日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’23』では、地域における遠距離出産の問題を追った『遠距離出産 “能登で産みたい”』(テレビ金沢制作)を、きょう8日に放送する。
お産……臨月を迎え、出産予定日が近づくと、その兆候がいつ現れるかは、時を選ばない。たとえ真夜中であっても、妊婦が自宅にたった1人でいる時でも。その時、出産する病院が自宅から遠く離れた場所だとしたら――。
能登町に住む山本真弓さん(当時36)は第2子の出産を控えて、車で片道1時間以上かかる七尾市の恵寿総合病院に通っている。自宅から最も近い宇出津総合病院は分娩を廃止し、町内に分娩を取り扱う病院はない。妊娠7カ月ですでにお腹のふくらみは目立つが、真弓さんは1人で車を運転して病院まで通っていた。
出産までの妊婦健診の回数を考えると、毎回、夫に仕事を休んで付き添ってもらうわけにはいかないという。お腹の中の赤ちゃんの成長に喜びを感じる一方で、自宅から遠く離れた病院で無事に出産を迎えられるか不安を抱えていた。
石川県内では産科医の高齢化や退職などにより分娩を停止する動きが相次いでいる。このうち、奥能登では現在、分娩施設は輪島と珠洲の2か所のみで、常勤の産科医はたった1人だ。産科医不足が常態化する中、昨年6月、市立輪島病院で医療ミスによる新生児死亡事故が起きた。背景として昼夜問わないお産の現場で長年1人の医師に重責が課せられ、サポート体制が不十分だったことが指摘された。
事故を受け、県は昨年7月、各自治体や産科医療機関などで構成する「赤ちゃん協議会」を設置した。真弓さんの主治医で恵寿総合病院の新井隆成医師も参加し、能登でのお産が抱える課題と現場の産科医たちの声を伝えた。周産期医療体制の強化に向けた議論の行方は…。
来年4月には「医師の働き方改革」が始まる。医師の過酷な労働環境が改善される一方で、大学病院が関連病院への医師派遣を取り止めるなど、地方の医療現場ではさらなる医師不足が懸念されている。
全国の出生数は昨年、政府予測を10年前倒しして80万人を割り込んだ。政府が“異次元の少子化対策”を打ち出す中で、いま出産を控えた妊婦たちの“地域で安心して産みたい”という願いが置き去りにされているのではないか。最新の遠隔診療、救急隊の関わりなどを通じて、医療の安全と妊婦の安心が両立する支援策を探る。
ナレーションは、平岩紙が担当する。