「第23回テレビ朝日新人シナリオ大賞」の授賞式が17日、東京・六本木のテレビ朝日本社で行われた。
■「テレビ朝日新人シナリオ大賞」第23回の大賞&優秀賞を発表
2000年7月の創設以来、数多くのシナリオライターを輩出してきた「テレビ朝日新人シナリオ大賞」(主催・テレビ朝日、後援・朝日新聞社、BS朝日、東映、幻冬舎)。今回は「ラブストーリー」というテーマを設けてテレビドラマの脚本を募集、計1023編の応募の中から3編の受賞作品が決定し、本日の授賞式にて大賞の発表が行われた。大賞に輝いたのは、松下沙彩氏の『スプリング!』。優秀賞には伊藤彰汰氏の『雨のサンカヨウ』、寺岡恭兵氏の『スマートフォンより愛をこめて』が選ばれた。
■大賞に輝いた松下沙彩氏、受賞作への思いを語る
大賞を獲得した松下氏の作品『スプリング!』は、小論文をテーマにした、さわやか青春ラブストーリー。学校でも優等生でとおっている女子高生が、受かるはずといわれていた国立大の前期試験に落ちてしまう……。合格発表の会場で話しかけてきたのは、同じく試験に落ちたという同級生のバスケ部男子。今まで関わることのなかった2人が、後期試験に向けて小論文補習に臨むことに。2人で過ごすうちにお互いの知らない一面が見えはじめて……という物語だ。松下氏は授賞式で大学受験の際、小論文で合格したという自身の実体験をもとに今回の作品を描いたというエピソードを告白。「受賞作はシナリオ学校に通っているときに書いていた作品で、何度もプロットや脚本を修正して提出しました。作品の中で主人公が小論文を書くのですが、その中に“推敲”という言葉があります。この作品も推敲を重ねて、主人公と同じように仕上げて提出した作品です」と作品への思い入れを語った。
また、優秀賞に輝いた伊藤氏がかつて『オオカミくんには騙されない』『オオカミちゃんには騙されない』シリーズ(ABEMA)などを担当した経歴を持ち、同じく優秀賞の寺岡氏はKBC九州朝日放送の情報番組『アサデス。』のディレクターとして勤務中と、テレビ朝日に縁のある仕事に携わっていたことが授賞式で明らかになった。
大賞には賞金500万円、優秀賞には100万円が贈られ、授賞式では受賞者の3人にテレビ朝日代表取締役会長・早河洋氏より賞状が贈呈された。
■大賞:松下沙彩氏(39歳・ライター・愛知県在住)/『スプリング!』
大賞をいただけるとは思っていなかったのですごくビックリしています。受賞作はシナリオ学校に通っているときに書いていた作品で、当時の先生方や同期のクラスのみなさんにアドバイスをいただいて何度もプロットや脚本を修正して提出しました。作品の中で主人公が小論文を書くのですが、その中に“推敲”という言葉があります。この作品も提出前にたくさんの方に読んでいただいて推敲を重ねて、主人公と同じように仕上げて提出した作品です。ご協力いただいたみなさんに感謝いたします。
――作品を書いたきっかけは?
私はライターを職業としているのですが、ライターというのは誰かを取材して記事にするのが仕事です。でもあるとき、“それって人の話を聞いてきて書いてるだけだな”と感じ、自分でゼロから書いてみたいなと思ったのがきっかけです。
――賞金の使い道を教えてください。
子どもに何か買ってあげたいなと思います。あとは脚本に集中できるように貯金して、仕事を少し減らそうかなと思います。
――テレビ朝日で脚本を担当することになったらどんな作品を書きたいと思いますか?
