大人気アニメ『弱虫ペダル』作者 渡辺航先生(長崎出身)が熱く語る「ツール・ド・九州2023」祝・開催!

福岡・熊本・大分の3県を4日間にわたって走り抜ける国内最高峰&最大級の国際自転車ロードレース「ツール・ド・九州」(10月6日金曜~10月9日月曜・祝日開催))がいよいよスタートする。ここでは単行本85巻発行、累計発行部数3000万部超(2023年9月現在)の大人気漫作品『弱虫ペダル』の作者であり、自転車をこよなく愛するサイクリストとしても多方面で活躍中の渡辺航先生を直撃インタビュー。「ツール・ド・九州」への想いや熱いエールを前編・後編の2回に分けて紹介します。今回はその前編、『弱虫ペダル』と「自転車ライフ」について、そして「故郷・九州」への想いについてお話いただきました。

■プロフィール

渡辺航(わたなべ わたる)

3月9日生まれ。長崎県出身。『弱虫ペダル』作者。MTBやロードバイク、小径車など自転車をこよなく愛する生粋のサイクリスト。『弱虫ペダル』連載を続けながら多数のアマチュア自転車レースにも参戦。現在、週刊少年チャンピオンにて『弱虫ペダル』、別冊少年チャンピオンにて『弱虫ペダルSPARE BIKE』同時連載中。『弱虫ペダル』は、2023年9月現在までに単行本85巻発行、累計発行部数3000万部超。最新単行本86巻が2023年10月6日(金)発売予定。

『弱虫ペダル』と「自転車ライフ」
「故郷・九州」への想い
【ツール・ド・九州 公式HP】
【ツール・ド・九州 公式動画】

『弱虫ペダル』と「自転車ライフ」

―渡辺先生は長崎県のご出身ですね。九州の中では「激坂が多い長崎県には自転車が少ない」というイメージがありますが、長崎での「自転車ライフ」の思い出はございますでしょうか。

長崎県は確かに坂が多いまちなので、自転車に乗らない人も多かったですね。

私は長崎市内の出身ですが、比較的平地がある所で暮らしていたので、幼い頃から普通に自転車に乗って友達の家に遊びに行ったり、買い物に出かけたりしていました。当時、乗っていた自転車は昔ながらの自転車で、後ろの荷台の両サイドに折りたたみのカゴを付けるのが流行っていて(昭和世代には懐かしい!)。自転車でプラモデルを買いに行って、ウキウキしながら帰った記憶がありますね。そんな感じで少年時代には生活の道具として自転車がいつもそばにありました。

―では、今のような自転車ライフにハマったのはいつ頃でどんなきっかけだったんでしょうか。

本格的なマウンテンバイクやロードバイクに触れるようになったのは、長崎から上京して、関東で暮らし始めてしばらくしてからですね。最初はマウンテンバイクに乗っていたんですが、たまたま自転車に詳しい友人からの強い勧めによってロードバイクを購入したのがきっかけです。最初の1週間は「タイヤは細いし、姿勢はキツイし、腕とお尻と首も痛くなるし! なんて乗り物なんだ! 」という感じで大後悔したんですが、せっかく買ったんだし「ひとまず毎日10キロ走ろう! 」と決めて、当時家の近所にあった河川敷のサイクリングロードを1週間くらい走っていたある日、突然「あ! コレはめちゃくちゃ面白いかもしれない」と思って、そこからハマっちゃったわけです。

―そこから『弱虫ペダル』誕生へと繋がるわけですね。

出版社の担当編集者さんと打合せしている時に「自転車にハマっている」という雑談をしていたら、「それいいじゃない! 」っていうことになって。当初は「これはあくまで趣味なんで」ってお断りしていたんですが、「そこまで情熱を持ってやっているんだったら絶対に作品にした方がいいよ」というのがきっかけでした。最初は女性が主人公の作品とかいろいろ案を出していたんですが、少年向けの雑誌だからやっぱり男の子の話にしようってことになって、そこで誕生したのが今の『弱虫ペダル』なんです。始めは「趣味を仕事にするのはイヤだな」って思っていたんですが、実際に描き始めたら「自転車で走った分だけネタが湧く! 」みたいな感じで、自転車に乗ったり、触れたり、そのすべてが勉強になるし、そして何よりトラブルが起こると、それがまたいろいろなネタのきっかけになるんで、楽しくてしょうがなかったですね。当時、読者の方から「読んでいるとリアルに乗っている感じや疾走感が伝わってきます! 」という感想をよくいただいていたんですが、それは自分が体験したり、感動したりした初めての感覚を、時間を空けることなく作品にフィードバックできたことがすごく良かったんだなと思います。

―『弱虫ペダル』を通して描き続けてきた「自転車ライフ」とは?

