物流業界でトラック運転手の人手不足と働き方改革による「2024年問題」の発生が危惧される中で、モーダルシフトが注目を集めています。モーダルシフトとは荷物を輸送する手段の転換を意味しており、主にトラックから鉄道と船舶への転換が中心です。

モーダルシフトはトラック運転手の人手不足対策になるだけではなく、二酸化炭素排出量の削減など環境保護にもつながる取り組みです。ただし、コストがかかる点や場所が限られる点など、課題もあります。

この記事では、モーダルシフトの効果や課題について、わかりやすく解説します。

モーダルシフトとは何か|意味と定義

  • モーダルシフトとは何か|意味と定義

    モーダルシフトとは輸送手段の移行を意味します

モーダルシフト(modal shift)とは、直訳すると「モードの移行」という意味で、主に貨物輸送手段を別の手段に移行させることです。モーダルシフトは和製英語であり、英語圏では同じ意味で「mobility shift」という言葉が使われます。

一般的な文脈上のモーダルシフトとは、輸送手段のトラックから船舶や貨物鉄道への移行を意味します。モーダルシフトにより積載量が増え、二酸化炭素排出量を削減できるメリットがあるため、1990年代以降のヨーロッパで積極的に推進されています。

日本でも注目されるモーダルシフトとはどのような行為か、実例を挙げて確認していきましょう。

モーダルシフトとは「物流モードの変化」

モーダルシフトとは物流モードの変化を意味し、労働環境・自然環境の改善に寄与するものです。トラックは一台あたりの積載量が少なく、二酸化炭素排出量の多さや運転手の長時間労働も大きな問題です。船舶・貨物鉄道は一度に大量の荷物を運べる上に定期運行が徹底されているため、トラックからの転換で問題を解決できます。

ただし、モーダルシフトは万能の施策ではありません。内陸部には船舶が到達できませんし、貨物駅がない地域も存在します。最終的に企業や家庭に荷物を届けるのはトラックであり、ドライバーです。また、高コストとなる可能性もあります。

モーダルシフトの定義

日本の国土交通省のWebサイトを参考に、モーダルシフトとは何か、定義を具体的に確認します。モーダルシフトは「深刻な地球温暖化の進行を防ぐため、二酸化炭素排出量の削減など環境負荷低減が企業の社会的責任(CSR)」と位置付けられており、有力な手段です。

たとえば、工場から店舗までの100km区間で、トラックで製品を輸送していたとします。モーダルシフトとは、トラックから船舶・鉄道に荷物を積み替える「転換拠点」を工場と店舗の間に設置し、可能な限りトラックによる輸送距離を減らす行為です。

ただ、モーダルシフトは製造業など輸送を依頼する事業者のみで行えるものではありません。国土交通省が「モーダルシフトとは、2以上の者の連携が必要な施策」だと指摘するように、運送会社や船舶・貨物事業者の協力が必要不可欠です。

よって、モーダルシフトとは複数社が連携してトラックから船舶・鉄道に輸送手段を転換し、流通網の効率化と環境負荷低減、労働環境改善を実現する施策であると定義できます。

ヨーロッパで1990年代以降進むモーダルシフト

ヨーロッパでは1980年代にモーダルシフトという概念が提唱され、1990年代以降に大きく進展しました。モーダルシフトとは主にトラックを別の輸送手段に置き換える施策ですが、ヨーロッパでは鉄道輸送よりも船舶輸送が大きな比率を占めているのが特徴です。

パリやフランクフルトといったヨーロッパの大都市は、多くがライン川のような大規模河川に面しており、船舶を用いるモーダルシフトとは相性がよいといえます。19世紀以降は鉄道の発展に伴い衰退しつつあった船舶輸送ですが、1990年代以降は有力なトラックの代替手段です。

モーダルシフトの効果とメリット

  • モーダルシフトの効果とメリット

    モーダルシフトは環境問題と労働問題の解決に寄与します

ここまで見てきたように、モーダルシフトとはトラックから船舶・鉄道に輸送手段を置き換えることで、大量輸送を可能にするとともに環境問題と労働問題の解決につながる施策です。企業もモーダルシフトの実施によって、メリットを享受できます。