今回のテーマであるラブストーリーは、実は自分では絶対に描くことができないと思っていた難しいテーマで、できればラブストーリー以外、お母さんの話、母親の物語を執筆したいですね。あとは声優さんが好きなので今、声優業界のシナリオに取りかかっているのですが、それがいつか使えたらなと思っています。
――小論文をテーマに据えたきっかけを教えてください。
小論文をテーマにしたのは、自分の体験談からです。私自身が大学受験のとき、前期試験で落ちてしまい、“もう終わったな”と落ち込んだのですが、1週間後の小論文の後期試験で5人の枠に入って受かったんです。恋愛ストーリーがどうしても思いつかなかったので、当時、自分自身には何も起きませんでしたが、もしあのとき恋愛のテーマが降ってきたらどうなるのかなと考え、自分の貴重な体験と掛けあわせて作りました。
――今回の受賞で人生が変わる“覚悟”をお聞かせください。
受賞をきっかけにまだ脚本の仕事をできると決まったわけではないのですが、今までも仕事をしながら地道に脚本を書いていたので、それを続けていき、いつか自分の作品が1本でも映像になったらうれしいです。
■優秀賞:伊藤彰汰氏(28歳・映像制作・東京都在住)/『雨のサンカヨウ』
私はABEMAに新卒で入社し番組作りをしていましたが、“脚本家になりたい”という思いが芽生え、会社を辞めてシナリオライターを目指していました。3年で賞を取れなかったら夢を捨てようと思っていましたが、今年がちょうど3年目でラストイヤーだったんです。だから今回の受賞は、“脚本家を目指しても大丈夫だよ”と言ってくださったような気がして、今はラストイヤーにならなくてよかったという安心感が勝ってます。これからも脚本家を目指していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
――賞金の使い道を教えてください。
飲みに行って女性と知り合って、またラブストーリーを生み出そうかなと思います。
――テレビ朝日で脚本を担当することになったらどんな作品を書きたいと思いますか?
僕は脚本家を目指すときに決めていたことがあって、“声なき声”を拾うことができる脚本家になりたいと思っています。あとは、めちゃくちゃお笑いが好きなのでコメディを描きたいですね。
■優秀賞:寺岡恭兵氏(37歳・テレビディレクター・愛知県在住)『スマートフォンより愛をこめて』
普段は福岡で情報番組のディレクターとして働いているのですが、この賞をいただいたので、福岡でドラマを作りたいなと思います。ありがとうございました。
――賞金の使い道を教えてください。
あまり考えていないのですが、このあと、ちょっと豪華なお寿司を食べようかな。あと、新しいパソコンを買います。
――テレビ朝日で脚本を担当することになったらどんな作品を書きたいと思いますか?
できればコメディ作品を描きたいなと思っています。あと、プロにしかできないことだと思うので漫画原作など、“原作もの”も挑戦してみたいなと考えています。
■選考委員・井上由美子氏
今年の傾向としては、題材がラブストーリーだったので、作品の登場人物も作者も全体的に若い印象がありました。それはとてもよいことかなとも思った一方で、題材や人物の人間関係などが似通った作品が多く、もう少しバラエティに富んだものを読みたかったなというのが、最終審査を終えた正直な感想です。一口にラブストーリーといっても、高校生の男女がいれば、老人の男女もあり、不倫もあり、LGBTQももちろんあります。60数年前、室生犀星が『蜜のあはれ』で金魚に恋をする話を描いたように、ちょっと尖ったチャレンジを次回は読みたいなと思っております。でも、そんな中でこちらにいらっしゃるお三方の作品は個性的で、筆力もずば抜けていたと思います。
大賞を受賞した松下沙彩さんの『スプリング!』は高校生の男女が小論文を通して恋を紡ぐ物語ですが、小論文という題材はなかなか見たことがなく、とても新鮮で、展開も無理がなく、作品の世界をスムーズに楽しめました。かなり推敲したということなので、「やはり推敲は大事だな」と自分でも反省しました(笑)。
伊藤彰汰さんの『雨のサンカヨウ』は、将来の見えない男子高校生が無戸籍の少女と出会い、恋をして成長するお話です。重いテーマですが、人物の造形やセリフがとても軽やかで、そのギャップもあって、とても面白い作品になっていました。応援したくなる物語でした。
