■さんプロフィール
石井メイドオリジナル 代表 1987年生まれ。短大を卒業後、世界中を旅する。旅の途中で経験したある出会いを機に、農家としてイチから勉強しようと決意。群馬県昭和村にある実家に戻り、コンニャクイモ農家の4代目として跡を継ぐ。現在はコンニャクイモの生産だけでなく、加工なども行う。 |
■横山拓哉プロフィール
株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長 北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。 |
社会課題解決のためコンニャクの加工に着手
横山:石井さんはご自身の代から加工を始めたんですよね。
石井:はい。2016年頃から始めました。農家を継ぐ前に世界中を旅していたのですが、ペルーのタキーレ島でマリオ君という3歳児に出会いました。島の子たちは歯を磨く文化がないのですが、僕たち旅行者が持っていったお菓子で虫歯になってしまっていたんです。どうにか食でその流れを変えていきたいなと考えていました。そして「コンニャクでいけるかもしれない」と思ったんです。
横山:誕生したのがコンニャクグミの「YUMPICK(ヤムピック)」ですね。この商品に懸ける思いを教えてください。
石井:正直、手段は何でもよくて、とにかく彼らに届く商品を作りたかったんです。ただ実家がコンニャク農家で父が3代目だったので、それを承継して商品を生み出せたら、実家にとっても、コンニャク業界にとってもいいだろうと。商品開発もすごくシンプルに考えていました。コンニャク=水物だから、ゼリーや既存のコンニャクではおそらく輸出の関係でダメで、乾燥していたりグミっぽいものの方がいいだろうと思っていました。
「とりあえずやってみる」で始まった加工品1作目
横山:加工はどんな手順で取り組んだのでしょうか。
石井:国内の市場を見ると、コンニャクは“かさ増し食材”だと思っている方がけっこういて。「おいしいコンニャクってないじゃん」と思ったんですよ。全部安いし「おもしろくないな」って。でも昔から祖母が手作りしてくれていた「板こん」は普通においしいし、そういうものを残していかないと誰も作れなくなる……。そう思って加工をスタートしました。
横山:手作りの「板こん」は、市場に出回っているものとは少し違うんですよね。
石井:板の形というより、もっとゴツゴツした手作り感のあるコンニャクです。2016年頃から加工を始めて、2018年頃から売り始めたのですが、最初はおつまみで食べられるように味付けしたコンニャクも作ってみたんです。殺菌がうまくいかず破裂させまくり、やっと開発したのですが、商談会でバイヤーから「こんなの誰でも作れるよね」と言われてカチンときて。
「だったらめちゃくちゃうまいもの持ってってやるよ!」って思って、「生芋こんにゃく」ができました。
横山:過去の自分にアドバイスするとしたら何を伝えますか。
石井:「とりあえずやってみる」のは間違ってなかったと思います。ただ僕は自分でやらないと気が済まない性格で、そこは時間とお金がもったいなかったです。やってみてダメなら少し調べたり、メーカーに問い合わせたりする行動を一つ付け加えた方がいいですね。
おいしさにを追究した2作目、顧客視点を重視した3作目
横山:「生芋こんにゃく」の次はどんな加工品に取り組んだのでしょう。
石井:玉こんにゃくをデザートとして食べられるようなものを作ろうと思ったのですが、自分がのらなかったんですよ。何かの代わりがすごく嫌だったんです。今はデザート用ではなく、コンニャクの臭みが苦手な方向けの商品として販売しています。
横山:3作目は?
石井:コロナ禍でおうちで楽しめることがないかなと思って、コンニャクの手作りキットを作りました。メディアにも取り上げられて、めちゃくちゃ売れましたね。「とにかくお客さんに楽しんでもらえばいいや」と思っていたので価格もワンコインにしました。
横山:どれぐらい売れたんですか。
石井:1日数百個ぐらいだったと思います。計量や包装も両親にも手伝ってもらって家族でやっていたのですごく大変で。注文は何週間も続くし利益は出ないしで、ブーブー言われました。
さすがにコロナ禍が落ち着いてきたら「価格戻した方がよくない?」って(笑)。原材料の高騰もあったので、価格を変更しました。
苦戦したグミの開発、答えは身近にあった
横山:4作目にコンニャクグミ「」ができたんですね。
石井:グミは本当に何をやっていいかわからなかったんです。休日に産業技術センターに通って水分活性を調べたり、ゼリー状のものをグミっぽくする試験もしました。一番の問題は賞味期限。コンニャクを乾燥させる時間が長ければ賞味期限は伸びますが、その分カチカチになって子どもの顎(あご)の力では食べられなくて。地元のメーカーや大手お菓子メーカーに問い合わせてみたり、とにかく調べたり、回り道して。でも結局、答えを持っていたのは地元の昭和村のメーカーさんでした(笑)
横山:一番身近にあったんですね!
石井:北毛久呂保 (ほくもうくろほ)さんというコンニャクの製造会社で、そこの社長はコンニャクの特性を本当によく知ってて、いろいろ教えてもらいました。
横山:石井さんは一時、クラウドファンディングにも取り組んでいましたよね。どんな狙いがあったのでしょう。
石井:社会課題を解決するために商品を開発しましたが、実際に売る時、お客様や世の中からどんな評価をいただけるかわからないじゃないですか。信念を持ってやってきたものが受け入れられなかったら、ちょっとショックだなと思ったんですけど。
横山:独りよがりだって突き付けられる感じですもんね。
石井:でもそれがリアルな声だと思います。もし受け入れられたらGOサインだという判断基準としてやってみました。結果、224人のサポーター がついてくれたんです。目標は20万円でしたが、その5倍の金額を達成して動き出すことができました。これを機に、ペルー大使館から声をかけていただいて、大使とお話ししたり、マチュピチュの観光大使をやっている片山慈英士(かたやま・じぇしー) 君や、JICAで南米にいる方とつながったりすることもできました。2022年12月には実際にペルーで歯磨き教室をやって、そこで「YUMPICK」を配って反応を見させてもらうところまで行きました。
横山:クラウドファンディングは動き出す判断基準になり、そこからまたつながりが広がる非常に良い機会だったんですね。
6次産業化のカギは取り組む理由を明確にすること
横山:加工に取り組むにあたってアドバイスがあれば教えてください。
石井:6次化をやりたい理由は何か、ですよね。例えば自分たちの野菜が余ってるからやるぐらいの感覚だったら、やらない方がいいと思います。6次化って生半可にやっても失敗するのがオチ。だから売れるか売れないかは別として、「これだけは譲れない」というところがないと、逆に労力とお金ばっかりなくなっていきます。
横山:加工品に取り組んでみて、よかったと思うことはありますか。
石井:栽培だけだと消費者の顔が見えませんでした。加工品を販売することで実際にどんな方が買っているのかを知り、そこからお客さんとつながれたのはよかったと思います。
何がしたいかという核があって商品を作ってる農家がいると、周りも活気づいてくる気がします。生産技術向上の話題だけだったコミュニティに、商品を売るという話題が出てくると、お客様と生産者、さらにその横のつながりもできてくると思います。
横山:石井さんの今後の展望を教えてください。
石井:僕たちの会社だけがうまくいくのでは全然意味がありません。地域で盛り上がってこそ。
お客さんから声をもらってやりがいを感じてみんなに共感してもらって。そうやって地域で盛り上がっていければ、おもしろいことが起こるような気がします。僕はコンニャクイモがグミに見えるんですよ。多分そんな人いないと思うんですけど(笑)。そのぐらいワクワクしますね。
(編集協力:三坂輝プロダクション)