二酸化炭素排出量の削減で環境負荷を低減できる

1970年代末に第二次オイルショックが起きて世界的に原油価格が高騰し、ヨーロッパでも酸性雨によってドイツなどの森林破壊が進んだことで、エネルギーの節約と環境保護の重要性が意識され始めました。1980年代当時は、モーダルシフトとは環境保護の側面が大きかったといえます。

事実、2018年に日本の国土交通省が公表した資料によると、1トンの荷物を1km運ぶ際に排出される二酸化炭素は、トラック(営業用貨物車)の233トンキロに対し、船舶は39トンキロ、鉄道はわずか22トンキロです。

効率的な運送で物流2024年問題が解消できる

日本でモーダルシフトが注目を集める理由として、物流の2024年問題が挙げられます。2024年問題とは、2024年4月にトラック運転手の時間外労働に年間960時間の上限規制が設けられ、トラックの稼働時間が減少することです。

消費者庁によると、2024年問題による輸送力減少は2024年度に14%となり、2030年度には34%に達する可能性があります。モーダルシフトは2024年問題の解決に寄与するものであり、国土交通省が推進事業補助金を交付するなど官民挙げて取り組まれています。

物流企業の課題解決につながる

モーダルシフトは環境保護や労働力不足対策となる施策ですが、企業や消費者にとってもメリットがあります。トラックと異なり、鉄道や船舶は一度に大量の荷物を運搬でき、運転手も少数で済むため、燃料費や人件費といったコスト削減が可能です。

また、船舶へのモーダルシフトとは災害時の事業継続対策(BCP対策)でもあります。地震や台風によって陸路が封鎖されても、海上のフェリー航路による荷物の運搬が可能です。また、船舶・鉄道は定時運行が可能な点もメリットとして挙げられます。

モーダルシフトが企業と消費者双方にもたらすメリットは、振動により荷物が破損する可能性の低減です。トラックに荷物を積み込む方式と比較して、コンテナによる運搬を行う鉄道は振動が発生しにくいですし、船舶ならば一層振動が少ないとされています。

モーダルシフトの課題とデメリット

  • モーダルシフトの課題とデメリット

    モーダルシフトは輸送時間やコストの面で課題があります

ここまではモーダルシフトとは環境問題や人手不足の対策として有力な手段であることを紹介してきましたが、一方で課題やデメリットも存在します。

輸送時間が遅延する可能性がある

交通渋滞の影響を受けるトラックと異なり、船舶・鉄道は原則として定時運行が可能です。しかし、モーダルシフトとは輸送時間の短縮を目的とするものではありません。モーダルシフトによってかえって輸送時間が長くなる可能性もあります。

倉庫から商品を発送して消費者宅に届ける場合、最初から最後までトラック輸送で途中の積み替えもなければ、止まることなくスピーディな配送が可能です。しかし、モーダルシフト後は港や貨物駅でのトラックへの積み替えに時間がかかってしまいます。

貨物列車の東京・大阪間の所要時間は約6時間であり、高速道路を使ったトラック輸送とほぼ同じです。しかし、港や貨物駅と事業所や家庭の間はトラック輸送が必須で、積み替えの手間が発生するため、全体としてのリードタイムは延びてしまいます。

専用コンテナが必要で高コストとなりうる

モーダルシフトとは環境負荷低減や労働力不足対策に貢献する手段である一方で、推進する企業のコスト削減に結び付くとは限りません。物流会社によると、輸送距離が500km未満ならばトラック輸送のほうが、コストが安く済むとされています。

また、全区間がトラック輸送なら荷台に荷物を積むだけで済みますが、船舶や貨物列車に荷物を積む際は規格化されたコンテナに荷物を入れる必要があります。荷物が宅配便程度の大きさなら問題ありませんが、仮に専用コンテナが必要な場合は追加コストが必要です。

貨物路線や港から遠い場所では実施できない

JR貨物によると、貨物駅は日本全国に約140か所あります。また、日本長距離フェリー協会の航路案内に掲載されているのは20港の15路線です。モーダルシフトとはトラックから船舶と鉄道への転換による物流の効率化ですから、これらの貨物駅や港の活用が求められます。

