アドビのクリエイター向けの祭典「Adobe MAX 2023」が、10月10日、11日(現地時間)に米ロサンゼルスで開催された。日本では11月16日に開催予定の同イベントだが、ひとあし早く行われた本国のイベントでは、生成AI「Adobe Firefly」を中心に多くのアップデートが発表された。アドビ主催のプレスツアーに参加し、現地で取材した。
10日に行われた基調講演には、CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏をはじめ、デジタルメディア事業部門社長のデイビッド・ワドワーニ氏、デザインおよび新興製品担当エグゼクティブバイスプレジデント兼CSO(最高戦略責任者)スコット・ベルスキー氏らが登壇。生成AI「Adobe Firefly」の大幅アップデートにともなう、Adobe製品の新機能を紹介した。
「Adobe Firefly」は、9月から正式に提供が開始されているアドビ独自の生成AIだ。デイビッド・ワドワーニ氏は、基調講演の中でAdobe Fireflyの特徴として、1.クリエイティブツールへのネイティブな統合、2.商業用として安全に使用できる設計、3.使用する権利を持つアセットであること、4.コンテンツ認証が可能という4つをあげ、安全で透明性の高いサービスであることを強調した。Adobe Fireflyを使って生成された画像は、すでに30億枚を超えているという。
上記の1.にあるように、Adobe Fireflyはオンラインで利用できるAdobe Firefly web版のほか、Adobe Photoshopの「生成塗りつぶし」や「生成拡張」、Adobe Illustratorの「生成再配色」、Adobe Expressの「テキストから画像生成」や「テキスト効果」などとして、すでにAdobe製品の中に機能として実装されている。今回新たに「Adobe Firefly Image 2 Model」「Adobe Firefly Vector Model」「Adobe Firefly Design Model」などの生成AIモデルが追加され、Adobe IllustratorやAdobe Expressの新しい機能として提供される。
「Adobe Firefly Image 2 Model」は、現在リリースされている初代画像生成モデルのアップデート版にあたるもので、4倍の解像度の画像を生成可能。発表と同時にAdobe Firefly web版での提供も開始されている。特定のスタイルやブランディングを再現したコンテンツを生成できる「生成Match」、カメラのマニュアル設定と同様に、よりディテールにこだわった調整を可能にする「写真設定」、プロンプトの追加や言い換えを提案してくれる「プロンプト候補」などの新機能が利用できる。
さらに「Adobe Firefly Vector Model」は「テキストからベクター生成」として、Adobe Illustratorの新機能として提供される。その名の通り、テキストのプロンプトからベクターアートの生成ができるというもの。アイコンや文字、モチーフ、パターンなど、細かな編集が可能で拡大縮小、色変更などが自在なベクターアートを生成し、デザイン等に活用できる。Adobe Illustratorではこのほか、ブラウザで利用できる「Illustrator for Web」のパブリックベータ版のリリースも発表された。
「Adobe Firefly Design Model」は、Adobe Expressのテンプレートでトレーニングされた新しい生成AIで、「テキストからテンプレート生成」(ベータ版)として提供される。テキストのプロンプトからデザインテンプレートを生成できるというもので、出力されたテンプレートはAdobe Expressで編集できる。
基調講演ではこのほか、今後数ヵ月以内のアップデートとして「Adobe Firefly Video Model」、「Adobe Firefly Audio Model」、「Adobe Firefly 3D Model」のリリースも予告去れた。また、開発中の機能を先取りして紹介する、イベント恒例の「Adobe MAX Sneaks」でも、動画から不要なものをワンクリックで削除、人影に隠れていた顔の一部を生成など、生成AIを用いた驚くべき機能のデモが会場を沸かせた。まさに生成AIによって、コンテンツ制作が大きく変わりつつあることを、実感できるイベントだったと言える。
基調講演の最後にワドワーニ氏はクリエイターに対し、「(進化へと歩む)ペースを落とすつもりはない」と語り、「クリエイティブな世界では今、デジタルコンテンツへの需要の急増していて、AIによる多くの変化が起こっている。この特別な瞬間をともに考え、共有してください」とメッセージを送っていた。