藤井聡太竜王に伊藤匠七段が挑戦する第36期竜王戦七番勝負(主催:読売新聞社)は、第1局が10月6日(金)・7日(土)に東京都渋谷区の「セルリアンタワー能楽堂」で行われました。対局の結果、相掛かりの熱戦を82手で制した藤井竜王が防衛に向け好スタートを切りました。

注目の同学年対決

2002年生まれの同学年対決となった七番勝負は立会人の佐藤康光九段、会長の羽生善治九段らが見守るなか開幕。振り駒で先手番となった伊藤七段は相掛かりを目指します。4筋の歩を突いたのは持久戦を目指す自然な選択ながら、左銀が上がることの多い7七の地点に金を進めたのは明らかな趣向です。

先手の作戦選択を受けて後手の藤井竜王が動きます。2筋で手にした歩で8筋の継ぎ歩攻めに活用したのは先手の左金の愚形をとがめる狙いで、素直に応じると飛車の成り込みが受かりません。実戦は伊藤七段が攻め合いの方針に転じて本格的な中盤戦へ。水面下で研究が進む局面を前に両者早いペースで指し手を進めます。

ぶつかり合う読み筋

伊藤七段が右側の端歩を突っかけたところで藤井竜王が長考に沈みます。この直前、伊藤七段が中央に自陣角を据えたのは攻防のバランスを取った手。対する藤井竜王は先手陣に角を打ち込みますが、先の自陣角の効果ですぐに取れる駒はありません。ともに早い攻め手を消し合って1日目の昼食休憩前後から局面は一転して落ち着きを見せ始めました。

濃密な長考合戦ののち、封じ手直前に局面が動きます。藤井竜王が金取りに歩を打ったのは直前の先手の歩突きを「全否定する」(佐藤九段)手で、直後の飛車回りと合わせて形勢への自信をうかがわせます。藤井竜王は続いてこの飛車を敵角と刺し違えて攻撃を続行。2枚目の角を打ち込んで優位に立ちました。

藤井竜王が読み勝って快勝

2日目の戦いに入って局面は激しい攻め合いに突入。遊び駒の飛車を左辺に転換したのは先手の伊藤七段に残された唯一ともいえる勝負順ですが、その後の藤井竜王の桂打ちが素朴な決め手。純粋な金銀両取りで駒得を拡大できては藤井竜王の優勢は疑う余地がありません。藤井竜王はこの後も鋭い手順で伊藤玉を寄せきりました。

終局時刻は17時2分、自玉の受けなしを認めた伊藤七段が投了を告げて熱戦に幕が引かれました。敗れた伊藤七段は「1日目でおかしくしてしまったかと思った。(さらに2日目午後の競り合いにおける)誤算が痛かった」と振り返りました。藤井竜王の先手番で迎える第2局は10月17・18日に京都府京都市の「総本山仁和寺」で行われます。

  • 藤井竜王は封じ手前後の局面について「特殊な形でどうバランスを保てるかわからないままだった」と明かした(提供:日本将棋連盟)

    藤井竜王は封じ手前後の局面について「特殊な形でどうバランスを保てるかわからないままだった」と明かした(提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)

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