9月22日に発売されたiPhone 15シリーズ。このうち、新しい金属素材であるチタンと、3nmプロセスの微細化を達成したA17 Proを搭載するiPhone 15 Pro / iPhone 15 Pro Maxについて「過度に発熱する」という報告が相次ぎました。
残念ながら、筆者は先行レビュー機、自前の機材ともに、特に発熱を経験しておらず、正直なところ蚊帳の外、という状態ではあります。しかし、発熱はサードパーティーアプリのバグが原因、というAppleの説明が、アメリカの一部メディアに対して行われていました。
Appleは日本時間10月5日に、iOS 17.0.3をリリースし、この発熱問題に対処しています。まだリリースされて間もない状態ですが、ユーザーの間からは発熱の改善が体感できたという声も挙がり始めました。
今回は、iPhone 15シリーズの発熱の問題が起きたことについて掘り下げていきます。
機種変更やiOSアップデートの直後はどのiPhoneも熱くなりやすい
iPhoneの発熱について、少し問題を切り分けていきましょう。
まず、iOSをアップデートした直後、あるいは機種変更してバックアップなどからセットアップした直後から最大で1週間程度は、極端に電池が持たなくなったり、処理が重くなったり、端末が熱くなったりすることがあります。
近年、Appleは毎年秋に新iPhoneの販売やOSのアップデートを実施するため、この時期に問題が特に起きやすいといえます。これら新端末への移行やアップデート時は“Spotlightの再構築”という処理が走るためです。
Spotlightは、iOS、iPadOS、macOSなどで検索機能を提供しています。例えば、iPhoneのホーム画面の「検索」という部分をタップすると検索窓が開きますが、ここに1文字でも入力するとアプリや連絡先、Webサイトの履歴などが表示されます。入力するごとに瞬時に結果が絞り込まれていくこと自体が、Spotlightが果たしている役割です。
Spotlightは端末内の情報を整理し、検索可能な形に整えます(インデックス化)。この処理が、OSアップデート時やバックアップから復元した際に走るため、負荷がかかることになります。そのため、新しいOSにしたら極端に電池が持たない、処理が重くなった、発熱する場合、ほとんどの場合は「しばし待つ」ことによってインデックス化が終わり、ほどなくして解決を見ることになります。
カメラアプリの使用中に熱くなる?
今回のiPhone 15 Proシリーズの発熱問題は、ある種の季節的な要因を超えて起きていることです。例えば、カメラでの撮影中に高温のアラートが出たり、急速充電中や特定のアプリを使っていると触れないほど熱くなった、などの報告がユーザーから上がっていました。
前述の通り、筆者の手元の端末(iPhone 15 Pro、iPhone 15 Pro Max)では、そうした事象を経験しませんでした。特に、先行レビュー期間中である9月16日ごろは、東京も30度を上回る気温が続いており、炎天下でのカメラテストは、排熱などに問題があるのであれば厳しめの環境だったと考えられます。
とはいえ、発熱が確認されるアプリの1つとして名指しされていたInstagramなどを含むアプリの通常利用を通じて、筆者は過度な発熱を体験することはありませんでした。
しかし、初期に購入したユーザーを中心に、50度近くまでの発熱を報告しており、Appleも問題を認識した結果、iOSのアップデートによる対処となったわけです。
新採用のチタンフレームによる排熱構造が影響?
Appleのリーカーとして知られるMing-Chi Kuo氏は、iPhone 15 Proシリーズの過熱問題について、「TSMCの最新3nmプロセスで作られたA17 Proとは無関係である」との見方を示しました。
The iPhone 15 Pro series overheating issues are unrelated to TSMC’s advanced 3nm node / iPhone 15 Pro系列的過熱問題,與台積電的3nm製程無關https://t.co/8dngejSnhM
— 郭明錤 (Ming-Chi Kuo) (@mingchikuo) September 26, 2023
その代わり、考えられる原因として、放熱面積の減少や、チタンフレームの熱効率を挙げています。iPhoneの軽量化を達成するため、排熱機構の設計上で妥協した可能性を指摘したのです。
これまで、iPhoneのProシリーズにはステンレススチールのフレームが用いられ、アルミを用いるスタンダードモデルとの差別化を図ってきました。しかし、ステンレスはアルミニウムよりも重く、iPhone 14 Proではステンレススチールのフレームだけで45gを占めるなど、Proシリーズの重量増の原因にもなっていました。
今回、AppleはiPhone 15 Proシリーズの外装素材をステンレスからチタンに変更したことで、6.1インチ、6.7インチ両モデルとも19gの軽量化を実現しました。このチタンフレームと、新たな内部構造であるアルミニウムのシャシーを「固体拡散」によって接合し、堅牢性と終始のしやすさ、そして内部の熱をフレームに素早く逃す構造を実現したとしています。
Kuo氏は、この新しいサーマルシステムに問題があり、内部の熱をうまく逃がし切れない事象が発生しているのではないか、と推測したのです。
サードパーティ製ソフトウェアの問題?
ただし、アップルはその後いくつかのメディアに対して、「iPhone 15 Proのチタンフレームの排熱性は、これまでのiPhoneの中でも優れている」と指摘し、構造上の問題ではなくソフトウェアの問題であるとしたのです。
9月30日の段階で、Appleによると、iPhoneの過度な発熱の条件の特定ができたとしています。1つは、iOS 17のバグが影響したと明かしたほか、サードパーティーのアプリがシステムに過度な負荷をかけていることがもう1つの原因だとしています。サードパーティーのアプリについては、InstagramやUberといった、現在のiPhoneユーザーには欠かせないアプリが含まれており、そのため多くのユーザーが発熱を体験することになったとみられています。
そもそもの問題として、OSはアプリが過度なリソースを消費しないように管理することも、役目として担っているはずです。そこがうまく機能していなかった点については、大きな疑問が残ります。
とはいえ、10月5日にリリースされたiOS 17.0.3へのアップデートで、アップルはこれらの問題を修正した、というのが経緯でした。さらなるアプリの対応も必要かもしれませんが、ある程度安心してiPhone 15を楽しむ環境が整ったといえるかもしれません。
熱問題は早めに解決しておくべきと考える理由
新しいハードウェアやアーキテクチャ、そして新しいソフトウェアは、テスト段階で予期できないトラブルを完全に取り去ることはできません。ここ数年、そうした問題があまり見られなかったiPhoneですが、2023年モデルはCPU、内部構造、使用する金属と、近年にない大きな変化を遂げたことの表れかもしれません。
今回、iOSのアップデートと、サードパーティーアプリの修正プログラムを通じて問題解決にあたっていますが、Appleとしては、発熱問題を早めに解決しておく必要がある、と考えています。
それは機械学習活用の問題があるからです。
iOS 17がサポートするiPhoneにはすべて、機械学習コアであるNeural Engineが搭載されています。そしてiOS 17では、言語処理にTransformerモデルを採用し、デバイス上で軽量な文字入力・音声入力支援と学習を行う仕組みへと変化しました。また、端末内の情報を機械学習処理し、提案を受けながら日記をつける純正アプリ「Journal」も今後登場する予定です。
これまで以上に、iPhoneとiOSは、ユーザーの操作の裏側で、機械学習処理による価値の創出を行う方向に進んでいきます。しかし、バックエンドの処理が動くことで発熱やバッテリー持続時間を短くしてしまっては、そもそもスマートフォンに最も求められる価値の1つであるバッテリー性能を毀損してしまいます。