将来に不安を抱えるミドルシニア世代。老後ロールモデルが通用しない今、セカンドライフに向けて考えるのは、農業や農的な暮らし!?
チバニアン兼業農学校(以下、同校)を運営するのは株式会社おひさま総合研究所。もともと太陽光などの再生可能エネルギーを取り扱う事業を展開する会社だ。農業とは異なる業種の経営者であった平山さんが農業系の事業を始めたのは、将来への不安に悩む50代~60代のミドルシニア世代の助けになりたいという思いがあったからだ。
「経済情勢が厳しい昨今は、ミドルシニア世代が本格的な老後を迎えるにあたって、不安の多い時代になっています。これらの世代は人数が多い上に、年上の世代より年金受給額も下がっている。従来の老後ロールモデルが通用せず、多くの人が悩んでいるのです」(平山さん)
そこで、セカンドライフの方向性として、農業や農的な暮らしを考える人が増えているという。同校への入校者のうち半数近くが50代以上の中高年層。会社勤めをしながら、セカンドライフで農業や農的な暮らしにシフトしていくための準備をする人が多いそうだ。
「50代くらいになると、就農しようとしても遠慮されることもあるようです。また、就農できたとしても、安定した収入が得られるまでは時間もかかりますから、年収も減ります。年代的にも貯蓄を食いつぶすことは避けたいところです。そこで、今の仕事を続けながら、農業系の事業に携わることができれば、ミドルシニア世代のニーズに応えられる。ミドルシニア世代へのサポートを考えるところから、兼業農学校の設立に至りました」
農業系事業というだけに、同校は栽培技術だけを教える学校ではない。農地の取得方法をはじめ、6次産業化や農家レストラン、耕作放棄地を活用したキャンプ場など、さまざまなアプローチを学ぶことができる。
農地取得をサポート
平山さんによると、兼業農家は新規に農地を借りづらいこともあるようだが、同校では、受講生の農地取得をサポートしていることもあり、受講生の多くが、同校の所在地である睦沢町近辺に農地を借り受け、農業や事業を行っている。
「睦沢町など行政や地域の方たちと連絡を取り合っていることもあり、農地の情報提供を受けやすいという側面があります。また、兼業でも対応可能な小規模でのスタートが多いので、農地バンクに掲載されていない耕作放棄地や1反ほどの小さい農地など、借りやすい土地を探していることもポイントでしょう」
また受講生たちも、農地の情報を共有し、条件の合う農地を探している。県外で就農する人もいるが、多くは睦沢町に農地を借りているため、県外から睦沢町まで通いながらノウハウを学ぶ受講生もいるという。
農地を活用した事業展開も!!
農地を取得した人たちの中には、栽培以外の事業に取り組む人たちもいる。
平山さんによると、山間部に放棄された農地を活用した小さなキャンプ場や農家レストランを計画していたり、子ども向けの自然探究学習事業を始めたりした受講生もいるという。
平山さんは「農地を使った上手な収益の伸ばし方があるなら、ぜひやるべきです」と話す。
主収入が別にある場合、小規模な事業でも挑戦しやすいという。時間や場所、費用など、限られたリソースを最大限に活用しながら目指すべき暮らしを具体化するために、兼業農家をはじめ農地を活用した事業というアプローチもあるのだろう。
チバニアンの卒業生たちは、今、何をしている??
仕事を引退して年金受給しながらコメ栽培。農地もさらに増やします!
◯伊藤 満さん
30歳で起業し、複数の会社を経営していました。
61歳で会社を後継者に譲り、現在は年金を受給しながら生活中です。
◯チバニアン兼業農学校に入校した背景は?
起業した際、60歳までは世間の役に立つために働こうと思っており、引退するのは60歳を過ぎてからと決めていました。引退後の生活では、長く苦労をかけた妻に残りの時間を使いたいと思い、いろいろ調べている中で農業に関心を持ち、チバニアン兼業農学校のことも知り入校しました。
◯参考になった授業・ノウハウは?
