JR東海のハイブリッド車両HC85系、東武鉄道のN100系「スペーシアX」、南海電気鉄道8300系と泉北高速鉄道9300系が、日本デザイン振興会主催の「2023年度グッドデザイン賞」を受賞した。
JR東海のHC85系は、特急「ひだ」「南紀」の新型ハイブリッド車両として投入され、国内最速120km/hの走行性能、CO2排出量30%削減の環境性能を両立させるなど、安全性・快適性・環境性能を大幅に向上させた。車内は沿線の伝統・文化を取り入れたデザインとし、多様なニーズに対応した設備も取り入れ、魅力あふれる車両となっている。
審査員からは、「分割や増結が多い列車であることに対処して貫通扉を標準装備するなど、特急用車両としては制約の多い条件がありながら、先頭部を曲面基調とするとともに、白と黒の塗り分けやオレンジのラインをやわらかくすることで、歴史的観光地への特急列車にふさわしい雰囲気を表現している。従来型では2基搭載していたエンジンを1基に減らし、大容量バッテリーとモーターを代わりに採用したハイブリッド方式とすることでCO2排出量の大幅低減に成功したことも、観光列車として説得力がある」と評価された。
東武鉄道のN100系「スペーシアX」は、車体設計・デザイン検討・製作を担当した日立製作所との共同受賞。「スペーシアX」は「Connect&Updatable」をコンセプトに、従来の100系「スペーシア」が築き上げてきた伝統とブランドイメージを維持・継承しつつ、より進化した上質なフラッグシップ特急をめざして製作された。
審査員からは、「コロナ禍を経て、量から質への転換が求められる鉄道業界では近年、個性的な特急車両の発表が相次いでいる。その中でも本車両は、特筆できる部分が大きい。なによりも目立つのは、日本の鉄道車両では絶滅に近い状況にあった飲食スペースを復活させたことである。6種類のインテリアを用意し、家具を思わせるイスやテーブルを、安全性に配慮したうえで採用したことも斬新。車体色や車内照明に目的地の名所旧跡の色彩や造形を取り入れながら、側面の行先表示器は車内案内の動画も提供しており、鉄道旅行の魅力を多彩な表現でアピールしている」と評価されている。
南海電気鉄道8300系・泉北高速鉄道9300系は、「省エネルギー化」「安全・サービスの向上」「車両メンテナンスの向上」をめざして開発された車両で、「人と環境に優しい車両」として完成。2015年から導入している南海電鉄8300系は、一部車両にラゲッジスペースを設け、さまざまなニーズに対応している。利用者の声を内装に反映させ、より車両に親しみを感じてもらえるようにアップデートしてきた。
今年導入された泉北高速鉄道9300系は、8300系をベースに、外装と座席シートの色に泉北高速鉄道の伝統のカラーを取り入れ、泉北らしさを表現するとともに、内装に濃い色調の木目柄を多用することで、落ち着きと安らぎの空間を演出した。
審査員からは、「通勤用の鉄道車両は基本設計を共通とすることが多く、個性が出しにくい。その中でこの2車種は、グループとしての共通項と、会社ごとの独自性を絶妙に両立している。とりわけ車内の木目調の床と、人数分を2トーンで色分けしつつ落ち着いた色調の座席は、住宅のインテリアを思わせる。そのうえで9300系はダークな木目調と暖色系の座席とすることで、ニュータウンを走る鉄道車両としての差別化を実現している。空港アクセス鉄道で重要な多目的空間を導入するなど、多様化に配慮している点も印象的である」と評価された。