コンパクトなスマートフォン、特に快適に使える高性能な機種となると年々選択肢が狭まっているなか、ASUSから「Zenfone 10」が9月8日に発売されました。
片手でも操作しやすい5.9インチのディスプレイを備えた小型ボディに最新のハイエンドSoC「Snapdragon 8 Gen 2」を搭載し、昨年のZenfone 9のコンセプトを踏襲しつつ完成度を高めてきました。今回はメーカーから実機をお借りし、その実力を試します。
3年連続での登場となったASUSの小型ハイエンドスマホ
Zenfoneシリーズといえば、日本でSIMフリー市場が活性化し始めた頃にはいわゆる「格安スマホ」の代表格としてコストパフォーマンスを重視したミドルレンジモデルを多数世に出していましたが、2019年頃からASUSのスマートフォン事業はハイエンドに注力する方針に舵を切り、Zenfoneシリーズのハイエンドモデルとゲーミングスマートフォン「ROG Phone」シリーズを毎年発売する2本柱のラインナップとなりました。
年1ペースでハイエンドモデルだけを出すブランドとなると市場における存在感は薄れてしまいそうなものですが、ZenFone 6/7とZenfone 8 Flipではアウトカメラとインカメラを兼ねた回転式の「フリップカメラ」、そしてZenfone 8/9/10では「コンパクト」という特徴を1世代で終わらせず継続的に与え、個性派としてのポジションを確立しています。
小型ハイエンドモデルとしては3世代目となる今回のZenfone 10ですが、サイズ的にもデザイン的にも、見た目は先代のZenfone 9とよく似ています。主な変更点としてはSoCがSnapdragon 8+ Gen 1からSnapdragon 8 Gen 2に変更されたほか、ディスプレイのリフレッシュレートが最大120Hzから144Hzへ(ただし144Hz駆動はゲームのみ)、512GBモデルを追加、ワイヤレス充電に対応といったところ。カメラ周りでは超広角カメラとフロントカメラのハードウェアが変更され、メインカメラに関しては動画撮影時の手ぶれ補正が強化されました。主な仕様は下記のとおりです。
- OS:Android 13
- SoC:Qualcomm Snapdragon 8 Gen 2
- メモリ(RAM):8GB/16GB(LPDDR5X)
- 内部ストレージ(ROM):128GB/256GB/512GB(UFS4.0)
- 外部ストレージ:非対応
- ディスプレイ:5.9インチ 2,400×1,080ドット(フルHD+)144Hz 有機EL
- アウトカメラ:約5,000万画素 F1.9(広角23.8mm相当)+約1,300万画素 F2.2(超広角12.5mm相当)
- インカメラ:約3,200万画素 F2.4(29.4mm相当)
- 対応バンド(5G):n1/n2/n3/n5/n7/n8/n12/n20/n28/n38/n41/n77/n78
- 対応バンド(4G):1/2/3/4/5/7/8/12/17/18/19/20/26/28/34/38/39/40/41/42
- SIM:nanoSIM×2
- Wi-Fi:IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax(6GHz対応)
- Bluetooth:5.3
- バッテリー:4,300mAh
- 外部端子:USB Type-C
- 防水/防塵:IPX5、IPX8/IP6X
- 生体認証:指紋認証、顔認証
- その他の機能:NFC、FeliCa(おサイフケータイ)、ワイヤレス充電対応
- サイズ:約146.5×68.1×9.4mm
- 重量:約172g
- カラー:ミッドナイトブラック、スターリーブル―、オーロラグリーン、エクリプスレッド、コメットホワイト
容量とカラーバリエーションの関係は少々複雑で、すべての組み合わせがあるわけではありません。以下に各モデルのASUS Storeでの価格と選択できるカラーをまとめました。
- 8GB/128GBモデル(99,800円):ミッドナイトブラック
- 8GB/256GBモデル(112,800円):ミッドナイトブラック、スターリーブル―、オーロラグリーン、エクリプスレッド、コメットホワイト
- 16GB/512GBモデル(134,800円):ミッドナイトブラック、スターリーブルー
「小型スマホあるある」の弱点を感じさせないことに驚き
そもそも、小型とは言わないまでも「大きすぎない」スマートフォンの選択肢がなぜここまで減ってしまったかといえば、よく言われるコンテンツのトレンドなどを理由とした需要の減少のほかにも、そもそも高度化した現在のスマートフォンを小型化すること自体の難しさも理由として挙げられます。
特に「ハイエンドかつコンパクト」というのはもはや矛盾した条件と言ってもいいほどで、CPU/GPU性能の向上や通信の高速化によって消費電力、言い換えれば必要とするバッテリー容量が増えていることに加え、熱対策の難易度も上がっています。
イヤな言い方をすれば、決して大きな需要が見込めるわけではない割に、作ったら作ったで「電池持ちが悪い」「発熱がひどい」と散々言われて見向きもされない可能性がある“触らぬ神に祟りなし”的ジャンルになってしまっているわけです。