自転車に乗り始めてから、自分の中の可能性っていうものに気付けたというか。例えば「100キロ先まで自転車で行く」って考えた時に、最初は「それは特別な人にしかできないことだ」って勝手に決めつけて、諦めていたんだけど、それが乗っているうちに変わっていく。ペダルを漕いでいると、少しずつ、ちょっとずつだけど、昨日までできなかったことが、できるようになっていくんです。それは今までの自分の先入観や価値観みたいなものを、とにかく自転車が壊してくれるという感じというか。良い意味で、強くポジティブな方向に自分を向かわせてくれる。自転車というものは、そういう自分もまだ知らない「自分の可能性に気付かせてくれる道具なんだ!」ってことを未だに思っています。

人間って誰しもまだ経験したことがないことに挑戦するときって「コレも必要かもしれない」「アレも持っていかなきゃ」ってついつい心配しちゃって最初は荷物を増やしちゃうんだけど、いざスタートして、ペダルを漕ぎ出したら、最初はあれだけ「必要だ!」って思っていたものが、結局「使わないからいらないや!」ってなって、不思議と荷物も身体も軽くなっていく。つまりそうやって、自転車に乗って、ペダルを漕ぐことで、今までの自分が壊されていって、どんどん、どんどん、新しい自分に変わっていくんですよね。この感覚は自転車ライフでしか味わえない体験だと本当に思うんです。もしコレを読んでいる人で、まだ自転車に乗っていないという人がいたら、「自転車ライフはじめようよ! 」って強くオススメしたいです(笑)。

―いいですね!『弱虫ペダル』を読んで、そして『ツール・ド・九州』を観て、今から「自転車ライフ」を極めていく、未来の『弱虫ペダル』主人公・小野田坂道に向けてぜひメッセージをお願いします!

今回の『ツール・ド・九州』を観戦して「よし! 私も自転車ライフを始めるぞ!」という方もたくさんいると思いますが、僕は自転車を始めたからといって、必ずしもレース選手にならなくてもいいと思っています。もう『弱虫ペダル』の連載が始まって15年経っていますので「作品を読んで選手になりました!」っていうリアル・小野田坂道も実際にちらほら出てきていて、それはそれでスゴイことだし、作者としては大変喜ばしいことなんですが、でも、自転車に乗ったからって、みんながみんなスゴイ選手を目指す必要はなくて。とにかく自転車って「自分との対話」の時間が増える乗り物だと僕は思っているんです。自分の中にある可能性って、意外に自分が気付いていないので、だからこそ、自転車に乗ることによって、いろいろな可能性を発見してほしいと思います。それは小さな子どもたちだけでなく、お年寄りやどの世代の人にも伝えたいですね。

自転車って移動手段でもあるけど、最も手軽に始めることができるスポーツだと思うんです。まぁ、自転車を購入する初期投資だけはかかりますけど(笑)。確かに高い買い物ですが、その分、愛着が湧いてきますんで、そうやってどんどん乗って、乗って、乗り倒していく中で、「自分は美味しいものを目指して喫茶店巡りするのが好きだな」とか、「やっぱり自分は人と競争して勝つのが好きだ」とか、「山を登るのが気持ちいい」とか、「旅をするのが好き」という具合に自分なりの楽しみ方を見つけて、今までは気付がつかなかった「自分を再発見」していきましょう!

「故郷・九州」への想い

―渡辺先生は長崎県のご出身ですが、九州を自転車で走られた経験はございますか。

長崎の出身なので、毎年、実家に帰省する際はだいたい自転車で帰っています。夏と冬の年2回くらいかな。四国の松山を経由して帰ったこともありますし、昨年だと大阪空港から自転車で5日間かけて帰るみたいなツーリングをしています。以前から九州の中で「走りたい!」と思っていた道はだいたい全部走ってきました。鹿児島、宮崎、大分、福岡は、すべて空港から自転車で帰省したことがありますし、四国から船で大分に渡って、やまなみハイウェイを通って、阿蘇を抜けて帰ったこともあります。本当に色々な景色を見てきましたね。

―ということは『ツール・ド・九州』のコースも?

そうですね。今回の『ツール・ド・九州』のコースにもなっている阿蘇は特別ですよね。中でも、南阿蘇はロケーション最高で、写真をたくさん撮影しながら走った思い出があります。本当に景色が「もうロケ地だな!」って感じで、なんのロケ地かはわからないんですけど(笑)、なんかスゴく幻想的な景色にたくさん出会って、行くところ、走っている最中、至る所で物語が生まれそうなロケーションや場面に出くわすみたいな。春と夏は青々とした草原が目の前に広がっていて、秋は黄金色になって、冬は雪景色という、季節ごとに雄大な景色が楽しめるのは、南阿蘇でしか味わえない体験だと思います!

―九州の自転車ライフについて。

日頃から「九州のツーリングはいいよ!」っていろんな場所で宣伝しているんですが、先ほどお話しした南阿蘇に限らず、九州各県にはそれぞれ素晴らしい景色や文化があるので、今回の『ツール・ド・九州』をきっかけにして、九州の自転車熱が高まれば嬉しいですし、ぜひ全国のみなさんに自転車で九州一周をめぐってみてほしいと思います。

ここでインタビューの前半は終了。後編では『ツール・ド・九州』についてさらに熱く語っていただきました。