Appleが2023年9月12日のイベントで、新しいiPhoneやApple Watchとともに発表した「AirPods Pro(第2世代、USB-C)」(AirPods Pro 2)。充電器を兼ねるケースが、これまでのLightningからUSB-Cに変更された点は、組み合わせるiPhoneのUSB-C化に歩調を合わせる形となりました。
しかし、Appleのニュースリリースによると「さらなる防塵性能のほか、Apple Vision Proでのロスレスオーディオを備えてアップグレード」とあります。つまり、変わったのはケースだけでなく、AirPods Proの本体やイヤーピース部分にも変更が加わっているのです。
では、どのようにして、このAirPods Proのロスレス再生を実現しているのでしょうか。iOS 17で追加された新機能についても触れながら解説したいと思います。
USB-Cを加えた多彩な充電方法
AirPods Pro 2のケースは、イヤーピースである本体の充電器であるとともに、バッテリーを備えています。そのため、AirPods Pro 2は1回の充電で6時間再生を実現し、ケースのバッテリーを含めて30時間の再生時間を稼ぎ出します。
AirPodsの登場時から、ケースは電源のON/OFFと充電器の役割を果たし、iPhoneと初めて接続する際にも、フタを開けるだけでペアリングを行うきっかけとして、AirPodsの便利さを提供してきました。
今回のアップグレードでUSB-Cケーブルで充電が可能になったことで、iPhone 15やMacと同じ充電器を用いることができるようになりました。また、iPhone 15は4.5Wまで、接続した機器への充電にも対応したことから、USB-Cケーブルを用いて、iPhoneのバッテリーでAirPods Pro 2を充電することも可能です。
加えて、ケースにはワイヤレス充電機能も用意されており、MagSafeや一般的なQiのワイヤレス充電器に載せて置くだけで充電できます。さらに、Apple Watchのワイヤレス充電器でも充電可能となっているため、気がついたら充電できる環境が十分整ったと言えます。
iOS 17で実現する「適応型オーディオ」とは
iOS 17にアップグレードすると、Lightningケース付きのAirPods 2も含めて、新しいアクティブノイズキャンセリング(ANC)のモード「適応型オーディオ」が追加されます。
これまでのANCには、「外部音取り込み」と「ノイズキャンセリング」の2つモードと、OFFが用意されていました。「適応型オーディオ」は、外部オン取り込みとノイズキャンセリングの中間に位置し、ノイズがうるさいところではより強力なノイズキャンセリングを、静かなところではその効果を弱める仕組みとなっています。
アクティブノイズキャンセリングは、耳から入ってくる外部の音を打ち消す音を再生することで、人の耳では音楽に集中できる環境を作り出す仕組みです。そのため、音が消えているのではなく、聞こえなくなっている状態といえます。
個人差はありますが、筆者も、長時間ノイズキャンセリングヘッドフォンを聴いていると、妙に疲れを感じることがあります。本来、外部の音を完全に打ち消せていれば無音として感じられるだけで、AirPods Pro 2も高い精度でのノイズキャンセリングを実現していますが、それでも完璧でありません。また人によっては、サー、スーというホワイトノイズを感じたり、耳が詰まったような感覚を覚える人もいるかもしれません。
そうした人にとって、外部の環境によってノイズキャンセリングに強弱をつける適応型オーディオは、より自然な環境を作り出してくれるのではないでしょうか。
加えて、人の声を感知して聞こえるようにする機能もON/OFFで追加されました。お店などで自分が話し始めた際、相手がいるはずですから、人の声を通す処理をすることによって、会話を成立しやすくする仕掛けです。騒音はカットし、人の声を通すノイズキャンセリング機能になるため、聞き取りやすいと感じる場面も増えそうです。
H2チップはロスレス再生に対応する?
ノイズキャンセリング機能のアップデートは、Lightningコネクター付きのケースが付属するこれまでのAirPods Pro 2でも利用できます。しかしここから先は、USB-Cコネクター付きケースのAirPods Pro 2でのみ利用できる新機能となります。
Apple Vision Proとの組み合わせにより、AirPods Pro 2は、20bit/48kHzのロスレス再生を実現することが、プレスリリースでも明らかになりました。
Appleイベントの現地での取材活動を通じて、ケースだけでなく、AirPods Pro 2もハードウェアとしてアップグレードがなされている点が確認できましたが、その一方でどのようにロスレス再生を実現するのかについて、詳しく語られていませんでした。
9月22日に公開されたBrian Tong氏のPodcastに出演した、Appleのセンサー&コネクティビティ担当バイスプレジデントのRon Huang氏が、AirPods Pro 2でどのようにロスレス再生を実現しているのか、について語っています。
その中でHuang氏は、H2チップを用いた新しいコーデックと、5GHz帯域でVision Proと通信することによって、高音質でのリスニングを実現していると説明。ここで、「新しいコーデック」と「5GHz帯域」という2つの未確認の情報が出てきました。
前者は、ロスレス再生に関連するワイヤレス転送を行うためのものと考えることができ、H2チップにはそうしたデータを受け取るだけのポテンシャルが備わっていたことになります。
一方、「5GHz」の方については、Bluetoothではない無線での伝送を行うことになる、と考えられます。というのも、Bluetoothは現状2.4GHz帯域を用いており、5GHzとなると、Wi-Fiなどが考えられられます。
一般に、高周波数になると、1チャンネルあたりの帯域を広く採ることができ、その分データ転送幅も拡がります。ロスレスオーディオは、これまでよりもデータ量が大きいため、これを安定して転送するために5GHzを用いるのでしょう。
Vision Pro以外での対応はどうなる
今回、Apple Vision ProとUSB-Cケース付きのAirPods Pro 2の間で、5GHzと新しいコーデックによるロスレスオーディオの再生に対応することになりました。Vision Proは2024年1月以降、アメリカから順次発売されていくスケジュールとなっています。
このロスレスオーディオの再生については、今後、何らかの新しい規格として、ほかのアップル製品に波及していくことは十分に考えられます。
例えばMac製品であれば、ロスレスオーディオの再生に対応することで、音楽や映像の視聴だけでなく、それらの制作の現場でも役立つことになるかもしれません。また、iPhoneやiPadに搭載されれば、より手軽なロスレス再生環境を手に入れることができそうです。
ただし、5GHzについては、各国の電波利用の規制もクリアしていく必要があります。日本では、Wi-Fiの5GHz帯域のうち、W52(5.2GHz)、W53(5.3GHz)の帯域の屋外利用が制限されています。
こうした規制に関わるのかどうかも含めて、引き続き情報に注目していきたいと思います。