その点ではZenfone 10は小型スマホ特有のネガをうまく消せている印象でした。本機種に搭載されているSnapdragon 8 Gen 2というSoC自体が発熱・消費電力の面では前世代より素性の良いものであることも貢献しているかと思いますが、極端な使い方をしなければ不満は出ないレベルといえるでしょう。
まず電池持ちに関しては1日外に持ち出してSNSやカメラ、Webブラウジングなど一般的な用途でしっかり使ってみても問題なし。長時間ゲームに没頭するような場面も想定して試してみましたが、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』の場合、3時間のプレイで20%減る程度の電池消費でした。
熱に関しては、側面のアルミフレームを通じて内部の熱を逃がしているため、ゲームをしたりベンチマークテストをしたりといった高負荷の状況では人肌より少し熱い程度に感じることはあります。どちらかといえば「人が排熱を感じない程度に性能を抑える」のではなく「しっかり排熱して性能を維持する」挙動のようで、長く連続してゲームを遊んでも次第に動作が重くなってくるようなことは少なく、快適なパフォーマンスを維持してくれました。
小型スマホにありがちな弱点としてはもうひとつ、ハードウェアとしての出来は良くても大画面を前提とした現代のコンテンツの作りに合わないというのもおちいりがちなパターンですが、実はそういった問題が出るほど極端な小型化はしておらず、適度に扱いやすいサイズといえます。
というのも、特に大画面化の傾向が強いAndroidスマートフォンのなかでは5.9インチは小さめですが、コンパクトモデルとは言ってもiPhoneでいえばminiではなく無印に近い画面サイズです。それほど極端に小さなものではないうえ、表示サイズやフォントサイズの設定も柔軟なので、Webサイトの閲覧や各種アプリの利用において特段手狭に感じる場面はありませんでした。
カメラは「ジンバル不要の強力手ぶれ補正」で動画ユーザーに訴求
スマートフォンメーカーが近年こぞって力を入れているポイントであり、裏を返せば大型化の一因でもあるカメラ。正直なところ、Zenfone 10のカメラは単純な画質勝負では、ハードウェアの性能的にも画像処理のチューニングの面でも他のハイエンドモデルに比肩するレベルではないと感じます。
もっとも、本体の厚さや重さとトレードオフになる部分でもありますから、過度のカメラ性能を求めるのは禁物……かと思いきや、実はカメラ周りでも小型ハイエンド路線と同様に狭く深いターゲットを狙った飛び道具があります。
Zenfone 10の広角カメラには「6軸ハイブリッドジンバルスタビライザー2.0」が搭載されています。Zenfone 9で初搭載された内蔵6軸ジンバルを進化させたもので、手持ちで撮っても本格的なジンバルに固定して撮ったような安定感のある映像が撮れます。百聞は一見にしかずということで、以下2本の動画をご覧ください。
上の動画は「HyperSteady」機能をオフ、下の動画はオンにして撮ったものです。どちらも同じぐらいの速度で歩きながら撮影したものですが、違いは一目瞭然。映像のブレやガタつきは画質やフレームレート以前の初歩として“素人っぽさ”が出てしまいやすい要素ですから、ここから編集して作品に仕上げたときのクオリティも大きく変わってくるでしょう。
ちなみに、HyperSteady機能には電子補正も含まれていて、このサンプルは内蔵ジンバルも電子補正も最大限に効かせてブレを取り切った状態です。電子補正の性質上、使うとどうしても画角が狭くなってしまうので、よほどアクティブなシーンでなければもう少し設定を抑えて内蔵ジンバルにゆだねた方がバランスよく使えます。
片手でも安定した映像を手軽に撮れるジンバル機能はコンパクトモデルとの相性も良く、新たな強みを増やして既存の小型派ユーザー以外にもターゲットを広げる意味で重要な機能かと思います。
ニッチでマニアックな需要と真剣に向き合った製品
あえてコンパクトなハイエンドスマートフォンを作ること自体、万人向けの製品というよりは少数でも他社が作っていないものを求めている層に刺されば良いというニッチ戦略といえますが、使ってみると細部に至るまで同様に「刺さる人には刺さる」工夫が散りばめられていることに気付きます。
あまりに細かい話なのでわざわざレビューで取り上げたところで何人が共感してくれるか……と思いつつ、個人的に「こういうのが欲しかった」「ありそうでなかった」と感動したポイントを2つだけ紹介しておくと、「システムUIの一部要素をメーカーカスタマイズ仕様からAndroid標準仕様に戻せる」「開発者向けオプションを有効にしなくてもアニメーション速度を変えられる」という点には、こんな細かいワガママまで拾い上げて実現してくれているのかと驚きました。
iPhoneのminiモデルも消え、かつてはコンパクトモデルを継続的に出していたAQUOSシリーズからも消えて久しく、Xperia 5シリーズも今年から「Xperia 1の小型版」ではなく「アプローチの異なる若年層向けハイエンド」に変わり、コンパクトなスマートフォンを求める人の選択肢はますます狭まりつつあります。
前半でも触れたように「大した数は出ない割に要求は多い」厄介なジャンルであるはずの小型ハイエンドモデルを3世代も継続してくれている時点で頭が上がらない状況ですが、すでにオンリーワンに近い立ち位置が出来上がりつつあることににあぐらをかかず、丁寧にニッチ戦略を突き詰めた製品と評価できます。