ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)は9月27日、クレジットカードのタッチ決済の現状と、スマートフォンをタッチ決済対応の決済端末として利用できる「Tap to Phone」を解説するメディア向け説明会を開催しました。タッチ決済対応が遅れていた日本も急速にキャッチアップしており、Tap to Phoneがその一助になることが期待されています。

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    スマートフォンを決済端末にする「Tap to Phone」が日本でも拡大するか

日本のタッチ決済比率が約20%に

日本におけるVisaのタッチ決済対応カードは、今年3月に発行枚数1億枚を突破。新規発行、再発行はほぼタッチ決済対応になっているため、数年以内に全カードがタッチ決済対応になる見込みです。国際ブランドではMastercard、アメリカン・エキスプレス、JCBのいずれもタッチ決済を推進しており、クレジットカードのタッチ決済はVisa以外も進展しています。

Visaの集計によれば、世界でも欧州、カナダ、豪州などを中心に利用が進んでいて、約200の国と地域でタッチ決済が利用可能になっているそうです。今年3月時点で、世界のVisaの対面取引に占めるタッチ決済の割合は59%で半数を超えました。

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    世界におけるVisaのタッチ決済の利用状況。日本は薄い色で、3月末時点では20%未満のゾーンでした

日本は3月の時点でその割合が20%未満と出遅れていましたが、6月末時点では対面取引の5件に1件がタッチ決済になっており、とうとう20%に達しました。

利用が伸びているのは、Visaが「日常の主要4業種」と位置づける業種で、コンビニエンスストア、ドラッグストア、飲食店、スーパーでのタッチ決済取引件数が増加。2021年4~6月期と、2023年4~6月期を比較したところ、コンビニで約5.8倍以上、ドラッグストアで約9.6倍以上、飲食店で約11.6倍以上、スーパーで約4.5倍以上となっていました。

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    主要4業種におけるタッチ決済利用率が順調に拡大。利用件数は6月時点で5件に1件(20%)となりました

ちなみに以前の記事(「Visaのタッチ決済」対応カードが1億枚を突破 - 公共交通機関でも「世界でも類を見ないスピードで」導入が拡大)にもあるとおり、2021年1~3月期と2023年1~3月期を比較したデータでは、コンビニが約10倍、ドラッグストアが約12倍、スーパーが約5倍などとなっていました。基本的には順調に拡大しているようで、日常業種以外の業種にも広がってきていると話すのは、ビザ・ワールドワイド・ジャパン加盟店・アクワイアリング営業本部シニアディレクターの山田昌之氏です。

比較的高価格帯の加盟店でもタッチ決済対応が広がっていて、家電量販店なども導入。9月には、全国展開している百貨店としては初めて、大丸松坂屋がタッチ決済を導入しました。

「2年前(2021年)には、日常4業種以外のタッチ決済対応は7%しかなかったが、今年は22%まで増えた」と山田氏。対面取引に占めるタッチ決済の割合が約20%になった背景には、こうした高価格帯の業種でのタッチ決済拡大もあったと言います。

ちなみに、クレジットカードのタッチ決済の場合、物理カードのタッチでは上限金額が定められています。コロナ禍において1万円から1万5000円に上限が緩和されていますが、いずれにしても1万5000円以上の商品はカードを差し込んで暗証番号(PIN)を打ち込む必要があります。

その代わり、Apple PayやGoogleウォレットのようなスマートフォン利用の場合、生体認証による個人認証があり、これがPIN入力の代わりとなるため、スマートフォンのタッチ決済であればカード上限まで支払うことができるので、高額商品の支払いも可能です。

日本でもタッチ決済が広がる中、さらに拡大に繋がると期待されているのが「Tap to Phone」です。これはスマートフォンのNFCを使ってカードのタッチを受け付け、決済端末として利用するための機能です。

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    スマートフォンを決済端末として使うTap to Phone。安全性は従来の決済端末と変わらず、手軽に導入できる点がメリットとされます

なお、VisaではTap to Phoneと表現していますが、これは事業者によって異なり、同サービスを提供するSquareはTap to Pay、MastercardはTap on Phone、他にもTap on Mobileという表現もあって統一はされておらず、業界的にもあまり用語統一の動きはないそうです。ここではサービス名称を除いてTap to Phoneで統一します。

もちろん、こうしたサービスで国際ブランドが使える場合は、EMVによるセキュリティ基準やブランドのルールに準拠しているので、どの名称であっても通常の決済端末との違いは基本的になく、安全に利用することができます。逆に言えば、一定の条件をクリアする必要があるため、誰でも簡単にアプリを作ってスマートフォンを決済端末にできるわけではありません。

それでも、条件をクリアしたサービスの導入自体は容易で、NFC対応のスマートフォンやタブレットがあれば、アプリをインストールするだけで利用できるようになります。現在、日本ではAppleがiPhoneのNFC領域を開放していないためAndroid限定ではありますが、国内でもすでに複数のサービスが登場しています。

その中で、9月6日に「Tap to Pay on Android」の提供を開始したのがSquareです。詳細は連載「東奔西走キャッシュレス」第31回第21回を参照してください。

Tap to Pay on Androidで提供されるPOSレジアプリは、Squareターミナルなど、同社の各種製品でも利用されているものと同じアプリで、既存のSquareユーザーであれば同じ使い方ができます。

山田氏は、こうしたTap to Phoneの特徴として、これまでキャッシュレス非対応だった小規模店でもキャッシュレス対応できる点で画期的なソリューションだと指摘します。

