カイパーサット1、2
今回打ち上げられたのは、カイパーの試作機となる2機の衛星で、それぞれ「カイパーサット1 (KuiperSat-1)」と「カイパーサット2 (KuiperSat-2)」と名付けられている。また、両機を使った技術実証ミッションは「プロトフライト(ProtoFlight)」と名付けられており
両機は、米国のロケット企業ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の「アトラスV」ロケットに搭載され、日本時間10月7日3時6分(米東部夏時間6日14時6分)、フロリダ州にあるケープ・カナベラル宇宙軍ステーションから離昇し、高度約500km、軌道傾斜角30度の軌道に投入された。
その後、3時53分にカイパーサット2と、同54分にはカイパーサット1と通信を確立したことが確認されている。
衛星の質量などは明らかにされていないが、Kaバンドの通信装置やフェーズド・アレイ・アンテナ、パラボラ・アンテナ、簡単にカスタム可能な設計を取り入れたバスなどをもち、今後の実運用機の開発や運用に必要な技術の実証が行えるようになっている。また推進システムには、電気推進の一種のホール・スラスターが採用されている。
プロトフライト・ミッションでは、まず打ち上げ直後に、衛星上のさまざまなシステムとサブシステムの試験を始め、太陽電池パドルの展開に始まり、発電、テレメトリー(機体の状態を示す信号)、追跡、地上局と衛星との通信確立を実施する。
また地上では、カイパーのための開発されたハードウェアとソフトウェア両方の試験が行われ、カイパー・システムのインターネットへの接続、AWS(Amazon Web Services)を介したデータフローの試験、さらにミッションが進行するにつれて、ネットワークをエンドツーエンドで試験し、インターネット、地上ゲートウェイ、衛星、顧客端末の間でデータを送受信することが行われる。
ミッションの終了時には、衛星が宇宙ごみ(スペース・デブリ)にならないよう、まだ状態が正常なうちに自ら軌道から離脱し、大気圏に再突入して処分することになっている。
打ち上げに際し、プロジェクト・カイパーの技術担当副社長を務めるRajeev Badyal氏は「今日の打ち上げにより、『プロトフライト』ミッションの新たな段階が始まりました。道のりは長いですが、それでもエキサイティングなマイルストーンです」と語った。
「Amazonにとって衛星を宇宙へ打ち上げるのは初めてであり、ミッションがどのように進むかどうかによらず、私たちは信じられないほど多くのことを学ぶことになるでしょう。新しい宇宙システムをゼロから構築するのは大変な苦労がありましたが、私たちのチームは、ブロードバンドを必要とする人々に手頃な価格でブロードバンドを提供するという目標に向け、全力を尽くしてきました」。
Amazonによると、最初の量産衛星は2024年前半の打ち上げに向けて順調に製造が進んでおり、2024年末までに初期の商用顧客向けにベータ・テストを開始する予定だとしている。
またAmazonは、今後の衛星打ち上げに関して、ULAやブルー・オリジンのほか、欧州のアリアンスペースとも契約を交わしており、現時点で77回分の打ち上げを確保している。
衛星インターネット開発競争
大量の低軌道衛星を使ったインターネットの構築をめぐっては、スペースXのスターリンク(Starlink)が先行しており、すでに4000機以上の衛星を運用して全世界にサービスを提供している。とくに、ロシアによる軍事侵攻でインフラが破壊されたウクライナで活用され、大きな話題となった。
また、英国に拠点を置く「ワンウェブ(OneWeb)」も構築を進めており、すでに400機を超える衛星が打ち上げられているほか、米国内でも数社が開発を進めている。また、中国も国営企業の中国衛星網絡集団が、1万3000機もの衛星からなる衛星インターネット「国網」計画を進めており、今年7月には最初の試験衛星が打ち上げられている。中国ではさらに、複数の国営企業と民間企業による衛星インターネット計画が進んでいる。
Amazonはやや出遅れたとはいえ、圧倒的な資金力をもち、なにより自らさまざまなWebサービスを提供している企業が本格的に参入したことで、この分野での競争がさらに激化するものとみられる。
ただ、こうした革新的な技術は、デジタル・ディバイドの解消に役立つだけにとどまらず、スターリンクがウクライナで活用されたこと、そして中国が国を挙げて独自の衛星インターネット・コンステレーションの構築に乗り出したことにも表れているように、さまざまな面で社会を大きく変える可能性をもっており、今後どのように使われていくことになるのか、その動向には注意が必要である。
また、低軌道にそれも大量の衛星があることで、機体に太陽光が反射し夜空で明るく輝いてしまうことや、つねに地上に向けて通信電波が出ていることから、天体観測、天文学の研究に悪影響を及ぼす可能性も懸念されている。
スペースXなどは、天文学者のコミュニティとの連携を図り、衛星の反射率を下げるなどの対策を取っているが、完全な解決には至っておらず、今後両分野がどのように折り合いをつけていくかも大きな課題となる。
参考文献
・Amazon Project Kuiper latest updates: October 2023
・United Launch Alliance Successfully Launches First Mission in Partnership with Amazon
・Project Kuiper
・Here’s your first look at Project Kuiper’s low-cost customer terminals