10月1日(現地時間9月30日)、アメリカのネバダ州ラスベガスで4団体統一世界スーパー・ミドル級タイトルマッチ、サウル・カネロ・アルバレス(33=メキシコ)対ジャーメル・チャーロ(33=アメリカ)が行われる。4階級制覇を成し遂げている世界的なスター選手のアルバレスに、2階級下のスーパー・ウェルター級統一王者のチャーロが挑むもの。下馬評はアルバレス有利だが、チャーロが番狂わせを起こす可能性もあると見る識者やファンも少なくない。そんな注目ファイトのみどころを2012年ロンドン五輪金メダリストで、プロでは世界ミドル級王座を2度獲得した村田諒太氏に聞いた。
体重はアルバレス 身長・リーチはチャーロ
もともとアルバレスには、双子のチャーロ兄弟の兄でWBC世界ミドル級王者のジャモール・チャーロと対戦する計画が持ち上がっていた。しかし、ジャモールは2年以上も実戦から遠ざかっており、心身のコンディションが整わないことから対戦を見送ったと伝えられる。代わりにアルバレスと対戦することになったのが弟のジャーメル・チャーロだ。村田氏は「アルバレスらしいなと思いました。自分の階級に上げさせて戦うわけだから有利な状況ですよね。でも、それもアルバレスという(スター選手の)ベースがあるからできること」と4階級制覇王者の実績や人気を認めつつアルバレス寄りの巧妙なマッチメークである点も指摘している。
ただし、勝負となるとアルバレスの思い描くとおりにはいかないだろうと話す。「正直言ってアルバレスはかなり危ないと思います。会見のときに並んだ写真を見ると思った以上に身長差がある(アルバレスは身長173㎝/リーチ179㎝、チャーロは183㎝/185㎝)。アルバレスは相手をロープに詰めて殴るときは強いけれど、今回はそんな展開にならないと思うんです。アルバレスが考えているほど甘くないんじゃないかな。対戦を受けて立ったということはチャーロには相当の自信があると見るべきでしょうね」
12年以上もトップの座に君臨しているアルバレス
15歳でプロデビューしたアルバレスは18年のキャリアを持ち、スーパー・ウェルター級からライト・ヘビー級までの4階級で世界王座を獲得してきた。23度の世界戦を含む戦績は63戦59勝(39KO)2敗2分。当代一のスター選手と言っていい。そのアルバレスの特徴を村田氏が説明する。「パンチ力があってフィジカルが強い。かつガードが堅実。プレッシャーをかけていって疲弊させ、相手の運動量が減ったところでビッグパンチを当てて倒す。自分のスタイルを確立していますね」20歳のときから階級を変えながら12年以上も世界のトップとして君臨している。「ただ、ライト・ヘビー級に上げてスーパー・ミドル級に戻しているので、この5キロの増減は体への負担が大きいと思います。過去の例を見ても重量級で体重を下げて成功した例を見たことがない」と危惧している。
敗北経験がプラスになる? いまが全盛期のチャーロ
チャーロは17歳でプロデビューし、16年間に37戦35勝(19KO)1敗1分の戦績を残している。こちらは2011年からスーパー・ウェルター級の体重で戦ってきた。昨年5月には4団体の王座統一も果たしている。「スピードがあってパンチ力も技術もある選手。総合的に見て全盛期を迎えているんじゃないかな。一度負けている点もプラスに作用すると思うんですよ。プレッシャーかけられる展開になると負けるんだと学んだはず」と村田氏は分析している。
ただし、チャーロの負担も小さくないと指摘する。「やっぱり6キロの体重差はデカいですよね。でも、僕が思うにチャーロは無理してスーパー・ミドル級の体をつくらないんじゃないかと。身長とリーチのアドバンテージがあるので、それにスピードをキープして動ける状態をつくってリング中央で戦おうとするんじゃないかと思うんですよ」
オッズは7対2だが「僕のなかではイーブン」
主要4団体の王座を統一した者同士の階級を超えたスーパーファイト。村田氏は「チャレンジャー側のチャーロにとって特に価値のある試合だと思います。2階級上げるリスクを負ってアルバレスというスター選手と戦うわけですから。そこにロマンを感じますね」と話す。
試合1週間前の時点でウィリアムヒルの単純勝敗オッズは7対2でアルバレス有利と出ているが、村田氏は同調しない。「そういう数字が出ているかもしれないけれど僕のなかではイーブンです。それぐらいチャーロにチャンスありと見ています」
では、村田氏が考えるアルバレスの勝利パターン、チャーロの勝利パターンはどんなものなのだろうか。まずはアルバレスだ。「プレッシャーをかけ、フィジカルの差を利用して体のどこでもいいからパンチを当て、相手が疲弊したところでビッグパンチを当てて倒す」。次いでチャーロ。「大事なのは自分が下がらずに長い距離でボクシングをすることでしょうね。アルバレスを下がらせることができればベストです。それができればチャーロのスピードが生きてくると思います。ただ、アルバレスは打たれ強いうえディフェンスもいいので倒すのは難しいかな」
互いのカギになるパンチについては「アルバレスはフックとアッパー系のパンチ。ボディブローで(倒すための)ベースをつくり最後は左フックか右ストレート。チャーロの場合は遠い距離から突き放すような左ジャブ。それと相手が入ってくるところに突き上げるアッパー系のパンチかな」と話す。
どんな展開になるのだろうか。「構図としてはパワー(アルバレス)対スピード(チャーロ)でしょうね。2階級の差があるけれど勝負は分かりませんよ。仮にアルバレスが勝つとしても圧勝にはならないと思います。楽しみです」
4団体統一世界S・ミドル級タイトルマッチ「サウル・カネロ・アルバレス対ジャーメル・チャーロ」は10月1日(日)午前9時30分からWOWOWで生中継。村田諒太氏はスペシャルゲストとして出演する。