永瀬拓矢王座に藤井聡太竜王・名人が挑戦する第71期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、第4局が10月11日(水)に京都市東山区の「ウェスティン都ホテル京都」で行われました。対局の結果、角換わりの熱戦を138手で制した藤井竜王・名人がスコアを3勝1敗として王座奪取に成功。あわせて史上4人目となる全冠同時制覇を達成しました(八冠としては初)。
永瀬王座の用意
1勝2敗と後がない永瀬王座は防衛の望みを角換わりに託します。序盤早々に右桂を跳ね出したのが趣向で、自慢の研究をベースに先手番の利を最大限に生かす狙いが見て取れます。仕掛けが一段落した40手目の局面で、藤井竜王・名人が約3時間を消費しているのに対し永瀬王座はわずか5分を使うのみです(持ち時間各5時間)。
お互いに居玉の小競り合いのすえ永瀬王座がわずかにリードを奪います。盤上左方の桂頭攻めに手段を求めたのがうまく、ここで手にした桂を銀との交換に持ち込んで駒得を拡大。とはいえ後手の藤井竜王・名人も5筋に作った竜を自陣に引き付けて決め手を与えません。勝負は形勢不明のまま終盤戦になだれ込みました。
終盤は二度ある
盤面全体を使った押し引きののち藤井竜王・名人もようやく反撃開始。やっかいな先手の馬を追い返したのち、4筋に据えた角を起点に玉頭への集中砲火を目指しました。5筋の歩を拠点として銀を打ち込んだのは「寄せははがすなり」の格言通りの寄せに思われましたが、今度は先手の永瀬王座が顔面受けの勝負手を通して局面は仕切り直しを迎えます。
一分将棋の秒読みの声が両対局者を襲うなか今度は先手の永瀬王座にチャンスが訪れます。敵玉への寄せを急がずじっと竜の捕獲を優先したのが攻防の好着想でした。攻め駒を補充しながら自玉を安全にすることで永瀬王座はしばらく寄せに専念することが可能に。具体的には後手玉に対して詰めろ以上で迫れれば勝利は目前です。
藤井竜王・名人が王座奪取で八冠制覇
藤井竜王・名人が銀を打って下駄を預けた局面が本局の分岐点となりました。局後の検討ではここで▲4二金と打てば先手勝ちとされました。実戦で永瀬王座が▲5三馬と王手をかけたのは時間に追われた失着で、△2二玉とされては完全に攻守が逆転した形です。すぐに自らのミスに気づいた永瀬王座は悔しそうに頭を掻きむしります。
形勢逆転を見た藤井竜王・名人は前傾姿勢を強めて最後の熟考。やがて放った飛車の王手が決め手となりました。終局時刻は20時59分、最後は自玉の詰みを認めた永瀬王座が投了を告げて五番勝負が決着。3勝1敗で自身初となる王座奪取に成功した藤井王座は八冠同時制覇の偉業を達成しました。
水留 啓(将棋情報局)
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