれば、どちら寄りでもないクルマです。AFEELA Prototypeというひとつのキャンバスに、ソニーとホンダそれぞれが持つ強みと個性が描かれた、と言い換えることができます。
両社に共通しているのは“技術は人のためにある”という経営理念です。
ソニーが作り上げたコンパクトな「トランジスタラジオ」(1955年)は、日本中に情報をくまなく行き渡らせることで人々に貢献しました。一方、ホンダの通称「バタバタ」(1947年)は、戦後の経済を個々の移動という観点から下支えした経緯があります。加えて、「日本製品=小さくて優秀」というイメージの定着にも両社は大きく貢献しました。
両社が成し遂げてきたこれらの偉業に、AFEELAブランドが掲げる先進性と、高付加価値商品としての話題性が上乗せされている。そう感じられました。
見たことのないHMIは作れる?
次に2点目。HMIとは「ヒューマン・マシン・インターフェース」(Human Machine Interface)の略語で、「人と機械の接点」と解釈されています。パソコンを効率良く活用するキーボードやマウスはHMIの代表例です。昨今では「I」を「Interaction」(≒対話)と定義して、人のふるまいまでを予測した開発が進められています。
扱いやすいHMIを実装することで、人(ドライバー)と機械(車両)の協調によるより安全な運転環境を作り出したり、拡張させたエンターテイメント機能によって仮想現実の世界をより身近なものにしたりすることができます。
AFEELA Prototypeでは、車内前方に広がる大きな液晶パネル「パノラミックスクリーン」がHMIとして大きな役割を果たします。運転席前の液晶パネルは運転操作に必要な情報に集約させながら、車両中央から助手席までは1枚の大きな液晶パネルで構成しています。
数字は未公表とのことでしたが、運転席前は12.3インチが1枚、大きな液晶では12.3インチが横に2枚程度連結されたイメージで、運転席や助手席に座ると「インパネ=液晶パネル」という印象です。
ただ、こうした大型化した複数の液晶パネルの採用は、間接視野の有効活用という観点から他社のクルマでも多く見受けられ、目新しくはありません。たとえばメルセデス・ベンツのBEV「EQS」は、新世代HMIとして採用した大きな液晶パネルを特徴としています。それこそ、ホンダのBEV「Honda e」も複数かつ大型の液晶パネルを実装しています。
AFEELA Prototypeでは、そこに映し出す映像や提供する仮想現実の世界に拡がりを大きく持たせています。ここが、他車とは異なる大きな特徴であるとのことです。
大型液晶パネルを備える他のBEVと細かく比較してみると、操作性の上から大きな違いがありました。どのクルマも液晶にはタッチパネル方式を採用していますが、AFEELA Prototypeは画面内コンテンツの動きがスムースで、指の動きに対する遅れがほとんどありません。とくに、素早い指の動きへの追従性が優秀でした。
「液晶パネルはソニーがこれまで培ってきた技術をもとに開発していますので、絶対の自信があります!」(AFEELAの技術説明スタッフ)の言葉にも説得力があります。
運転操作にもっとも大切なステアリングにも注目しました。ご覧のように、ステアリングの形状は丸型ではなく、テスラなどにも採用され、世界的に搭載モデルが増えつつある「ヨーク型」(凵に近いステアリング形状)です。
「運転席前の液晶パネルが隠れないように、開発当初からヨーク型ステアリングの採用を決めていました」とは前出の説明スタッフ。運転席に座ってみると、確かに直進状態ではまったく画面が遮られず、左右にステアリングを30度ほど操作しても、液晶パネルは部分的に隠れる程度でした。
ステアリングの根本に据えられたシフトレバー(PレンジやDレンジの操作に使う)には、ブレーキオートホールド機能のオン/オフボタンが付けられていました。走行時には必ずPレンジからシフト操作を行うので、そのレバーに運転支援機能であるブレーキオートホールド機能ボタンがあるのは理にかなっています。
「育てるクルマ」の真意とは?
最後に3点目。SDVとは「ソフトウェア・デファインド・ビークル」(Software Defined Vehicle)の略語で、「ソフトウェアの定義やアップデートで進化するクルマ」と解釈されています。アップデートされる情報の質と量、そして鮮度が、この先の評価を大きく分ける分野です。この進化形態はクルマに限らず、あらゆる分野で実装されています。
AFEELAのSDVは「AFEELA共創プログラム」(2023年10月現在の仮称)と定義された仕組みの上で発展させていくといいます。詳細は後日発表とのことですが、前出の説明スタッフは「AFEELAの哲学に共感いただける世界中のパートナーとアプリケーションやコンテンツを開発することで、ソニーとホンダの手による”育てる”クルマが生まれます」と意気込んでいました。じつに夢のある話です。
実際、AFEELA Prototypeにデモンストレーションとして搭載されていた360度サラウンド音響システムのすばらしさを車内で体感し、開発陣の意気込み自体は伝わったものの、正直、筆者には「AFEELA Prototypeの強烈なストロングポイントはココですね!」という実体がつかめませんでした。
失礼を承知の上で述べれば、アプリケーションで進化させていくことを「育成」と呼ぶのなら、最先端技術のほとんどは継続的に進化するソフトウェアで成り立っています。つまり、新しいアプリケーションの追加や上乗せで進化しているため、それだけでは新しさは感じられないのです。
翻って、ソフトウェアがハードウェアの評価を大きく左右することは、これまでの工業製品ではよく見られる事象です。たとえば、ソニーでいえば「プレイステーション」もそのひとつ。一般的に、ゲーム機器では柔軟な発展性を持たせたハードウェアの設計をすることが求められます。
加えてプレイステーションでは、任天堂やセガなどライバル企業のゲーム機器を研究し、さらに没入感を高めつつ所有満足度も同時に向上させる、ユーザーの笑顔や驚きをイメージした設計思想が話題になりました。
もっとも、AFEELA Prototypeがプレイステーションのプロセスをそのまま踏襲するとは筆者も考えていません。が、「育てる」というキーワードに長らく接してきたソニーだからこそ、時間とともに認知度が高まり、成長していくクルマを作ってもらいたいと期待してしまうのです。
クルマとしての基本は
繰り返しになりますが、AFEELA Prototypeはクルマであり、移動体です。車両のダイナミクス領域を担当するホンダからすれば、安心安全の性能は一歩も譲ることはできないはずです。
パノラミックスクリーンやヨーク型ステアリングについては、静止した状態で触れた限りでの印象を述べています。走行時の車内では縦、横、斜め方向の振動がシートを通じてドライバーや同乗者に伝わりますから、タッチパネルの操作感は運転時の評価も大切です。
ヨーク型ステアリングでは、丸型のようにグルグルとステアリングを回すのではなく、使い勝手の上から左右方向にそれぞれ180度以内でフルロック(いっぱいまでステアリングを切ること)になることが求められます。
この実現には、ステアリングとタイヤを電気信号で結ぶ「ステア・バイ・ワイヤ」(Steer By Wire)機構、もしくは高精度の「バリアブル・ギア・レシオ」(Variable Gear Ratio)機構が不可欠になると考えられます。
以上、筆者の観点からAFEELA Prototypeの注目点を3つご紹介しました。「ジャパンモビリティショー2023」(JAPAN MOBILITY SHOW 2023、一般公開日:10月28日~11月5日、会場:東京ビッグサイト)にはソニー・ホンダモビリティがAFEELA Prototypeを出展します。次は是非、皆さんの視点で感じて頂きたいです。