寺岡恭兵さんの『スマートフォンより愛をこめて』は、偶然の出会いを夢見ていた女性が幼馴染と運命的に再会して、ストーカーとなる。しかし、実はその相手こそが、自分をストーキングしていたというラブコメ風味が効いた物語でした。
実は今回、3作すべて素晴らしかったので選考委員の意見も分かれたのですが、私は寺岡さんの作品を推させていただきました。ストーカーした相手が自分をストーキングしていたという設定は、思いつきそうで、なかなか思いつかない仕掛けですし、そのアイデアに溺れずに人物を魅力的に描こうという工夫を重ねているのが、とても伝わってきました。 お三方とも本当に素晴らしい才能で、ドラマへの愛が伝わってきました。今はみんな浮くのが嫌だそうで、学校などでも先生に褒められないように生きている子どもが多いと聞きますが、脚本家は浮いてなんぼの仕事。浮いたり批判されたりすることを恐れず、思い切っていろいろな世界を描いていってほしいと思います。3人がドラマ界を背負って立つ日を楽しみに待っております。
■選考委員・岡田惠和氏
今回はラブストーリーがテーマだったので、どういう作品が上がってくるのか、とても楽しみにしていました。全体の傾向としては激しい恋愛を描いた作品はほぼなく、激しさをラブストーリーに求めてないのかなという感じが逆に新鮮で面白かったです。その中で、個性豊かに愛を描いた3名の方が最終的に勝ち抜かれたと思います。
大賞を受賞した松下沙彩さんの『スプリング!』は、かわいらしい作品。小論文というテーマはぶっちゃけ、どう“画”にするのか難しいですが、どこで悩んで、どこが弱くて、最後にどう思ってそれを小論文に書いたのかということが、主人公たちの恋愛行動と結びついており、誠実で清々しい作品でした。キャラクターもセリフも巧みで、センスがあると思いました。
伊藤彰汰さんの『雨のサンカヨウ』は、ヒロインが無戸籍という最も強い枷を作ったドラマで、シリアスすぎたり、正義を振りかざしたりするドラマになりがちなところを、とても明るく、だからこそリアルに描くことに成功している作品だと思いました。読後感のよさも感じましたし、主人公のキャラクターがとても好きでした。主人公のお母さんのキャラクターの作り方も独特で、魅力があった作品だと思います。
寺岡恭兵さんの『スマートフォンより愛をこめて』は、とにかく面白く駆け抜けた作品。これはなかなかできることではなく、幼なじみの男女がもう一度恋に落ちるというシンプルな話ですが、構成も非常に巧みで思い切っていてセリフもうまいし、即戦力の人だなと思います。
僕は『スプリング!』に最も高い評価をつけさせていただいたと記憶しております。過不足なく、きちんと悩まれて、足したり削ったりした痕跡が感じられ、井上先生もおっしゃっていましたが、僕も頑張ろうと思わされました(笑)。僕ももう少しだけ頑張ってみようと思いますので、これから一緒にドラマ界を作っていけたらと思っております。
■選考委員・両沢和幸氏
受賞されたみなさん、おめでとうございます。最後に残った3本は、なかなか議論が割れました。
松下沙彩さんの『スプリング!』が大賞に選ばれましたが、これは受験の話でとてもユニークでしたね。昨年の作品が映像化されたので、今年も映像化されるならこのあと、さらに推敲しなければならないと思いますが、楽しみにしております。
伊藤彰汰さんの『雨のサンカヨウ』は戸籍のない少女と高校生のラブストーリーですが、この2人の恋がなかなか切なくて、僕はかなり好きでした。戸籍がないというドラマチックで強い枷を持ってきたこと、そして少女が働く風俗店で勉強するという展開が面白くて、オリジナリティーを感じましたね。
寺岡恭兵さんの『スマートフォンより愛をこめて』は、幼稚園のころに初恋の相手同士だった2人がずいぶん経ってから再会し、片方がなかなか気づかないと思っていたら、実は気づいていて、その思いを伝えられないという、A面とB面があるような凝った構成で面白かったです。個人的には、片方は結婚していて、次に会ったときは離婚している……くらいの展開があってもいいんじゃないかなと思いました。
総論として、ラブストーリーというお題が上がってくると、その言葉の響きからオシャレで楽しい話になりがちですが、日本語に訳すと“愛の物語”。先ほど両先生がおっしゃいましたが、愛の物語というのは非常にたくさんあるんです。芸術や文学は、だいたい愛と死が2大テーマ。だからこそ、ラブストーリーという軽い響きで収めてしまうのではなく、愛の持つ両面性や多様性に深い考察を加えた作品がもっと増えてくれるといいなと思います。いずれにしても、みなさんはこれからがスタートなので、頑張ってください。