ソニー・ホンダモビリティ(SHM)は電気自動車「AFEELA」(アフィーラ)のプロトタイプを日本で初めて公開した。ITのソニーとクルマ屋のホンダが組んで作った「知性を持つモビリティ」は、普通のクルマとどう違うのか。実機のデモと発表会を取材してきた。
知性を持ったモビリティ?
アフィーラはソニーとホンダの合弁会社であるSHM(2022年9月設立)が開発している新型EV。プロトタイプをもとに開発を進め2025年前半に先行受注を開始、同年中に発売する。納車開始は北米で2026年春、日本で2026年中の予定。プロトタイプは「ジャパンモビリティショー2023」(JAPAN MOBILITY SHOW 2023、一般公開日:10月28日~11月5日)で見ることができる。
アフィーラで届けたい価値は「Autonomy」(進化する自律性、ADASや自律走行など)、「Augmentation」(身体、時空間の拡張)、「Affinity」(人との協調、社会との共生)の「3つのA」だとSHM。同社社長兼COOの川西泉さんは発表会で、アフィーラを「知性を持ったモビリティとして育てていきたい」とし、「昨今のAI技術の進化を積極的に取り込んでいく」と宣言した。
ホンダが入っているわけだからアフィーラのクルマとしての完成度は信頼できそうだが、正直いってこのクルマ、速いかどうかとか、乗り心地がどうかとか、フル充電で何kmくらい走れるのかといった、「普通のEV」で気になるようなポイントは、後回しにしておいてもいい気がする。最も気になるのは普通のクルマと何が違うのかだし、クルマの中で何ができるかだ。デモで確認できたことをお伝えしたい。
そもそもドアハンドルがない!
最近のEVにはドアハンドルがドアに格納されているものもけっこうあるが、アフィーラにはそもそもドアハンドルが付いていない。いわゆるBピラーにカメラが付いていて、持ち主(と、その家族とか?)だとわかればドアは自動で開く仕組みだ。出だしから面食らってしまった。
インパネは全体がディスプレイになっている。こういう作りはホンダのEV「Honda e」やメルセデス・ベンツ「EQS」でも見たことがあるが、アフィーラは画面を使って何ができるのだろうか。
ソニーが入っているので期待通りだが、アフィーラのディスプレイ(パノラミックスクリーンと呼ぶらしい)では映画が見られる。自宅のプレイステーションとネットでつなげばゲームもできる。ソニーの「360立体音響技術」を使って音楽も楽しめる。面白かったのは、パノラミックスクリーンの「テーマ」を変えられること。例えば「スパイダーマン」のテーマを選べば画面上に映像が映し出されたり、モーターサウンドがテーマに沿った音色に変わったり、車内のアンビエントライトがテーマに沿った色になったり(確か、スパイダーマンのときは赤だった)する。
みんなで育てていくクルマ?
ここまでは期待通りかつ想像通りな部分が多いのだが、アフィーラは川西さんの言葉の通り「育っていくクルマ」だ。クルマで動くアプリケーションやサービスについては、車外のクリエイターやデベロッパーと一緒になって開発していくというのがSHMの考え。アフィーラはスマホのようなもので、使いたいアプリをどんどん入れていけば自分だけの1台に育てられると考えればわかりやすいかもしれない。外部との協力に向けては車両データや走行データなどをできるだけ開示したり、クラウドAPI連携を行ったりする方針だという。
外部との連携を進めながら、具体的には何を作っていくのか。SHMが現時点で想定しているのは、「メディアバー(コンテンツ)」「パノラミックスクリーン(テーマ変更)」「eモーターサウンドの音源」「ナビアプリのマップ上の付加情報」「任意のアプリケーション/サービス」の5つだ。アプリケーションの動作環境はアンドロイドオートモーティブOSを予定している。「アフィーラをデジタルガジェットとして“いじり倒せる”ような」(川西さん)開発環境を整えようということらしい。
アフィーラがいくらくらいになるのかについては言及がなかったが、おそらくは超高級EVになるはず。プレステ5を買うにもけっこう勇気が必要だった人間としては手が出せそうもないのだが、新しいモノが好きな人、ガジェット好きな人、小さなころからプレステやスマホに慣れ親しんできた世代の人などにとっては、かなり魅力的なクルマに見えるのではないだろうか。どんなにいいクルマでも、インフォテインメント周りの使い勝手が悪いと古臭く感じたりしてしまうものだが、デモで少しだけ体験した限りでいえば、アフィーラにそういった心配はなさそうだ。