すでに、世界では90以上の国と地域でTap to Phoneの導入が進んでおり、200万台のスマートフォンがTap to Phone端末として稼働している山田氏は説明。フードトラックやキッチンカー、小売店でのサブのレジ、イベント・展示会場、デリバリーといった現場で利用されているそうです。

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    Tap to Phoneの世界の導入状況。米国では中小加盟店のアンケートで好評だったそうです

IC化が遅れていた米国では、タッチ決済対応も遅れました。多くの決済端末がタッチ決済対応となっている欧州に比べて、米国ではタッチ決済の利用が少ないとされています。米国の中小加盟店へのアンケート調査では、コロナ禍前よりも消費者にタッチ決済が好まれていて、タッチ決済対応のアップデートが必要と回答。それに対してTap to Phoneがマッチするとの考えを示していたそうです。

インドの決済事業者Pine Labsでは、加盟店の間でTap to Phone端末が5万台稼働していて、トゥクトゥクや飲食店などで導入されているそうです。中小の加盟店では端末コストやPOSシステム導入がネックとなっていたところ、スマートフォンだけでタッチ決済対応が可能なので広がったと山田氏は言います。

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    海外の導入事例。タッチ決済が主流になっている国であれば、Tap to Phoneでも十分かもしれません

コスタリカにあるカフェ併設のベーカリーでは、レジ位置が固定されるPOSシステムを導入済みながら、コロナ禍の期間中にTap to Phoneを導入。テーブル決済ができるし、カフェとベーカリーで即座に会計できるので店舗運営が効率化されたとの報告。「従来のPOSを使わなくてもいい」とまで回答されたそうです。

日本でも一部で利用している店舗もあり、9月からのSquareによる「Tap to Pay on Android」正式サービス開始で、さらに拡大することも想定されます。

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    すでに日本でも導入事例があります。フライトシステムコンサルティングのTapion導入店のようです

Squareが6月に実施した試用プログラムでは好意的な声が多く、正式サービス開始後、Androidを使用する新規加盟店の50%がTap to Pay on Androidの利用を前提としているそうです。ちなみにSquareの加盟店の現状としては、トランザクション件数ベースでiOSが7割、Androidが3割とのこと。

Squareのジャパンエグゼクティブディレクターである野村亮輔氏は、同サービスには3つの導入メリットがある、と話します。

1つはもちろんNFC対応Androidスマートフォン(Android 9以上)であれば利用できるという手軽さ。モバイル通信か無線LANが利用できれば即座に事業を始められる、としています。

従来のSquare POSレジと違って、別途端末が不要。Bluetoothでの接続などの手間もありません。そうした業務負荷の削減もメリット。日本独自施策としてPayPayにも対応して機会損失もカバーしています。

その反面、クレジットカードやスマートフォン・スマートウォッチなどのタッチ決済(+PayPay)だけにしか対応できないため、すべての決済をカバーできていません。その点では、事業者の状況に応じて従来のSquare POSと比較する必要があるでしょう。

さらにメリットとして野村氏は、「接客と決済の融合」を挙げます。自ら商品を作って直接接客と販売をするという、いわゆるD2C(Direct to Consumer)において、小規模事業者も参入してきており、店主自らが接客するといったパターンで、そのまま決済までがシームレスに行える、という点を「融合」としています。

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    ビザ・ワールドワイド・ジャパン加盟店・アクワイアリング営業本部シニアディレクター・山田昌之氏(右)とSquareジャパンエグゼクティブディレクター野村亮輔氏

スマートフォンとアプリだけで決済ができるため、店員全員が決済端末を持つこともできます。接客してそのままの会計できるという購買体験もメリットになるとしています。

現状、AppleがNFC領域を開放しないと米国のようにTap to Pay on iPhoneは利用できませんが、野村氏もiPhoneユーザーが多い日本での利用拡大に開放を期待しています。とはいえ、高額なiPhoneをレジとして使うユーザーが拡大するかどうかは未知数ではあります。

いずれにしても、例えば個人で制作してオンラインで販売している商品を、イベントなどでリアル出店する際に、新たにPOSレジを導入する必要なく、すぐにクレジットカード決済が可能になるといった使い方が想定されています。

大手チェーン店でも、繁忙期や急な来店客の増加でレジの待機列が長くなった場合に、サブレジとして店員がその場で決済をするといった使い方もありえます。欧州では一般的な飲食店のテーブル会計も日本では普及していませんが、これも容易に実現可能。昼時のレジ渋滞がなくなる、といったメリットがあるでしょう。

今回はSquareのTap to Pay on Androidの紹介でしたが、フライトシステムコンサルティングのTapionは国際ブランドに加えて電子マネーにも対応。Soft Spaceと協業した日本カードネットワークのTap on Mobileは国際ブランドと電子マネー、PayPay以外のQRコードにも対応。三井住友カードもsteraプラットフォームにおいてSoft SpaceのTap to Phoneのデモを出展していたこともあります。

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    フライトシステムコンサルティングのTapion

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    今年2月末のリテールテックJAPANでデモ展示されていた三井住友カードのsteraを使ったTap to Phone

日本は、世界でも店舗側のクレジットカード対応が遅れていますが、物理カードのタッチ決済対応やApple Pay、Googleウォレットの普及自体は進んできています。さらにクレジットカード対応が進む国からの観光客であれば、同様に対応が進んでいます。

店舗側が手軽にクレジットカード対応できるTap to Phoneは、そうした店舗側の遅れを解消する一つの手段として期待できるのかもしれません。