加齢による肉体の衰え。老化とも言われる現象は、ある年齢以上の男女は大なり小なり気になるイシューだろう。
先日、横浜市立大学発のベンチャー企業イチバンライフが「AYURMASTER(アーユルマスター)」シリーズの新製品の発売を発表した。当日の模様を紹介したい。
植物が細胞を若返らせる
分子生物学、細胞遺伝学を専門に横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科 長寿科学研究室で名誉教授を務める鮎澤大氏が率いる同社。
発表の冒頭で「製品の基盤は細胞の若返り」と鮎澤氏はその特長を説明する。さらに単なる健康長寿ではなく、麗しく健康に長く生きると強調するのだった。
「人は誰でもライフワークを持っていますが、(人生の)時間が足りない。私もやりたいことが沢山あります笑。そのため長生きしないといけないのです。また日本社会も生涯現役、熟年労働者の活用などで再生すると私は考えています」
この考えを実現するため、鮎澤氏は事業を行っているようだ。では老化の状態から若返るのはどういう状態なのか?
「極めてシンプルで簡単です。若い時は老化細胞が少ない、年を取ると老化細胞が多い。ところが、この誰でも分かる結論に至るには膨大な研究が必要でした」と同氏。
また、真実はコンパクトでビューティフル、一言で済むのだとも言う。
その上で、細胞の若返りに必要な三要件として「1.生体バランス保持」「2.老化因子の軽減」「3.組織器官の再生」を挙げる。培養細胞では生体のバランスを取るだけの1だけだったが、体の中の細胞では2と3が必要だったそうだ。
「生物はアンバランスが好きなので、放置するとアンバランスとなる。しかし若返りにはバランスを取るのが一番大事なのです」
ここで鮎澤氏のブレイクスルーとなったのがアーユルヴェーダ※との出会いだった。※インド亜大陸発祥の伝統医療で、同社は世界最古の長寿の科学と定義している
「ヒトの不老長寿を実現するには安全で効果的なものを使わないといけません。それには何が必要か? アーユルヴェーダで使われるハーブが最適なのでした」
植物は多彩な二次代謝物を合成し、自らの生体反応の調節や周囲の環境適合に利用する。そして、なぜか分からないが動物にもそれは有益だと言う。
「動物の役に立つために作っているとは思えません、不思議ですね。これは誰も答えを見いだせていません。動物は植物のおかげで生きることも健康長寿になることもできるのですね」
アーユルヴェーダでハーブは医療用に使われていたが、同社は美容に利用。鮎澤氏の定義でいうところの長寿ハーブと解毒ハーブを組み合わせ、その相乗効果を活用しているそうだ。
「ハーブの中で特にアマラキ(アムラ)に着目しており、『多数の酵素反応を調節』『多数の遺伝子の発現を増減』『全身組織の再生』という大きな特徴があり、特に3つ目が一番重要です」
ほとんどすべての細胞に効くという3番目の特徴は、今までの増殖因子とは異なる新しいメカニズムだと、鮎澤氏は強い調子でその効果を語るのだった。
これらのハーブを成分とした商品として、11月1日に「マルチオイルセラム (フェイス•ヘア美容オイル)」(1万2,100円/40ml)、12月1日に「ソーマ ハーバルドリンク(総合健康飲料)」(3,240円/50ml)が発売される。
起業した経緯
元々は東京大学分子細胞生物学研究所で「細胞老化&不死化」を研究していた鮎澤氏。兼任で国立遺伝学研究所にて遺伝子の研究も行っていた。そんなアカデミック畑の同氏がなぜ起業し、実業家として活動しているのか?
そんな疑問をぶつけたところ、「東大時代に在籍した研究室は日本の分子生物学の起点となった場所でした。そのため研究の方向が決まっています。最初は私もそれでよかったのですが、不老長寿などに専念して研究できる雰囲気ではなかったのです」と当時を振り返る。
研究室が培ってきた研究テーマを脈々とつなぎ、その文化を継承していくのはとても大事なことだ。ただ自分に合わない場合は? 老化と若返りに関心を持ち、自身の立ち位置に違和感を抱き始めたと話す。
「そんな時、横浜市立大学から研究所を新設する誘いがありました。何を研究してもいい、設備は最新、人も集めていい。こんないい話はなかなか無い笑」
新設された研究室は「天国のような場所」だと鮎澤氏が言う状況、では、そこでなぜ起業というチャレンジを決意したのか?
「不老長寿の研究は理屈だけでは机上の空論。実現しないと意味がないのです。そこでビジネスにし、有効な製品を作らないといけないと思っていました。また当時は産学連携の観点から政府が起業を後押しする状況、だったらスタートアップを始めようとなったのです」
不老長寿の研究で世界をリードしてきたと自負する鮎澤氏。植物が無いと動物は生きていけない、植物には感謝すべきだし、その力には未知のパワーがあると明かす。
「今もほんの一部の植物の力しか分かっていませんし、それも陸上のものだけでした。実は今度海洋植物の研究に着手しています。陸上とはまったく異なり、しかも地球の表面の70%は海。今思いついたけど、例えば200年生きたというホッキョククジラ、400年近く生きるニシオンデンザメなどは代謝、成長が遅いのが理由とされていますが、もしかしたら未知の海洋植物も影響しているかもしれません笑」
夢物語かもしれないが、もしかしたら何か見つかるかもしれない。そんな期待も抱かせる同氏の話だった。