オライリー・ジャパンは、2023年10月14日・15日の2日間、東京ビッグサイトにて「Maker Faire Tokyo 2023」を開催した。
「Maker Faire」は、誰でも使えるようになった身近で新しいテクノロジーをユニークな発想で使いこなし、皆があっと驚くようなものやこれまでになかった便利なものを作り出す「メイカー」が集い、展示とデモンストレーションを行うイベント。
「エレクトロニクス」「ロボティクス」「ダンボール」「キッズ & エデュケーション」「サイエンス」「デザイン & クラフト」「ミュージック」「モビリティ」「FAB & アシスティブテクノロジー」など多種多様なカテゴリのゾーンが設けられ、出展者・スポンサーなど280組が参加。創意工夫に満ちた展示やデモが行われ、来場者の注目を集めた。
ここでは、「Maker Faire Tokyo 2023」にて展示された物をいくつか紹介していこう。
●身近なテクノロジーを活用した"モノづくりの祭典"
■3Dプリンターで作る「レコード・プレイヤー」
「FAB & アシスティブテクノロジー」ゾーンの「7n3tfi」ブースでは、市販部品とオリジナル回路基板、3Dプリンターでプリンターを使用して作られた「レコード・プレイヤー」が展示されていた。
アームやターンテーブルなどが3Dプリンターで作成されており、イコライザーアンプやBluetooth機能を搭載。屋外でも手軽にレコードが聴けるほか、アンプやスピーカーなどと繋げれば高音質再生も可能となっている。
アーム部分に取り付けられた乾電池はアンプ用の電源。AC電源を使うよりも乾電池の方が音質が安定するという。レコードの音を懐かしむ年配者はもちろん、レコードを初めてみたという子供たちの関心も集めていた。
■ハンドトラッキングとBMIでドローンを操作
学生メイカーが集う「Young Maker」ゾーンの「BIRD(Builders, Innovators & Researchers in Drones)」ブースでは「Astral Project」として、ハンドトラッキングとBMIでコントロールするパーソナルドローンを展示。
「Astral Project」は、ドローンを「自由に動かせる目」として、自分を第三者視点でVRゴーグルから見ることで「疑似幽体離脱」を体験し、人間の視点拡張を探ったプロジェクトとなっており、ハンドトラッキング/BMIでの直感的操作からTPVで自身の身体を操る不思議さと新たな能力拡張の可能性を体験することができる。
今回はVRゴーグルを使ったデモが行われており、実際にドローンを操作するためには、まだ遅延などの解決すべき課題が残っているとのことだったが、着実に前進していると今後の進捗に自信を見せた。
■古い電化製品を使って電子楽器や音楽を産み出す
「エレクトロニスクゾーン」の「エレクトロニコス・ファンタスティコス!(東京Orchest-Lab)」ブースでは、古い電化製品を使った様々な楽器が展示されていた。
「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」は、新たな楽器を創作し、量産し、奏法を編み出し、徐々にオーケストラを形づくっていくプロジェクト。小型ブラウン管の画面から出る静電気をコイルピックでキャッチし、ギターアンプから音を鳴らす「テレナンデス」やPC冷却ファンを並べて、羽根の回転によって明滅するLEDの光を光ピックで電気信号として拾うことで音を鳴らす「ファンタール」など、その見た目と音で来場者を驚かせていた。
■運転のイライラをミサイルで撃退!?「CARTRIOT」
「エレクトロニクスゾーン」の「g.geek lab」ブースでは、「表情認識型カーミサイル発射機CARTRIOT(カートリオット)」を展示。CARTRIOTは「CAR(車)」と「PATRIOT(愛国心)」を合わせた造語とのことで、ちょっと物騒な感じもするが、はたしてどういったアイテムなのか?
最近では、「煽り運転」などがよく話題になっているが、運転中に無理やり割り込んでくる無謀な「ならずものクルマ」に怒りの感情を抱くというのは、クルマを運転する人なら共感できるところ。「CARTRIOT」は、そんなドライバーの怒りの表情を読み取ると、怒り警告灯の点灯と同時に砲塔が「ならずものクルマ」の方向を向き、発射音と爆発音が鳴り響かせる。あくまでもバーチャルでの攻撃だが、少しでも運転中のもやもやをスッキリさせたい人向けのアイテムとなっている。
「CARTRIOTでドライバーのイライラを撃退して、(道路交通上の)世界平和を目指しています」と笑顔で語るのは、「CARTRIOT」を開発した「g.geek lab」の阿部光史さん。電通に勤務していた頃に同僚たちと「D.GeeK Lab」として出展をはじめ、独立した現在も「g.geek lab」として出展を続けている常連メイカーである阿部さんには、「人の気持ちを変えるマシン」という思いが常に念頭にあるという。Maker Faire Tokyoでは、毎回新しいチャレンジをしたいという阿部さん。前回は音声認識による自動ドアを出展したが、今回は表情認識で動くマシンに挑戦した。「ミサイルというのは完全に僕の趣味です(笑)」。
CARTRIOTの制作にあたり、もっとも大変だったのがプログラミング。CARTRIOTには、コンピュータとして「Raspberry Pi」と「Arduino」を搭載しているが、表情認識を行うRaspberry PiのプログラミングにはPythonが使用されている。「実はPythonがまったくわからなかったので、後輩に教えてもらおうと思ったらスケジュールが合わず。ChatGPTを使いながら何とか構築していったのですが、それでもなかなかうまく行かず……」。最終的にプログラムが連携して動くようになったのは、イベント前日の夜だったという。
「本当に上手く行って良かったのですが、なぜうまく行ったのかがわからなくて……」と苦笑いの阿部さん。開発中は、細かい挫折と細かい喜びの連続で、完成したときには、喜びよりも安心が勝つみたいな気持ちだったと振り返る。「もっと時間があれば、怒りの度合いにあわせてゲージが動くみたいなシステムも組み込みたかったのですが、完全にタイムオーバーでした」。表情認識の精度もまだまだで、笑顔でも反応してしまうことがあるとのこと。「実は怒り顔よりも笑顔のほうが認識しやすかったりもするので、今度は笑顔に反応して動くマシンを作ってみようと思っています(笑)」。
子供時代から人を笑わせるのが好きだったという阿部さんは、「とにかくウケたいという気持ちが強くて、それによってみんなが幸せになればいいなと思っています。CMプランナーという仕事をしていることもあって、人のエモーションを動かしたいんですよ。CARTRIOTも、怒りの後に笑いがあるじゃないですか。今回は怒りと笑いですが、次は人を泣かせることができたら面白いなと思っています。そして、最終的には世界の人の心を動かせるようなものを作ってみたい」と今後への抱負を語ってくれた。