NTTドコモは10月10日、同社が行っている通信品質改善の取り組みについての説明会を開催しました。説明会では、先行投資として300億円を投じるという通信品質改善の内容について、全国2,000カ所以上のエリアの「点」への対策と、利用者の多い鉄道路線への「線」への対策を組み合わせて実施していることを明らかにしました。

この日の説明会で登壇したのは、同社ネットワーク本部長 常務執行役員の小林宏氏。同氏はまず、「ドコモのネットワーク品質について心配をおかけしているということは認識しています」と切り出し、「我々はいま、ネットワーク品質の改善に日々取り組んでおりまして、本日はその具体的な内容についてご説明したい」として話を始めます。

  • ネットワーク本部長 常務執行役員の小林宏氏

    ネットワーク本部長 常務執行役員の小林宏氏

この日の説明の内容は、大きく5点。このうち「都内4エリアの対策状況について」の内容については、すでにマイナビニュースでも紹介しているので、本稿では割愛します。

  • 説明内容

    説明内容

エリア品質改善対策の高度化・強化については、品質確認/対策検討/対策実施のサイクルを繰り返し実施するという基本方針を示し、その詳細な内容を解説していきます。

  • 品質確認/対策検討/対策実施のサイクル

    品質改善対策の高度化・強化は、品質確認/対策検討/対策実施のサイクルを回すことで実施していきます

品質確認では、コアネットワーク-基地局-端末の通信から、トラヒックデータを自動で収集。それにユーザーからの申告状況を掛け合わせて、エリア申告が発生する予兆を検知するという従来からの手法は引き続き利用しつつ、新たな手段として、ドコモのLLM付加価値基盤を活用してSNS情報をAIによって分析し、優先度の検討や場所情報の収集を開始しています。これらの手法で対策先として挙がったのが、「点」の2,000カ所のエリアであり、「線」の鉄道動線であるというわけです。

これまでSNSの分析には時間を要したのが、AIの導入により大きく短縮され、従来ならば1カ月かかっていた分析を1日で完了できることもあるそうです。これにより、全体の品質確認-対策のサイクルをこれまでより早いスピードで回せるようになります。SNSを活用した要対策場所の収集には精度についての懸念もありますが、SNS投稿の回数なども参照していること、最終的には現地確認も行っていること、基地局と端末の間の通信で得られる品質情報なども活用・分析することで十分な精度を得ているそうです。

  • 品質確認の手法

    品質確認の手法。従来のトラヒックデータやユーザーからの申告情報に加え、SNS情報のAIによる分析の活用も始めました

そうやって確認された品質改善が必要なエリアに対する対策としては、高度な装置の導入と基地局機能追加を挙げます。高度な装置の導入とは、小型・低消費電力かつMU-MIMO(Multi-User MIMO)対応の装置のことで、複数ユーザーとの同時通信が可能なMU-MIMOにより、通信の容量が2倍になるとのこと。基地局機能の追加は、上り通信における5G/4Gの最適な経路選択で、こちらも5Gセル端でスループットが2倍に向上することを確認しているといいます。

Massive MIMO対応のアンテナは大きく、地権者/ビルオーナーとの交渉や設置の調整に時間がかかるそうですが、設備が小型化したことで同意・調整のハードルが下がることを期待しているそうです。

なお同社では現在、設備品質の水準として、HD画質のコンテンツを楽しめるということをひとつの基準としているそうです。もちろんこれは「現状では」ということで、今後4K/8Kコンテンツが充実するようになれば4Kや8Kに基準が上がるでしょう、とのことでした。

