あらゆる地域の課題解決や価値創造に対しての取り組みを続けているNTT東日本。今回は、埼玉大学を舞台に同社の社員らが講師を務め、課題解決型演習を展開。ビジネスの現場で培われたノウハウを学生達に提供することで、イノベーションを起こすためのスキルやノウハウなどの理解や、それを学ぶ機会を提供することになった。どのような授業が行われているのか、取材してきたので紹介しよう。

  • 1949年に新制国立大学として創立した埼玉大学。広いキャンパスでこれまで約9万人もの優秀な人材を社会に輩出してきた

■即戦力を持った人材育成を目指す

埼玉大学で行われたNTT東日本による課題解決型演習は、同社の先進的なビジネス事例や業務上活用している機材・設備に触れながら、社会課題解決を目指した仮説立案演習に取り組むことで、自らイノベーションを起こす人材に必要な考え方やスキルを学ぶものだ。演習は座学と実習を含む計16回の講義を前期、後期にそれぞれ開催されることが予定されている。

「2022年から埼玉大学様にご提案させていだたき、今日このような授業を開催することができました。地域の人材育成と発展に資する取り組みとして、理工学研究科の大学院生12名が参加いただいています」と語るNTT東日本 埼玉事業部 地域ICT化推進部 大木 亮氏。

埼玉大学はかねてより、知の地平の開拓と現代的課題の解決に資する研究力の向上を目指していることから、産学の垣根を越えて共通の価値観を持っていたため、今回の課題解決型演習の舞台としては最適だったといえる。

  • 当日、取材をエスコートしてくれたNTT東日本の大木氏

この演習の講師はNTT東日本の埼玉事業部長である市川 泰吾氏が務める他、ドローンを使って橋梁検査などを実施している同社の設備部、ドローン本体やサービスを提供しているNTT e-Drone Technology、電子教科書「EDX UniText」を提供するNTT EDXなどもノウハウを提供する。「弊社の中でもドローンパイロットを育てるカリキュラムがあり、それを学生版にアレンジすることで、社会で即戦力となりえる技術を学んでもらうことを目指しています」と大木氏は解説する。

  • 座学の講師を務める市川氏。電子教科書「EDX UniText」(NTT EDX製)を活用することで、画面への直接書き込み、保存などができるので授業そのもののログを残すことが可能

今回の課題解決型演習のカリキュラムの中には、NTT東日本がこれまでおこなってきた地域循環型社会の実現へ向けた実証実験の様子や事例が展示されている「NTT e-City Labo」の視察や、ドローンに関する法令制度・運用事例などの座学と合わせて実機操縦訓練を企画、またローコード開発ツール「Node-RED」と試作品開発で活用されるシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」を活用したIoT開発講習なども含まれる。

  • NTT e-City Laboでソリューションについて熱心に聞き入る学生たち

「カリキュラムの流れとして、社会実装されている数々の事例やIoTセンサー開発手法、そしてドローンの操縦などを学んでいただき、自分たちがベンチャー企業の社長になったらという立ち位置でビジネスモデルを作ってもらいます。そこで出てきたサービスのアイデアをプレゼンし、グループで検討、評価するといった模擬的なベンチャーピッチを体験していただきます」と大木氏は説明を続ける。

これにより、学生たちは社会で活躍する前から、即戦力に必要なスキル、自分自身に足りないスキルに気付くことができる。本人たちはもちろん、機会を作ったNTT東日本や埼玉大学にとっても、まさに狙い通りの人材育成につながるといえる。

■真剣な中にも笑顔のある実技演習

取材当日におこなわれていたのは、ドローン操縦の実技だ。ここでは指定したパイロンの上空までドローンを移動させるといった基本操作から、パイロンを縫うように進ませるスラローム、最後には任意の方向に向けたバケツの底に書いてある数字をドローンのカメラで撮影するといったより現場での作業に近い操作まで用意されていた。

  • 広い体育館での実技演習。ドローンの挙動はもちろん、法規制等によりできること、できないことまで学べるようになっている

学生たちはグループに分かれ、それぞれに専任の講師が付く中、交代で用意された実機の操縦を体験していく。スムーズに飛ばす人もいれば、思わぬ苦戦に冷や汗をかいている学生もいる。ドローンの操縦を実際に体験することでしか得られないリアリティが参加者の中に刻まれていく。

  • うまくいくこともあれば、思わずいきすぎてしまうこともある。楽しく操作を覚えると同時に、パイロットに必要なスキルも学んでいく

  • 一度慣れてしまえば、難易度の高いカリキュラムもご覧の通り

授業はどんどんと進んでいくが、学生たちは疲労も見せずに全員明るい表情を見せている。彼らに今回の講義について尋ねると、「最初に想像していたよりも、ドローンの操縦は難しいことが分かりました」、「遠近感がつかめず、なかなか思ったようには動かせない」、「ドローン1台の値段を聞いているので、壊さないよう気を付けました」、「ここでは飛ばせるけど、実際に街の中で飛行させるには法律を知らないといけない」といった意見が出てきた。実際のオペレーションを学んでいくうちに、彼らの中にドローン活用のヒントが見え始めていることが伺える。

授業でアドバイザーを務めたNTT東日本 埼玉南支店設備部 埼玉南サービスセンタ アクセスサービス担当の吉野 秋太氏は「ここで学んでいただきたいのは、ドローンは便利なものである反面、危険なものでもあるということ、そして、法律的にどんな申請が必要なのか、用途に応じた機体にはどのような種類のものがあるのかといったドローン活用に必要な知識です」と狙いを語る。ドローンの操縦に関してだけでなく、ソリューションの中で活かしていくための知識を与えることも重要な役割なのだ。

  • 実機を操作することでしか学べないことはたくさんある

■演習はいよいよ後半へ

今回のドローン講習で、前半のカリキュラムを終えた学生たち。後半からはいよいよ、自らがベンチャー企業の立場に立って、今回学んだことをベースとしたビジネスモデルの開発へ入っていく。

「例えばドローンを使った物流などは注目されているソリューションになります。しかし、どのルートでも飛ばせるのかといえば日本においてはそうではないですし、ドローンの推進力によって、持ち上げられる重さにも限界があります。そうしたことを座学や実習で学んでもらい、自分たちが将来ドローンを活用して何かを成し遂げたいと思った時のための正しい知識を得てくれればと思います。

また、実際にドローンをビジネスで活用しようと思えば、本体購入のコストや、故障や破損による修理費やメンテナンス費用もかかります。パイロットはどのように集めるのかといった部分にも気を使わなくてはいけません。細かいことですが、ビジネスモデルにすれば必ず出てくる課題を意識できるようになるだけでも、彼らが今後開発していくテクノロジーの進歩に貢献できると思います。この課題解決型演習が学生のみなさんの将来に役立てられるとうれしいですね」と最後に大木氏は語ってくれた。今後も埼玉大学およびNTT東日本の取り組みに注目していきたい。

  • 優秀な若者とドローンがどんな将来を描いてくれるのか非常に楽しみだ

※組織名称や役職などは、取材当時のものです