東京国立博物館 平成館で、10月11日から、特別展「やまと絵 –受け継がれる王朝の美–」が始まりました。同館で30年ぶりに開催されるこの「やまと絵」展は、総展示件数245件のうちの7割超が国宝、重要文化財で、「教科書や美術全集などでおなじみの作品が“ほぼほぼ揃った”夢のような展覧会」と、担当研究員の土屋貴裕さんは自信をのぞかせます。

「やまと絵」は、中国の唐時代の絵画、いわゆる「唐絵」の対の概念として生まれたもので、その歴史は平安時代前期にまでさかのぼります。両者の違いは主題の違いで、日本の人物や風景を描いたものを「やまと絵」、中国の人物や風景を描いたものが「唐絵」と区別されます。「やまと絵」は中国絵画の影響のもとで成立し、その理念や技法をとりいれ変化しながら独自に発展。室町時代になると「やまと絵」は「漢画」と対になり、四季の移ろいや月ごとの行事、花鳥・山水やさまざまな物語など、あらゆるテーマが描かれてきました。

  • 「四季の移ろい、お花で物語が繋がっているところや、砂場(浜辺)と天(雲や霞)の金の使い方が違うなど細かいところを拝見していると面白い」と音声ガイドナビゲーターを務める夏木マリさんが『浜松図屛風』の魅力を語る/重要文化財 室町時代・15~16世紀 東京国立博物館蔵

「『やまと絵』は日本美術の中心的な画題、主題であり、メインストリームと呼ぶべき主題です。『やまと絵』の歴史を見ていくことは、日本美術の歴史そのものを追うことに他なりません」と土屋さん。本展には、「やまと絵」の成立と発展を支えた平安貴族の美意識が現れた作品から、鎌倉時代に描かれた現存最古の「やまと絵屛風」や平安王朝時代を追慕するような作品、そして成熟期を迎えた室町時代の金銀でキラキラ輝くダイナミックな作品まで、優品が多数登場します。

  • 重要文化財 紫式部日記絵巻断簡 鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵

たとえば、日本絵巻史上最高傑作と名高い「四大絵巻」(源氏物語絵巻、信貴山縁起絵巻、伴大納言絵巻、鳥獣戯画/すべて国宝)が、30年ぶりに集結。現存最古にして最高峰の王朝物語絵巻と称される『源氏物語絵巻』は、平安時代の「やまと絵」を知る上でも貴重な場面となる「関屋・絵合」「柏木二」「横笛」「夕霧」を2週間ごとに入れ替え。また、神護寺に伝わるやまと絵系肖像画の大作「神護寺三像」(伝源頼朝像、伝平重盛像、伝藤原光能像/すべて国宝)や、平安貴族の美意識が現れた装飾経の中でも最も美しいと評される「三大装飾経」(久能寺経、平家納経、慈光寺経/すべて国宝)など、超豪華作品が入れ替わりでおめみえし、絵画のみならず工芸品や書の作品も登場。“教科書で見たことのある”作品が目白押しとなっています。

  • 国宝 鳥獣戯画 甲巻 平安~鎌倉時代・12~13世紀 京都・高山寺蔵 展示期間:10月11日(水)~22日(日)

  • 国宝 平治物語絵巻 六波羅行幸巻 鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵  展示期間:10月11日(水)~11月5日(日)

音声ガイドナビゲーターを務める夏木マリさんは、「『やまと絵』という言葉の響きから、おとなしい絵の展覧会かなと思いましたが、割と大胆不敵な作品が多く、絵師の人たちの底力を感じました。また、ひとつひとつの作品に描かれているお話が面白いんですよね。展示替えが多いので、私もたくさん足を運びたいと思います。絵師の人たちのエネルギーや突拍子のなさ、“今”をちゃんと表現したいという想いやエネルギーを感じました」と本展の魅力を語っています。

「どれも作品としての質が一級品、どの作品も展覧会のエースになるものばかりが集結しました」と土屋さんが強調するように、日本美術の王道的作品が一堂に会する貴重な機会。最初の目玉である「四大絵巻」が一堂に揃うのは、10月22日までなのでお早めに。そして、展示替えに合わせて何度も足を運んで、壮大で華麗、多彩で多様な「やまと絵」の世界に触れてみてはいかがでしょうか。

  • メインビジュアル(ポスター画像)

■information
特別展「やまと絵 –受け継がれる王朝の美–」
会場:東京国立博物館 平成館
期間:2023年10月11日(水)~12月3日(日)/※土・日・祝日のみ事前予約制(日時指定)
観覧料:一般2,100円、大学生1,300円、高校生900円他
※会期中、一部作品の展示替えおよび巻替えがあります。