2023年のノーベル化学賞は、テレビ製品やコンピューターのモニター、LEDライト、医療技術などに応用されている「量子ドット」の発見・開発に寄与した3人の研究者に授与されることが決まった。

  • 量子ドットのイメージ
    (C)Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences”

受賞者は、以下の3人。

  • アレクセイ・エキモフ(Alexei I. Ekimov)氏
    旧ソ連出身、米Nanocrystals Technology 元主任研究員
  • ルイス・ブルース(Louis E. Brus)氏
    米オハイオ州出身、米コロンビア大学教授
  • ムンジ・バウェンディ(Moungi G. Bawendi)氏
    仏パリ出身、米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授
  • 受賞者3名の似顔絵。左からムンジ・バウェンディ氏、ルイス・ブルース氏、アレクセイ・エキモフ氏
    Ill. Niklas Elmehed (C)Nobel Prize Outreach

量子ドットは現在、一部の液晶テレビやPC向けディスプレイで採用されている“QLED(Quantum dot Light Emitting Diode)テクノロジー”として知られており、LEDランプの光に微妙なニュアンスを加えるといった用途でも活用。さらには、外科医が手術の際に腫瘍組織をマッピングして切除しやすくするなど、医療分野においても活用されている。

ノーベル化学委員会の委員長を務めるヨハン・オクヴィスト(Johan Åqvist)氏は、「量子ドットには多くの魅力的で珍しい特性がある。重要なのは、サイズによって色が異なることだ」と述べた。

選考委員会では、「量子ドットは人類に最大の利益をもたらしている。研究者らは、将来的には量子ドットがフレキシブルエレクトロニクス、小型センサー、薄型太陽電池、暗号量子通信技術に寄与すると信じている。我々は量子ドットの可能性を探求し始めたところだ」とコメントしている。

  • 粒子が収縮して量子効果が生じるイメージ
    (C)Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences”

元素の性質はその元素が持つ電子の数によって支配されることが知られているが、物質がナノの次元まで縮小すると量子現象が発生する。今回のノーベル化学賞の受賞者らは、その性質が量子現象によって決まるほど小さな粒子を生成することに成功。「量子ドット」と呼ばれるこの粒子は、現在のナノテクノロジーにおいて非常に重要な存在となっている。

物理学者は、理論的には(粒子の)サイズに依存する量子効果がナノ粒子に生じる可能性があることを以前から知っていたが、この知識が実用化されるとは考えられていなかった。

1980年代初頭になって、アレクセイ・エキモフ氏は、色ガラスにサイズ依存の量子効果を作り出すことに成功。この色は塩化銅のナノ粒子に由来するもので、エキモフ氏は量子効果によって粒子の大きさがガラスの色に影響を与えることを実証した。

その数年後、ルイス・ブルース氏は流体中を自由に浮遊する粒子における、サイズ依存の量子効果を世界で初めて証明。1993年には、ムンジ・バウェンディ氏が量子ドットの化学的製造に革命をもたらし、さまざまな活用が可能となる高品質な粒子を作りだした。