ドラマ・生放送・視聴者参加型ミステリーをかけ合わせた日本テレビ開局70年記念特別番組『THE MYSTERY DAY』(7日19:56~22:54)。ドラマヘビーウォッチャーの大石庸平氏(テレビ視聴しつ室長)が試写し、レビューを寄せた。

  • 『THE MYSTERY DAY』のドラマキャスト

今作は、“考察”ブームを巻き起こした『あなたの番です』(19年)や『真犯人フラグ』(21年)の制作チームが再集結したミステリードラマを主軸に、事前収録した本編をパブリックビューイングで中継し盛り上げる「生放送」と、視聴者が黒幕を的中させると賞金を獲得できる「視聴者参加型」を融合させた、これまでにない新しいスタイルのミステリー特番だ。

この「視聴者に推理を促す」というコンセプトから、謎解きだけに重点が置かれている物語になっているのかと思いきや、これまでの考察ドラマの楽しさをしっかりと引き継ぎつつも、キャラクタードラマとして、人情ドラマとして、また社会派ドラマの一面も垣間見せる、つい考察することも忘れてしまうほど、見どころたっぷりのエンタテインメントに仕上がっていた。

日本テレビが手掛けたこれまでの“考察ドラマ”、『あなたの番です』と『真犯人フラグ』が視聴者を魅了した理由は、“交換殺人”や“家族の失踪”といったキャッチーな設定の妙や、犯人へたどり着くまでの物語を飽きさせずに進行させるストーリーテリングのうまさなどが挙げられるが、中でも両作で特に光っていたのは、登場するキャラクターたちの面白さにあるだろう。それら2作品は2クール(6カ月)という放送期間だったため、視聴者に主人公を見守り続けたいと思わせる魅力づくりや、毎話を盛り上げるサブキャラクターの活躍がなければ長いスパンの物語を成立させることが難しかったと言えるのだが、今作は1話完結の単発ドラマで、そのハードルはより高くなってくる。事件発生から推理をさせるための伏線の描写、そして解決するまでの段取りと、全体の時間が短くなればなるほどキャラクターを描く時間がなくなってくるからだ。しかし今作もこれまでと同様に、キャラクターの面白さが際立つ作品になっている。

今回主軸となって動くのは、圧倒的なIQを持ちながらもグロテスクなことが苦手な刑事・戸隠九十九(ユースケ・サンタマリア)と、交番勤務だがいつか刑事になりたいと夢見る、愛嬌たっぷりで純粋、しかし度胸ある警察官・安藤花恵(川栄李奈)。一癖ある刑事とそれを支えるバディという構図は一見ありがちにも思えてしまうのだが、ありがちだからこそ安心感があり、絶妙な会話劇も楽しく、開始直後から2人のキャラクターに魅了され、物語へ即座に“乗っていける”効果を生んでいる。またそれら2人の“設定”にも、しっかりとした“背景”と“物語”があり用意周到な作りだ。

そのほか、今作では20人近くの登場人物が“容疑者”として登場するのだが、そのどの場面も、怪しさだけを際立たせたただの“フラグ立て”ではない、シーン単体のみを見ても楽しくも怪しい、興味深いシーンに仕上がっており、めくるめく豪華メンバーたちの濃密なキャラクターショーを堪能することができる。

そのキャラクターの巧みさを見事に発揮させているのが、今作の脚本を手掛ける清水友佳子氏だ。清水氏はTBSで『夜行観覧車』『リバース』『最愛』といったミステリーの良作を手掛けてきたのだが、今年1月期の『リバーサルオーケストラ』では、それらの作品とは毛色の異なる地方楽団を舞台にした群像コメディを作り上げた。この作品の良さは、オーソドックスな再生物語の中に、心温まる“人情ドラマ”を忍ばせた点だろう。それは今作にも健在で、ミステリーのために用意された伏線さえも、犯人探しの手がかりだけでなく、人情物語へと昇華させていく展開は見事だった。伏線をただ意味ありげに思わせる道具としてではなく、清水氏の丁寧に人間を描きたいという思いが表れていた。

また今作は、視聴者に推理をさせるだけでなく、世の中を俯瞰(ふかん)して問題提起をしてみせる“社会派”の一面もある。ネタバレになるため多くは語れないが、結末は賛否を巻き起こすであろう、かなり挑戦的な内容をはらんでいる。それは昨今のSNSなどが普及したことによる何が真実かという問いかけと、それによる正義の暴走を描いていることに起因しているのだが、ともすればこのドラマ自体がその攻撃の矛先を向けられてもおかしくないにもかかわらず、エンタテインメントとして納得できる説得力を持たせているのが、重要なキーマンを演じる小栗旬の存在だ。

小栗は、日本テレビ開局70年特別ドラマという大作に華を添え、さらにその存在感と奥にある深み、何より視聴者を魅了するエンターテイナーとして絶妙なバランスで、今回の挑戦的な物語をより視聴者へ受け止めやすくさせる役割をも見事に全うしている。それは一体どういうことなのか、小栗が演じる“誘拐された人気政治家”というその造形美も堪能してほしい。

最後に、これまでの『あなたの番です』『真犯人フラグ』は、事件発生(初回)から犯人発覚(最終回)までの物語が長く、登場人物たちの背景や物語を深読みするだけの“醸成”が豊富で、それによって視聴者の推理合戦が白熱したといっていい。だが今作は正味2時間強で完結する単発ドラマであるにもかかわらず、キャラクターの面白さに加え、人情ドラマで心が温まり、それゆえ心が絞めつけられ、最後には社会派な一面も見せ、衝撃的な事件の真相が明らかになっていく…という濃厚さ。考察ドラマではもちろんあるのだが、考察を邪魔するかのような、ドラマとしての面白さがたっぷりと詰め込まれている。

だからこそ、この作品をドラマとしてだけでなく、視聴者参加型の生放送として、どうやって外側を盛り上げていくのかにも興味がわいてくる。まさに新感覚のテレビ体験を味わえそうだ。

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