最近ネットでよく見かけるようになった「パワーカップル」という言葉、高収入同士の夫婦を指す言葉ですが、実際、年収がいくらあれば、「パワーカップル」と呼べるのでしょうか。さまざまな定義がある中で、実感を伴った「パワーカップル」の年収を考察してみたいと思います。
パワーカップルとは
パワーカップルとは、高収入を得ている共働き夫婦のことをいいますが、高収入とはいくらなのか、明確な定義はありません。複数のメディアが独自の定義を設けており、たとえば、2018年に発表された三菱総合研究所のレポートでは、「夫600万円以上、妻400万円以上の共働き世帯」としており、2017年の発表されたニッセイ基礎研究所のレポートでは、「夫婦とも年収700万円超の世帯」としています。
すでに5、6年経過しており、物価の上昇も相まって、実感からずれてしまっている気もします。そこで、最新データなどを使って、実感としての「パワーカップル」は年収いくらなのかを考察してみたいと思います。
パワーカップルならできること
ニッセイ基礎研究所の「パワーカップル世帯の動向」によると、夫婦共に年収700万円以上のパワーカップルは2022年で37万世帯(総世帯の0.66%、共働き世帯の2.25%)あり、内訳の最多は「夫婦と子」世帯で57.6%、次いで「夫婦のみ」世帯で39.4%となっています。パワーカップルと聞くと、DINKS(子どもがいない夫婦)を思い浮かべる人も多いと思いますが、実際は6割近くが子どものいる夫婦です。
パワーカップルなら教育費にお金をかけられる
パワーカップルなら、教育費にたくさんお金をかけられると思います。高収入世帯とそうでない世帯を隔てる教育費問題で、よく話題になるのが「中学受験」です。そこで、文部科学省の「令和3年度 子どもの学習費調査」から、私立中学に通わせている世帯の年収を見てみたいと思います。
公立中学校に通っている世帯の年収で一番割合が多いのが600万円から800万円未満であるのに対して、私立中学校に通っている世帯の年収は1,200万円以上が一番多く、4割以上となっています。同調査によると、中学3年間の教育費総額は、公立中学校の場合161万6,317円ですが、私立中学校の場合は430万3,805円となり、2.5倍以上の差があります。
このことから、パワーカップルは私立中学校に通わせられる世帯と考えて、少なくとも1,200万円以上の世帯年収が必要となるでしょう。このように考えると、前述の「夫600万円以上、妻400万円以上の共働き世帯」は、パワーカップルとする基準ラインが低いので適切ではなくなっています。
パワーカップルなら東京の新築マンションが買える
教育費の次は住居に注目してみましょう。
株式会社不動産経済研究所が公表している「首都圏 新築分譲マンション市場動向(2023 年 8 月)」によると、東京23区の新築マンションの平均価格は8,597万円、東京都下の新築マンションの平均価格は5,957万円となっています。
東京23区と東京都下の供給戸数をもとにした加重平均によって、東京全体の平均価格を出すと、約8,385万円になります。
この価格が平均価格であることを思うと、新築マンション価格が非常に高騰していることがわかります。東京の新築マンションはもはや庶民には買えないものになっています。
しかし、パワーカップルなら東京の平均価格の新築マンションを買えると考えます。そこで、東京都の平均である8,385万円の新築マンションを無理せずに買える年収を求めてみましょう。収入に占める返済額の割合を返済負担率といいますが、理想的な返済負担率は20~25%以下といわれています。ここでは「無理せず」ということなので、20%で試算してみます。
借入額8,000万円(フラット35の貸付上限)、全期間固定金利2%、返済年数35年、返済負担率20%で試算すると、1,590万円の年収であれば可能となります。
金利や返済年数、頭金の額によって試算結果は変わってきますが、目安として1,600万円の年収があれば、8,000万円の物件を購入できると見なしてもいいでしょう。
このように考えると、前述の「夫婦とも年収700万円超の世帯」でも、パワーカップルとする基準のラインが低いことがわかります。
パワーカップルを東京都の平均価格の新築マンションが買える世帯と定義するならば、ここでの答えは、「夫婦とも年収800万円超の世帯」となります。しかし、東京23区の新築マンションとなると、さらに平均価格は上がるので、都心部に住むパワーカップルは「夫婦とも1,000万円超の世帯」が実感としてピンとくるかもしれません。
パワーカップルはどのくらいいる?
総務省「労働力調査 2022年」によると、共働き世帯1,521万世帯のうち、夫婦共に年収700万円以上の世帯は37万世帯、夫婦共に年収1,000万円以上の世帯は8万世帯となっています。割合をみてみると夫婦共に年収700万円以上の世帯は2.4%、夫婦共に年収1,000万円以上の世帯は0.5%です。極めて少ないことがわかります。
しかし、コロナ前の2018年の統計をみてみると、夫婦共に年収700万円以上の世帯は26万世帯、夫婦共に年収1,000万円以上の世帯は6万世帯であり、4年前に比べて増えてきています。
共働き夫婦の年収分布をみてみると、共働きの夫の年収で一番多いのが、年収500万円から700万円未満であり、358世帯となっています。一方、共働きの妻の年収で多いのは、年収100万円未満の451世帯、次いで年収100万円から200万円未満の445世帯となっており、共働き世帯の半分以上が妻の年収は200万円未満ということがわかりました。夫婦共働きといっても、妻の多くはパートなどの非正規雇用か収入の低いフリーランスなどであることが考えられます。
次に、夫婦の年収の関係をみてみましょう。夫の年収からみた妻の年収をみてみると、夫の年収が低い場合は妻の年収も低い傾向はみられますが、年収1,500万円未満までは、半分以上は妻の年収が200万円未満であり、それほど差異はみられません。夫の年収が1,500万円以上になると、妻の年収も高くなる傾向がうかがえます。
妻の年収からみた夫の年収は、妻の年収が高いほど夫も年収も高くなる傾向が顕著にみられます。絶対数が少ないこともありますが、妻の年収が1,000万円以上になると6割以上が夫も年収1,000万円以上となっています。
このように年収が高いもの同士が夫婦になる傾向があるようです。
まとめ
賃金や物価の上昇にあわせて、パワーカップルの定義も変わってきています。これまで、「夫婦とも年収700万円超の世帯」といわれてきましたが、それでは東京の平均価格の新築マンションは買えないことがわかりました。夫婦とも年収800万円から1,000万円以上はないと、パワーカップルの定義にあてはまらない世の中になってきているようです。パワーカップルの数は増えてきていますが、共働き世帯全体をみると、まだまだ少数です。