■山中大介さんプロフィール
ヤマガタデザイン株式会社 代表取締役 1985年東京都生まれ。三井不動産で大型商業施設の開発と運営に携わったのち、2014年に山形県庄内地方に移住し、街づくりを担うヤマガタデザイン株式会社を設立。観光、教育、農業、人材の4分野で事業を手掛け、山形庄内から全国にも展開可能な課題解決型街づくり事業のモデルづくりに挑む。 |
■横山拓哉プロフィール
株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長 北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。 |
100%の同意より3%と作る既成事実
横山:ヤマガタデザインは、最初はお一人で始めたんですよね。
山中:私は東京生まれ東京育ちで、山形県の庄内とは縁もゆかりもなかったんです。たまたま人のご縁で庄内に移住して、ヤマガタデザインを作ることになりました。きっかけは田んぼをコンセプトにしたホテル「スイデンテラス」。当時、未利用地を開発しなければならないという地域の課題がありました。そこの開発を誰がやるかといった時に、元々デベロッパーだったこともあって、地域の人たちから推薦をいただいて私がやることに。資本金10万円からスタートしてヤマガタデザインを作りました。ホテルを作る資金は、地域の企業40社から投資をいただきました。
横山:東京からポンっていくと、よそ者感が出る気もしますが……。
山中:最初はみなさんびっくりしていたと思いますし、賛否両論ありました。それは日本の地方都市全部そうだと思うんですよね。閉鎖的な環境でイノベーションを起こそうとする時、最初から100%の同意をとるのはほぼ不可能。だから3%の人と一緒にまずはやってしまうんです。その既成事実が、残りの97%の人たちの理解を得ることにつながっていきます。僕の場合の3%は、うちの会社の株主さんでした。
常識を疑いテーマを決める
横山:農業を始める際、他とは違うチャレンジだったと感じることはありますか。
山中:環境配慮に着眼して商品・サービスを選択する 、グリーンな市場を狙いにいこうと決めたんです。ここが一番常識を疑った点だったと思います。現在はハウス51棟のうち、約9割が有機JAS認証を取得しています。
農業のP/L(損益計算書)、B/S(貸借対照表)の観点で一番の課題だと思ったのは、利益
率があまりにも低いということ。それを改善するには、ビジネス的にはコストを削減する
のが、一番インパクトが大きいんです。ただ、それだと日本の農業の未来がありません。
やっぱり常に良いものを作って売り上げを上げることにチャレンジしないと、農業に関わ
らず全部の事業がうまくいかないんです。
横山:なるほど。
山中:今の一般的な農業は、どれだけ数量や重さを作るかがゲームのルールになっています。でも利益率を高めるには、数量ではなく単価を上げること。そのために何をしたらいいかと考えて、グリーン市場だと気づきました。当然、大前提として枯渇資源に頼らない農業や、自然循環の中でやることはすごく大事だと思っています。一方で、純粋にビジネスとして考えた時にも、単価の良い、一定の付加価値をつけられる商品を作ることができるグリーン市場は、大きな可能性があると思い参入を決めました。
横山:持続可能な経営を作っていけないと未来はないわけですね。
教育からマーケットの変化を見据える
横山:よく「有機栽培がいい」「慣行栽培がいい」という論争がありますが、山中さんはあくまでも持続可能な経営をどう成り立たせていくべきかという視点で環境配慮型のビジネスを軸にされたのですね。
山中:これからは農業のルールが変わります。それは、世の中の消費志向のルールが変わるから。世界人口の増加により、経済先進国の人口比率も上がって、その人たちの農作物に対する意識が、必需品から嗜好(しこう)品に変わっていく。環境に配慮したものを買おうという人たちが増えていくこと。また、更にその先を見た時にも、世の中のマーケットはグリーン市場に変わっていくと考えました。その一番大きなインパクトは教育です。今世界の先進国といわれる約40カ国でSDGs教育、環境教育が道徳の事業で導入されています。私の娘も、海洋プラスチックごみがウミガメなどの生物にどんな影響を与えているかを伝える本を道徳の宿題で持って帰ってきます。
横山:うちの子どもも同じですね。
山中:SDGs教育を刷り込まれた子どもたちが、これから20年後、30年後の市場を作っていくので、全く世の中の消費のニーズが変わっていくんですよ。そこに向けて今から準備していかなければいけません。国や農業界によるマクロな仕組みもそうだし、農家1人1人の意識も含めて。有機も慣行もどちらも必要だと思います。ただ、「マーケットが変わる」ことは確実です。だからその中で何を選択するかということだと思うんですね。
自動抑草ロボットの誕生
横山:今年、田んぼの雑草を抑える自動抑草ロボット「アイガモロボ」の販売をスタートされましたが、開発はどのようにスタートしたんですか。
山中:アイガモロボの開発者と、たまたま地方創生系のイベントで出会ったんです。当時、私は庄内のコメ農家に有機農業をやってもらいたいと思っていて、有機栽培において最大のネックと言われている除草に良いロボットがないか探していました。そこでアイガモロボが発表されていたんですね。当時、アイガモロボは大手自動車メーカーのエンジニアを中心に有志メンバーがボランティアで開発していたものでした。アイデアがおもしろかったので、その場で声をかけたら、後日その開発者ともう一人エンジニアが来て「開発を引き継いでくれ」と言われて。
横山:どうしてですか。
山中:その自動車メーカーは商品化するつもりはなかったようなんです。それでエンジニアに「会社を辞めてこの開発をヤマガタデザインで続けたい」と言われました。あまりにも想定外の依頼でしたが、ご縁だし、彼も会社の理念に共感してくれたので受け入れることに。当初は全然商品化というレベルではありませんでした。でもいろんなご縁があって開発につながって、すごくいいロボットになっていきました。今年の1月にロボットを出荷 した時は、非常に感慨深かったですね。ただ、我々の会社のスタンスは“とにかく課題を改善し続ける”。今後も課題をどんどんクリアするものを出していきたいです。
崇高な理念を身近な欲求 で満たす
横山:地域課題を解決していくにあたって大事なポイントは何でしょうか。
山中:課題を解決するのは結果論であるという考え方が一番大事だと思っています。よく街づくりのワークショップで「地域の課題を解決するにはどうしましょうか? 付せんを貼って考えましょう」ってあるじゃないですか。あれ、めちゃめちゃ危険なんですよ。課題解決になると、みんな崇高な理念をもとに、自己犠牲の精神のもとに成り立つようなソリューションを作ろうとするんです。でも一番大事なことは自分がやっていて楽しいかどうか。自分を受益者に見立てた時に、0.2秒でそのサービスや商品が欲しいと思うぐらいおもしろくないと、課題なんて解決できません。課題解決する時のポイントは、崇高な理念を身近な欲求で満たすことだと思います。
横山:山中さんの今後の抱負を教えてください。
山中:未来のことはあまり考えていませんが、スタンスは決めています。それは、自分たちの最大限のパワーで地域や社会、特に地方に貢献すること。これは会社としても自分自身のテーマとしてもすごく大事にしています。ただ、それを実現するために何をしたいかは全然決めていないんですよ。絶対に自分が決めた通りにならないから。これまで、我々の会社を求めてくれる誰かがいたことで、会社の存在価値や意義がどんどんアップデートされてきました。だからベストを尽くすというスタンスは決まってるけど、我々を引き上げていってくれるのは、これから先も出会ういろんな人たちだろうなと考えています。
(編集協力:三坂輝プロダクション)