言い換えると、貨物駅や港から遠い場所に荷物を運ぶ場合は必ず長距離のトラック輸送が必要になります。また、先述のように事業所や家庭まで荷物を運ぶ際はトラックへの積み替えが必須です。モーダルシフト後もトラックが輸送を担う区間は、「ラストワンマイル」と呼ばれます。

モーダルシフトとは「輸送区間の全てを船舶や鉄道に置き換える」ものではなく、可能な限りの転換を図るものです。ただ、輸送区間が短距離かつ船舶・鉄道区間の割合が低いと、モーダルシフトのメリットを享受することは難しくなります。

モーダルシフト推進のために行える取り組み

  • モーダルシフト推進のために行える取り組み

    中小企業や個人でもモーダルシフト推進に取り組めます

モーダルシフトとはメリットとデメリット双方が存在する施策ですが、地球環境保護と労働力不足対策のために欠かせない取り組みです。しかし、トラックから船舶・鉄道に輸送手段を切り替えられるのは、大企業や運送業者自身に限られます。

たとえば、トヨタ自動車のように自社で物流網を構築できる企業はモーダルシフトとの相性がよいといえます。トヨタ自動車のモーダルシフトとは10トントラックと同等の31フィートコンテナを契約し、貨物列車で工場間の部品輸送を行うことです。

では、中小企業や個人はどのような手段でモーダルシフトを推進できるでしょうか。代表的な取り組みを紹介します。

国土交通省の推進事業で補助金を利用できる

日本政府は「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」で「モーダルシフトの更なる推進」を掲げており、担当省庁である国土交通省が、補助金が給付される「モーダルシフト等推進事業」を担います。

モーダルシフト等推進事業の認定・交付を受けた事業者は令和4年度(2022年度)で18件と、多くはありません。しかし、荷主や物流事業者の協議会がモーダルシフト推進事業を行えば、上限総額1,000万円の補助金を受給可能です。

国土交通省のWebサイトに記載された採択例として、トラックから貨物鉄道への転換や、倉庫内での無人フォークリフト導入などが挙げられます。運送業者と協力して船舶・鉄道への転換を行ったり、自社倉庫での省力化・無人化を図ったりすることが重要です。

また、主に港湾を有する地方自治体では、トラックから船舶輸送への転換に補助金が支給される場合があります。事業所が対象となるか、自治体に問い合わせてください。

個人でも輸送時間の見直しでモーダルシフトに貢献できる

モーダルシフトとは、二酸化炭素排出量削減とトラック運転手の労働力不足対策を目的とする施策です。本来のモーダルシフトとは意味合いが異なりますが、輸送手段の変更が難しい中小企業や個人でも、同様の目的に適う取り組みを行えます。

代表的な取り組みは、荷物の配達日時を遅らせて輸送のリードタイムを延ばすことです。速達や当日配達には、運行時間が限られる船舶・鉄道は適さず、トラック輸送が選ばれます。配送時間に余裕を持たせれば、船舶・鉄道が使われる可能性を高められます。

また、トラックによる再配達を減らすために不在時間を減らし、確実に受け取れる日時に指定するなどの取り組みも大切です。一見するとモーダルシフトとは無関係でも、環境と労働を守る目的に貢献できます。

モーダルシフトとは物流網の未来に欠かせない過程である

  • モーダルシフトとは物流網の未来に欠かせない過程である

    モーダルシフトの推進には企業や個人の協力が不可欠です

モーダルシフトとは何であるか、社会の認知度は低く、取り組みも不十分であると言わざるを得ません。しかし、深刻化する地球温暖化と「2024年問題」に代表される物流業界の人手不足への対策として、モーダルシフトは必須の施策です。

モーダルシフトは一企業のみで行えるものではないため、運送業者の協力が欠かせません。また、モーダルシフトとは無関係に見える企業や個人も、再配達を減らすなどの取り組みで環境負荷と過重労働を低減できます。

政府の検討会では、何も対策しなければ2030年に34%の輸送力不足が生じると推計されました。日本経済を担う物流網を未来に向けて維持し続けるには、社会全体でのモーダルシフト推進が重要です。