都が農業を手厚く支援

東京都の農業に対する支援は他県に比べて手厚い。そんな姿勢の後押しになっているのが、国が都市の農地の扱いを変えたことだ。

国の法改正で都市部の農地に対する考え方が大きく変わり、都市農業を継続する環境が整ってきた。都市の農地は長年、「宅地化すべきもの」と位置づけられてきたが、農地として「あるべきもの」へと変わった。詳しくは後ほど解説したい。

加えて、都民の間で農業を含む一次産業に対する関心が高まっている。都はそのことを機敏に捉え、期待に応える政策を打っている。

新規就農が右肩上がり

まず、東京都の農業の概要を押さえておこう。
当然のことではあるが、全都道府県中47位となる指標が多い。農業産出額の196億円(2021年)、農業経営体数の5117(2020年)、耕地面積の6290ヘクタール(2022年)がいずれもそうである。

一方で、消費地が極めて近いという強みを生かした農業が営まれており、出荷量や収穫量が全国トップクラスの作物もある。全国1位の切り葉(切り花類)とブルーベリー、3位のパッションフルーツ、4位のコマツナなどがそうだ。

切り葉とパッションフルーツは、伊豆諸島や小笠原諸島といった島しょ部で盛んに生産される。コマツナは、収穫後の傷みが早い軟弱野菜で、江戸時代から栽培されてきた。
また、消費者が近くにいるぶん、農業に関連する事業が盛んだ。農産物加工の額は5位、農家レストランの売上額は12位(いずれも2021年度)と、全国でも高い方となる。

「名前に東京が付くだけでも、一定のブランド力を発揮する。そういう強みはありますね」(河野さん)

新規就農者数に目を向けると、2019年まで減少傾向がみられ、28人まで減ったが、その後は一転して増加傾向となり、2022年の新規就農者数は77人となっている。

「農業に対する興味、あるいは東京農業に対する認知度が高まってきていることが、背景としてあると考えています」。河野さんはこう説明する。

河野章さん

36年で都内の農地は半減

新規就農するにあたって最大の壁となるのが、農地をどこで借りるか。全国共通の問題ながら、都内はより深刻だ。理由は、もともと農地が少ないうえに、その減少率が全国平均と比較して高いから。

農地面積の推移をみると、1985年に1万2500ヘクタールあったのが、2021年に6410ヘクタール。48.7%減と、ほぼ半減している。全国の総農地面積は19.2%の減少にとどまっていることを踏まえると、東京の減少率が高いことがわかる。

「とくに市街化区域については、農地として使える場所が、ほんとうに限られているところがあります」(河野さん)

市街化区域は、都市計画における地域区分の一つで、すでに市街地となっている区域と、おおむね10年以内に開発して市街化すべき区域を指す。国土交通省は、都市の人口が増えていることを理由に、市街化区域の農地を「宅地化すべきもの」と位置づけてきた。

その結果、都内では「就農する、あるいは既存の農家が規模を拡大するにあたって、農地を見つけることのハードルが非常に高い」状況になっていると河野さんは言う。

「農地が増えることは、何物にも代えがたい」

だが、2015年の「都市農業振興基本法」の制定を契機として、国は方針を転換した。市街化区域内の農地でも、農業を振興するようになったのだ。

この方針転換を受けて、都は従来にも増して市街化区域の農業振興に力を入れるようになった。一例が農地を創出する事業である。アパートや駐車場、住居などを農地として整備する費用を補助するという、全国的にも珍しい取り組みだ。

既存の農家が農業生産以外に利用されている土地を活用して規模拡大を図る場合に、2分の1を上限に、建築物の基礎や舗装の撤去にかかる経費を補助する。

農地の創出の事例(画像提供:東京都農林水産部)

遊休農地を再生する経費も3分の2を上限に補助している。農業振興課課長代理の木下高一(きのした・こういち)さんは、「木の伐採や伐根、整地などを補助していて、新規就農者が借りた農地を再生するために活用することが多いです」と話す。

木下高一さん

農地の創出と再生を手掛ける事業は、2018年度に「農地の創出・再生支援事業」として始めた。これまでに19の区と市町村で13.7ヘクタールの農地を創出したり再生したりした(農地創出:市街化区域を対象に1.5ヘクタール、農地再生:島しょ部を中心に12.2ヘクタール)。2023年度からは、「未来に残す東京の農地プロジェクト」という新たな事業に衣替えしている。これまで市街化区域を対象としていた農地創出に関する補助メニューを都内全域に広げ(農地再生は従来通り都内全域を対象)、補助額の上限を一部撤廃するなど、内容を拡充した。

なお、「未来に残す東京の農地プロジェクト」は、農業の多面的機能を生かすための経費も補助する。これは、緊急時に防災用として使える農業用の井戸の設置や、公有地に市民農園や農業公園を設置するといったことを含む。

「農地が増えることは、何物にも代えがたい」と河野さん。
都内の農地は近年、年間およそ100ヘクタールのペースで減っている。
「それを解消するのが究極的な目標ではあります。少しでも歯止めをかけられるように、この事業をしっかりと周知しながら、一件でも多く活用してもらうことが大事だと思っています」(河野さん)