Apple Watch Series 9を実際に使用して1週間。watchOS 10がもたらしたボタン操作やインタフェースの変化に目が向きがちではありますが、久しぶりにハードウェアの性能にも変化が感じられるモデルになっています。

  • 外観のデザインは変わらないまま、性能面で大きな進化を見せた「Apple Watch Series 9」

チップの性能アップで体験が変わった

もっとも変わったと感じるのは、新しい「S9 SiP」(System in Package)の性能がもたらした恩恵です。これまでSeries 7、8を使っていても動作が遅いと感じたことはなかったものの、時々Siriの動作で待たされることがありました。例えばタイマーセットを頼むと「少々お時間をください……」と表示され、タイマー開始まで10秒くらいかかることが時々ある、といったものです。

この場合、原因はApple Watchそのものでなく通信環境にあることが多いのですが、 Series 9はチップ性能のおかげで通信せずにApple Watch上でSiriが動作できるため、他デバイスとの連携がないリクエストなら待たされることはありません。Series 9に搭載された「S9」チップは、iPhone 14 Pro/Pro MaxやiPhone 15搭載の「A16 Bionic」と同じA16コアをベースにしているそうなので、それも納得です。

  • iPhoneに搭載された「A16」コアをベースにした「S9 SiP」。機械学習性能やGPU性能が大幅に向上しています

Series 9の新機能「ダブルタップ」も、このS9チップのおかげで実現されたものです。画面に触れることなく、Apple Watchを装着した方の手で親指と人差し指を2回つまみ合わせる動作によって、アプリの主ボタンを操作したり、スマートスタックを表示させたりできるというものです。

例えば通知を閉じたり、音楽を再生/停止したり、タイマーのアラートを止めるなど、状況に応じてさまざまな操作が可能です。ウェアラブルデバイスでありながら、装着する手と操作する手の両方が必要だった状況から脱し、操作性の面で誕生以来の大きな変化をもたらしたと言えるでしょう。Apple Vision Proの操作手段となる可能性も考えられます。

  • 正式なダブルタップ対応は10月のwatchOSアップデートからになりますが、一部機能はすでに使用が可能です。ちなみに画面に表示されるガイドは記事執筆時点で「ダブルピンチ」の表記になっています

さらに、省電力性能も向上しています。常時表示ディスプレイがオンの状態で、朝7時から日付を超えるまで使用しても、バッテリー残量は50%以上です。

  • 朝7時に100%で使用開始。常時表示ディスプレイがオンでも50%以上残っています

一方、ディスプレイの最大輝度はアップしているので、明るい場所での見やすさが向上しています。

  • Series 8とSeries 9の明るさ比較。屋内(上)ではあまり変わりませんが、屋外(下)では違いがわかります。強い直射日光で比べればさらに差が明確になると思われます

小幅な進化と言われながらも、血中酸素ウェルネスや皮膚温センサーなど過去2〜3年で少しずつ計測できる項目を増やしてきたApple Watch。それらをすべて搭載した上でバッテリーの持ちが良くなったわけですから、完成度は高いと言えるでしょう。さらに、高性能なチップを搭載したことにより、将来的なOSアップデートにもより長く対応していけるはずです。

カーボンニュートラル製品を選ぶことに意味はある?

Apple Watchは、Apple製品として初めてカーボンニュートラルを実現しました。Appleとして初めてどころか、こうした電子機器では他に聞いたことがありません。「カーボンニュートラルを目指す」は、今やあらゆる企業経営に求められるテーマですが、1つの製品として形になったのは貴重な事例と言えます。

  • アルミニウムケースは再生アルミニウム100%。その他の金属にも再生素材を使用し、バッテリーにも100%再生コバルトを使用

私たちがこれを買うことですぐに気候変動が改善するわけではありませんが、製品の機能は全く同じまま、充電する電力まで再生可能エネルギーへの投資という形で回収されているのですから、ベターと思われる選択を躊躇する理由はありません。

  • カーボンニュートラルに認定されたアイテムには「Carbon Neutral」のマークが記載されます

しかしAppleには申し訳ないのですが、カーボンニュートラル製品を選択したくても、スポーツループは(優秀な素材ではあるものの)カジュアルすぎてコーディネートを選びます。今回筆者は悩んだ末、カーボンニュートラル製品ではないものの、新しく採用された繊維素材「ファインウーブン」を使った「タンモダンバックル」バンドを選択しました。プレーンで使いやすそうな質感と、ビジネスシーンにも違和感のない品の良さが理由です。バンド単体で23,800円と、まあまあなお値段でした。

  • 製造までの炭素排出量の多いレザー製品の取り扱いをやめたApple。新しく登場した素材「ファインウーブン」は軽くて丈夫そうに見えました

それが、使い始めて数日でちょっとした変化が気になり始めました。1つは、水に濡れた跡が消えにくいことです。手洗いや炊事でバンドに水がかかると、濡れた部分が目立ち、乾くまで半日くらい跡が残ってしまいます。もう1つは、思ったより早く汚れが目立ってきそうなことです。1週間使った程度ですでに新品感が薄れています。高いのに……。定番のシリコンバンドの適材適所ぶりを(炭素排出量はともかく)改めて実感しました。

  • 水濡れが目立ちやすく、乾くのに時間がかかります。何かに引っ掛けたような跡が残りやすく、繊維なので微細な汚れがつきやすいような印象も

ちなみに、ファインウーブンは純正iPhoneケースにも採用されましたが、傷付いたり跡がついたりしやすいなど、クレームが多数寄せられているそうです。アクセサリに用いられる素材としては、まだ力不足と言えそうです。

Apple Watchのバンドは常に汗や皮脂にさらされ、摩擦や衝撃の影響も大きく、素材性能が使用感に直結するパーツです。ファッションの一部として、樹脂やレザーのバンドを複数購入し使い分けるユーザーも少なくありません。これはApple Watchを楽しむ方法の一つとして、Apple自身が提供してきたことでもあります。改めて、本当の意味で実効性あるカーボンニュートラル実現の難しさが感じられます。

今、Apple Watchを買うのは損か得か

この記事を読んでいる方は、Apple Watchに何を求めているでしょうか? 初めて買うかどうかの品定めをしているなら、迷う必要はありません。次のモデルは血圧や血糖値の測定が可能になるかも、というウワサは数年前からありますが、迷っている間に消費カロリーや心肺機能の計測を始めた方が健康的です。1日でも早く使い始めることに意義があります。

すでにお使いの方なら、Apple Watchが「目的」でなく「手段」として生活の中に入り込んでいることを感じているのではないでしょうか。目的は健康管理や時間の管理といった日常的かつ継続的な自分自身のマネジメントであり、Apple Watchはあくまでそれを実現する道具=手段です。

必ずしも最新の道具でなくても目的は果たせます。生活の一部としてApple Watchを使う中で、「バッテリー性能が不安」「動作が遅い」などの違和感が出始めた時に、買い替えを検討してみるのがよいでしょう。新モデルに乗り換えても基本的な使用感は変わらず、自然に新しい機能が追加され、より快適に目的を果たせるようになるはずです。