永瀬拓矢王座に藤井聡太竜王・名人が挑戦する第71期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、第3局が9月27日(水)愛知県名古屋市の「名古屋マリオットアソシアホテル」で行われました。対局の結果、相居飛車の力戦を81手で制した藤井竜王・名人がスコアを2勝1敗として王座獲得まであと1勝としました。

永瀬王座の趣向

ともに後手番で勝利し1勝1敗で迎えた本局、後手となった永瀬王座は雁木の作戦を披露します。自玉を舟囲いに収めた先手の藤井竜王・名人が早繰り銀の速攻を仕掛けたとき、これを手抜いて7筋の歩をぶつけたのが永瀬王座の作戦。袖飛車の要領で先手の玉頭に嫌味をつける実戦的な狙いが見て取れます。

前例のない力戦形を前にしてともに午前中から慎重に時間を投入します。藤井竜王・名人が飛車を3筋に回って右銀に活を入れたのは自然な指し手ながら、ここから永瀬王座の素早い反撃を見ることに。桂を跳ねて端攻めを実現した永瀬王座はよどみない手順で左辺を制圧。手にした香を盤上中央に据えて挟撃態勢を築くことに成功します。

終盤のエアポケット

駒割は互角ながらも玉の安全度の差が大きく、局面は永瀬王座優勢のまま終盤戦へ。藤井竜王・名人は苦しそうにうなだれる場面も見受けられます。終局近しの意見も出るなか、ようやく手番を得た藤井竜王・名人が飛車を打って王手をかけたのが残された唯一ともいえる勝負手でした。秒読みに追われる永瀬王座がここで対応を誤ります。

  • (第71期王座戦五番勝負 第3局  主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)

    (第71期王座戦五番勝負 第3局  主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)

王手に対し△4一飛の合駒で応じたのは自玉の安全を最優先する永瀬王座らしい受けでしたが、局後この手を後悔することに。感想戦では代えて△3一歩と節約して受けるのが正解で、そう進めば先手の攻めは切れていたとされました。永瀬王座としては先手からの多くの攻め筋すべてを瞬時に読み切らないといけないという条件に泣かされた格好です。

藤井竜王・名人が八冠制覇に王手

実戦は永瀬王座が飛車を手放し攻撃力が落ちたことで▲6五角の金の両取りが痛打に。その後も競り合いは続いたものの、優位に転じた藤井竜王・名人の指し手は冷静でした。終局時刻は20時32分、最後は攻防ともに見込みなしと認めた永瀬王座が投了。逆転で大一番を制した藤井竜王・名人がスコアを2勝1敗としました。

局後のインタビューで藤井竜王・名人は「終盤は負けの形だと思っていた」、永瀬王座は「第一感は歩の合駒だったが本譜の手順がエアポケットに入ってしまった」と振り返りました。藤井竜王・名人が八冠制覇を果たすか、永瀬王座が防衛に望みをつなぐか。注目の第4局は10月11日(水)に京都府京都市の「ウェスティン都ホテル京都」で行われます。

  • 終局直後、両対局者は勝敗を分けたポイントの局面について口頭で読み筋を話し合った(提供:日本将棋連盟)

    終局直後、両対局者は勝敗を分けたポイントの局面について口頭で読み筋を話し合った(提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)

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