  • エリア品質向上の対策

    エリア品質向上の対策としては、高度な装置の導入と、基地局の機能追加による品質向上を挙げます

これらに加え、従来からのエリアチューニング(角度調整/出力調整/指向調整/周波数間の均等分散)、基地局設備の増設も行っていくとのことです。

  • 従来から引き続いての対策

    従来から引き続いての対策(エリアチューニング/設備増設)も行っていくとのこと

そしてその集中対策を行う先が、先にも触れたように2,000カ所のエリアの「点」と、鉄道動線の「線」になります。このうち2,000カ所の「点」のエリアについては、2023年9月末の時点で約70%の対策が済んでおり、12月までに設備対応も含めて90%以上の対策を完了するように進めているとのこと。「線」の鉄道動線については、全国の乗降客数の多い鉄道について調査を完了し、顧客体験の分析をしている段階とのことで、12月までにまず既存の基地局を活用した対策を完了したいと語っていました。路線としては東名阪を中心に50路線以上をリストアップしているそうです。

  • 集中対策のスケジュールと規模感

    集中対策のスケジュールと規模感

このふたつの対策においては、現在の需要だけでなく、将来需要も見据えての対策を取っているとし、その費用として300億円という金額を明らかにしました。この300億円というのは期初の事業計画とは別に新たな投資をするということではなく、事業計画内での投資の優先順位の見直しにより、ネットワーク品質改善の集中対策に投じられることになる金額で、1,000局以上の基地局の設備の新設・増設などに使われるといいます。

むろん、この集中対策を実施して終わりではなく、集中対策が完了して以降も、さらなる品質改善に向けての投資は続けていく方針です。

その他の取り組みとして、夏フェスなどの大人数が集まるイベントへの対策の強化についても説明。カバーエリアの調整/基地局設備の設定値変更といった従来からの対策に加え、キャリー5G(可搬型基地局)および移動基地局車の増配日などさらなる強化を図っていくとのこと。さらに、定常的にイベントが開催される場所については周辺の基地局での4G/5G設備の増設も行っていくといいます。

  • イベント対策

    イベント対策

さらに、圏外をなくす取り組みとして、10月11日に提供を開始する衛星通信サービス「ワイドスターIII」にも言及。衛星通信サービスとしては高速な下り最大3Mbpsの通信速度、スマートフォンと接続して通常電話同様に利用できるというメリットなどを紹介しました。

  • ワイドスターIII

    ワイドスターIII

ここまでの説明、およびこれに続く質疑応答では、「(通信品質が不十分であるということについて)承知しています」という言葉や、「将来需要を見据えて」という言葉を繰り返しており、現状に問題があることを認識したうえで、一時的でなく将来的にもユーザーが安心して利用できるネットワーク環境を目指していくという姿勢を見せていましたが、とくに設備の新設・増設については地権者やビルオーナーとの調整には時間を要するという点も再三繰り返しており、一朝一夕に解決できるわけではないことがうかがわれました。

  • 説明内容のまとめ

    説明内容のまとめ

質疑応答では、通信品質に問題があるという声は2023年前半は都市部で大きかったところ、最近では地方都市などでもそういった声が上がっているように思われるという質問がありました。ドコモ側では利用者が少ないエリアでもスマートフォン端末が自動で行う通信の影響、コンテンツのリッチ化などによるデータ通信量の上昇傾向などに原因があるかもしれないという見方を示しました。今回対策を強化するエリアとしてリストアップされている2,000カ所は都市部だけでなく地方も含まれるため、地方を放置しているわけではないとし、原因究明に努めると話していました。

また、これまでのドコモの戦略として、専用周波数帯で5Gサービスを提供する「瞬速5G」に注力して5G展開を図ってきたことのマイナス影響が出ているのでは、他キャリアのように4G帯域の転用で5Gサービスを展開するべきだったのでは、という質問もありました。小林氏は「瞬速5Gで面的にエリアを充実させられておらず、5Gのエリアと4Gのエリアが混在しており、エリア間で通信方式が切り替わってしまうというのは事実。ただ、設備の増強だけでなく、ハングオーバーのしかたやエリア間の切り替えをスムーズにするといった対応はできると思っている」と回答していました。

この点については説明会後の囲み取材でも「世代間の切り替えがうまくいかなかった」というコメントや「NTTドコモは世代間のつなぎの技術のようなものを導入するのにあまり積極的ではないのでは?」という質問もあり、今回の状況に学んで次はこのようなことのないようにしたい、と語っていました。