夜空の星は明るいと見えにくいものですが、人が住む地域に照明がないのは危険です。昔は多くの場所で見られた満天の星も、現代では限られた地域でしか目にできません。都市化が進んだ現代において、人が行動しないと守れないもののひとつが「美しい星空」かもしれません。
そんななか、2023年8月に日本国内でアジア初となる「星空保護区」に認定された地域があります。福井県大野市にある「南六呂師エリア」です。ここの何が特別なのか、ほかの星空保護区とは違うのか――。保護認定取得のサポートを担当したパナソニックのプレス向け体験会にて現地を取材してきました。
アジア初となるのは「都市型」の星空保護区
星空保護区とは、世界的なNPO団体のダークスカイ・インターナショナル(旧IDA・国際ダークスカイ協会)が実施している認定制度のこと。この制度には5つの認定カテゴリーがあり、日本国内では3つの地域が星空保護区として認定されています。
今回「アジア初認定」となったのは、「アーバン・ナイトスカイプレイス」というカテゴリー。近隣の明るい都市の影響を受けながらも一定以上の星空の美しさがあり、夜間の環境を暗く保つために積極的な取り組みを行っている地域が対象です。
アーバン・ナイトスカイプレイスに認定されたばかりの南六呂師エリアは、大野市の市街地から約10kmの位置。大野市の中心部は観光地としても有名で、雲に浮かぶ「天空の城」とよばれる越前大野城や、名水百選にも選ばれた「御清水」といった魅力的なスポットが数多くあります。星空保護区の南六呂師エリアは市街から車で20分ほどの距離なので、昼は街観光、夜は星観察が手軽にできるという珍しい地域でもあります。
星空保全のきっかけは「縦貫道」?
大野市は2004年と2005年に連続して環境省の「日本一美しい星空」として選ばれるほど星空の美しい地域。とはいえ「星空が美しい」だけなら、アジアにはもっと多くのアーバン・ナイトスカイプレイス認定エリアができていたでしょう。星空保護区として認定されるには、複数の難しい条件をクリアする必要があるのです。このハードルを越えるためのきっかけになったのは、意外にも星とは関係のない「中部縦貫自動車道」の存在でした。
当時、中部縦貫自動車道が大野市に開通するかどうか未定だったため、「人が来てくれる大野市を目指す」として注目されたのが大野市の「日本一の星空」。そこで大野市は、2018年に福井工業大学と相互連携協定を結びます。
大野市と福井工業大学は、夜空の明るさ調査をしたり、美しい星空を利用したイベントを立ち上げたりと、多くの取り組みを行ってきました。2020年には星空保護区申請チームを編成し、大学やメーカーとの二人三脚で「アーバン・ナイトスカイプレイス」認定取得に取り組みます。
星空保護区として認定されるには複数の条件がありますが、なかでも重要なのは「照明」の扱い。道路や公的施設にある屋外照明(軒下照明も含む)は、すべて「光害対策」したものでなければなりません。光害対策照明のポイントは2つ。
1つは「上方光束比がゼロ」であること。つまり、照明器具から上方向に向かう光が一切ないということです。そしてもう1つは「色温度が3,000K以下」であること。色温度が高いほど青白い色になり、低いほど赤みがかったオレンジ色になります。光害対策にはオレンジ寄りの色が有効なのです。
現在、南六呂師はパナソニック エレクトリックワークス社製の街灯(防犯灯・道路灯)を導入しています。この照明は、上方光束率が0%、色温度が3,000K以下の基準をクリアし、ダークスカイ・インターナショナルが「光害対策されている」と認証したものです。
大変なのは、屋外照明のみならず「屋根のある軒下の照明もすべて対策が必要」という点。南六呂師にはすでに使用していない施設もあるのですが、そんな場所でも光害対策していない照明器具が1つでもあると、星空保護区の認定はもらえないのです。
現在も利用している施設の軒下には、福井工業大学とパナソニックが連携して上方光束を抑えた照明器具を選定。一方の使用しない照明については、ダークスカイ・インターナショナルの認定員が訪れたときに、目の前で配線を部分的にカットして「照明が使えないこと」を証明したそうです。
大野市は3年近い時間をかけ、2023年8月21日にアーバン・ナイトプレイスカテゴリーでの星空保護区認定を取得しました。残念ながら取材日は雨と曇りで「満天の空」には出会えませんでしたが、それでも空の暗さはしっかり実感できました。
ちなみに、星空を見るスポットとして人気の「ミルク工房 奥越前」では、晴れの日にハンモックで夜空を体験する「星空ハンモック」イベントを開催しています(雨の日は簡易プラネタリウムを提供)。都市と星空観光が一度に楽しめる観光地として、一度ぜひ訪れてみてください。