福岡、熊本、大分3県を舞台に初開催される国際サイクルロードレース「マイナビ ツール・ド・九州2023」が10月6~9日に迫ってきた。韓国人観光客向けに九州の魅力を韓国語で伝えるユーチューバー・福岡アジョシ(韓国語でおじさんの意味)さんこと、冨永拓馬さん(33)とスタート地点となる北九州市の魅力を探ろうと、地元市民の台所「旦過市場」(小倉北区)を歩いた。

  • 福岡アジョシこと冨永拓馬さんと北九州市民の台所、旦過市場を歩いた

■「映える」海鮮丼か、ノドグロの煮付けか
■2度の大火から復活の魚料理店を食べ支え

「いらっしゃい」。アーケードに店主や店員の威勢のいい声があちこちから響く。鮮度のいい魚や名物のイワシのぬか炊き、練り物を売る店が並ぶ。飲食店も多い。どの店で何を食べようか目移りする中、冨永さんが選んだのは魚料理店「お食事処(どころ)あらまき」だった。

  • 昨年の火災に見舞われた食事処あらまきは、旦過市場の一角に整備された仮設店舗で営業を再開した

昨年2度の火災に見舞われた市場の一角にできた仮設店舗で6月、営業を再開した。被災した飲食店で食事をして復興を支える冨永さんの心意気に共感。のれんをくぐると、大将とおかみさんが笑顔で迎えてくれた。

メニューを見て、また目移りすることに。一押しは海鮮丼(1,408円)とのこと。天ぷらセット(1210円)のコスパも捨てがたいし、少々値は張るが日替わりの煮魚セット(1,705円)も捨てがたい。

迷いに迷って煮魚セットを注文。冨永さんは迷いなく海鮮丼を選んだ。

  • 「食事処あらまき」の海鮮丼は見た目も「映える」

提供された煮魚は高級魚ノドグロ。ふっくらした白身に甘辛い煮汁が絡み、ごはんが進む。海鮮丼はエビにホタテ、ウニ、イクラ、白身と赤身の刺身がてんこ盛りで色鮮やか。見た目の良さを意味する「映え」を意識したチョイスなのだろう。食い気に走るだけでなく見栄えを計算するところが、さすが人気ユーチューバーだ。

■のれんと大鍋おでんの店構えに誘われ
■具材の豊富さは韓国「オデン」を圧倒

大満足で店を出て、旦過市場を散策する。市場内を撮影しなが歩いていると、ある飲食店の店構えに目を奪われた。

  • 湯気を立てる大鍋のおでんと、のれんが印象的な旦過市場うどんの店構え

屋号を毛筆でしたためた大きなのれん。店頭で湯気を上げる大鍋のおでん。その名を「旦過うどん」という。

引き寄せられるようにのれんをくぐる。とはいえ、煮魚セットを完食したばかり。腹一杯で、うどんは食べられない。「おでんとビールだけの注文でもいいですか?」と尋ねると、店員さんは「どうぞ、どうぞ」と快く応じてくれた。

大根、アキレス串、ロールキャベツ。暑い中を歩き回った喉に冷えたビールが染みわたる。昼酒って最高。

  • 旦過うどんのおでん

相席になった男性も、おでんを注文していた。韓国人観光客の李ヨンジンさん(54)。同じく店構えが気になって店に入ったのだという。

「韓国にはない、あっさりした味ですね」と李さん。韓国の屋台にも日本語由来で「オデン」と呼ぶ料理がある。魚の練り物を串に刺し、青唐辛子が利いただし汁で煮込むが、食材の種類は練り物のみ。李さん、日本のおでんの食材の豊富さに驚いたようだ。

李さんはその後、北九州旅行の中で最も楽しみにしていたという小倉城へ足を運んだ。

■韓国の伝統市場に似た雰囲気も
■地元市民に愛される本場キムチ

「旦過市場って韓国の伝統的な市場の雰囲気によく似てますね」と冨永さん。

なるほど、メインのアーケードからさらに奥に進んだ入り組んだ路地には、ホルモン専門の精肉店や韓国出身の女性が営むキムチ店が軒を構えていた。

ソウル出身で1972年に来日し、日本に帰化した春野好美さん(71)の店「本場のキムチ ハンアリ」は、旦過市場で91年から商売を続けている。

白菜とキュウリのキムチを1袋ずつ購入してみた。母親の作り方をまねて覚えたという本場の味は酸味と辛みのバランスが絶妙だ。

火災を受け、旦過市場は再整備される計画だ。「名残惜しいけれど、これを機に年内で区切りを付けて閉店するつもり。私が日本で生きてこられたのもお客さんたちのおかげです」。春野さんが取材にそう答えると、店頭で品定めをしていた高齢の常連女性が「そんな。もうちょっと頑張ってよ」と割り込んできた。地元に愛されている店なのである。

冨永さんと巡った旦過市場は、ツール・ド・九州のレース初日の「小倉城クリテリウム」、2日目の「福岡ステージ」のスタート地点にほど近い。国内外から訪れる選手や大会関係者、ロードレースファンにコース沿線の観光やご当地グルメも満喫してもらえるとありがたい。

■福岡アジョシの「北九州旅行」動画