私自身は、引退後に入校していますし、平山さんが提唱する50代からの兼業農家にまったく当てはまらない条件でした。しかし、そもそも家庭菜園すらやったことがなかった私にとって、すべての授業が目からうろこのことばかりでした。
◯農地はどうやって探しましたか?
2023年1月に入校し、2月には学校から紹介された約3000平方メートルの水田の抽選に当たりました。今年は無事に稲刈りも終了し、収穫したコメは完売しました。
◯今は何をしていますか?
収穫の終わった田んぼのメンテナンスをしています。さらに、農地を増やすため、平山さんから応援していただきながら、新たな農地取得に向けて活動中です。
◯兼業農家としてのメリットやギャップなどを教えてください。
私は仕事を引退し年金を受給しているので、兼業農家というわけではありません。
ただ、平山さんが目指している「老後のために兼業農家になって準備をする」というのは、社会的にも、若い人にとっても意義があると思います。
◯今後の目標は?
私ぐらいの年齢になると、今後の生活や将来に大きな不安を抱いている人も多いと思います。そういった人たちの選択肢を増やせるように、自分の身をもって実感し、実践してきた「農業でささやかだけど幸せな暮らしができるよ、こんな方法があるんだよ」という思いを発信していきたいと考えています。
睦沢町で起業!! 房総半島で親子向け学習イベントを運営中です!
◯滝沢久輝さん
2011年に東京大学大学院卒業後、新卒でアクセンチュア株式会社に入社。
2014年に友人とともにtanQ株式会社を創業し、探究学舎での探究型授業の立ち上げ、授業企画設計、講師などを務めました。その後2016年より探究型通信教育タンキュークエストの運営をスタート。さまざまな学問をテーマにしたボードゲーム、漫画づくりに没頭(小学館より「原子分子まるわかりまんがアトモン編」を出版)。学芸大が推進する「未来の学校PROJECT」参画(2020年ー2022年)。
◯チバニアン兼業農学校に入校した背景は?
もともと小学生のお子様を対象とした探究学習の教育事業を営んできた経緯から、都心で暮らす親子が自然の中で思いっきり遊んだり、”開拓することで学ぶ” 場づくりをしたいと思いまして農地の取得を検討するようになり、チバニアンに出会いました。
◯参考になった授業・ノウハウは?
農地探索の授業は、自分で農地を探すにあたってとても具体的にノウハウを教えてくださり参考になりました。
また、授業以外にも日々コミュニティのチャットでさまざまな情報が共有されることや、同期の方との出会いやつながりができたことが大変助かりました。
◯農地はどうやって探しましたか?
平山校長経由でご紹介いただきました。
◯今は何をしていますか?
2023年6月よりチバニアン兼業農学校のある千葉県睦沢町にて「カイタク団」という屋号で開業しました。千葉県房総半島を中心に親子向け開拓学習イベントを運営中です。
◯兼業農家としてのメリットやギャップなどを教えてください。
自分の場合は、兼業ではなく、独立してしまったので、あまり当てはまらないかもしれませんが、やはり遠方まで定期的に通うことはなかなか負担になりますし、夏場は畑の雑草がものすごいスピードで成長してしまい、なかなか草刈りが追いつかないことが大変です。
◯今後の目標は?
今後はイベントコンテンツと子どもたちの受け入れ態勢を拡充するために、より広い農地の取得や宿泊ができる拠点を整備していきたいと思っております。
農業への関わり方には、多様なスタイルがある
伊藤さんのように年金を受給しながら、ライフスタイルとして農業に携わる人、また、滝沢さんのように、農業や自然といった要素に注目し事業展開を行う経営者もいる。筆者も農業をしながら、ライター業をしている兼業農家だ。自分のやりたいことと農業を掛け合わせて取り組めるので、充実した生活につながっている。
自分は農業の分野で何がしたいのか。どんな生活を送りたいのか。そんな観点から、就農の方向性を考えてみてもよいのではないだろうか。