日本初上陸を果たしたクロアチア生まれの電動ハイパーカー「ネヴェーラ」。世界最速をうたう電気自動車(BEV)はどんな乗り心地なのか。1,914馬力の走りとは? 今回は助手席に同乗する貴重な機会を得たので、実車に触れた印象や偽らざる感想をお伝えしよう。
嵐を呼ぶ高性能車
それなりに自動車には詳しいと思っていた筆者も、リマックという自動車メーカーには聞き覚えがなかった。同社はクロアチアを拠点にBEVの開発、製造、販売を行う自動車メーカー。「ネヴェーラ」という車名は「雷」や「嵐」を意味する。
その名の通り、スペックはまさに走れば嵐を起こしそうな究極っぷり。搭載するモーターは前後合わせて4基、最高出力は1,914PS、最大トルクは2,340Nm、0-100km/h加速は1.81秒、最高速度は256mph(411.992km/h)だ。
ここまで高性能なBEVだと、さすがに長距離は走れないのではと思ったのだが、フル充電からの航続可能距離は490km(WLTPモード)と意外にも長い。都道府県をまたぐ長距離ドライブも経路充電なしでこなせそうだ。
高性能と実用性を両立させたネヴェーラに「モビリティリゾートもてぎ」で試乗する機会を得た。とはいっても、助手席での体験同乗だ。ハンドルを握りたかったと思う反面、価格(後述)と異次元の性能を考えると、自ら運転をしなくて済んでほっとしたというのが本音でもある。
会場に到着すると、すでにネヴェーラはかなりの速度でコースを周回していた。まず、走行中のクルマまで数メートルの距離に立って眺めてみても、モーター音がほとんどしないことに驚いた。わずかに聞こえるモーター音とタイヤ(前輪275/35 ZR 20、後輪315/35 ZR 20)が路面をグリップしている鈍いロードノイズのみが響き渡るサーキットの光景は、なんともシュールだ。
未体験の加速に失神寸前!?
数分後、助手席に乗る順番が回ってきた。上部に大きく開くドアから乗り込む。車内の質感はとても高い。シートは硬めだが、カラダを包み込むような座り心地は好感触だ。
ひとたび走り出すと、路面の振動を直に感じつつ、さきほど聞いたモーター音とは異なる少し荒目のモーター音(決して静かとはいえない)と、タイヤが路面を撫でるグリグリとした音が車内に響き渡ってくる。
ハンドルを握ってくれた日本人ドライバーは、いくつかのドライブモードを解説しながらサーキットを走り抜けていく。ネヴェーラの走行モードは「レンジ」「クルーズ」「スポーツ」「トラック」「ドリフト」の5つから選択可能。数分の試乗で、しかも助手席なのでモードの違いをしっかりと体感することは難しかったが、前後輪ごとに異なるパワー配分を示すインジケーターを見ると、クルマの今の状態を把握することができる。例えば「レンジ」モードにすると、前輪は100%、後輪は30%の割合で動力を発揮する走行モードとなる。
その状態でしばらく直線やカーブ走行を堪能していると、ネヴェーラは徐々に速度を落とし完全に停止。ドライバーから「準備はいいですか?」とのナゾの声かけがあった。何事かと不思議に思っていると、「首をヘッドレストにしっかりと固定してください」との優しいアドバイスが。ドライバーがおもむろに走行モードを「トラック」に入れると、さきほどまで100:30を示していたインジケーターが真っ赤な表示に切り替わり、100:100の表示へと変わった。つまり、ネヴェーラから発せられるすべてのパワーを前後輪にすべて注ぎ込む状態になったということだ。とてつもない加速体験が得られると瞬時に理解した。
0-100加速わずか1.81秒の実力は?
そこからドライバーがアクセルを全開に踏み込むと、車速は瞬く間に200km/h近くに到達。そのときカラダにかかる圧力は、これまでに経験したことがないくらいにとてつもなく強力なものだった。おおげさかもしれないが、慣れていないと失神してもおかしくないくらいの強力な圧力だ。
ネヴェーラの助手席前方には、時速や縦・横方向にかかる圧力などが表示されるディスプレイが備わっているが、それを見る余裕は残念ながらなかった。アクセルをほぼ全開にしたままカーブに入るとカラダが横に大きく持っていかれるが、ホールド感のいいシートのおかげで安定性は保たれた。
同乗を終えた後は、しばらく放心状態だったのは言うまでもない。「0-100km/h加速1.81秒」の力を身をもって体験した試乗だった。
乗り心地は良くも悪くもない?
肝心の乗り心地はといえば、良くも悪くもないというのが正直なところ。ここまで激しい走りを味わいながら「乗り心地は悪くない」と感じられたということは、けっこうスゴいことのような気もする。
路面から伝わってくる振動はそこまで大きくないし、カラダをしっかりとホールドしてくれるため安定して乗っていられる。ただ、スーパーカーなら当たり前だが、ホールド性の高いシートであるため身動きは取りにくい。
着座位置はかなり低いが視界は悪くなく、この点は市街地走行でどのように見えるか確かめてみたいところだ。ここまで高性能なスーパーカーでありながら、ガソリンエンジンのハイパーカーと比べると音がかなり静かな点も、乗り心地のよさに貢献していることは間違いない。
ネヴェーラの価格は200万ユーロ。日本円にすると3億2,000万円ほどだから、クルマとしてはかなり高額だ。生産台数は150台限定で年間40台ほどを生産する予定だという。ただし、担当者によると日本への割当台数などは決まっていないらしく、希望すれば購入できるだろうとのこと。驚きなのは、すでに日本国内で4台の注文が入っているということだ。4台の納車時期は未定らしいが、そう遠くない時期に公道を走行するネヴェーラを見ることができるかもしれない。