NTTドコモは9月27日、オープンRANサービスプロバイダとして海外通信事業者に提供していく「OREX」のサービスラインナップを発表した。これに関連して、ドコモ自身の商用モバイルネットワークに同サービスを導入した事例も明かされ、パートナーの一社であるNVIDIAも本件について発表している。
「OREX」のオープンRANサービスラインナップ
携帯電話業界では近年、従来であれば専用のハードウェアを用いて構築されるのが当たり前だったコアネットワークの設備を仮想化して汎用サーバー上で動かしたり(=vRAN)、様々なベンダーの機器を相互に接続できるよう標準化して設備構成の柔軟性を高めたり(=O-RAN)といった動きがある。これらはネットワークが高度化していくなかでより柔軟なサービス構築を可能にしたり、あるいは構築・運用コストを圧縮したりといった効果が期待されている取り組みである。
また、通信事業者のなかには自社網の構築のためだけではなく、仮想化技術やオープンRAN関連のソリューションを他国の通信事業者を相手に売り込む新たなビジネスモデルを模索しているところもある。たとえば楽天であれば、楽天モバイルで日本国内における通信事業を展開するかたわら、楽天シンフォニーという会社で通信インフラの外販に取り組んでいる。
ドコモのOREXも、そういった海外通信事業者向けのオープンRAN導入支援を行っていくためのブランドとして2月に立ち上げられたものである。なお、OREXというサービス名がつく以前から同様の取り組みは始まっており、韓国のKT、フィリピンのSmart、イギリスのVodafone、アメリカのDISH、シンガポールのSingtelの計5社がOREX立ち上げ以前にドコモから技術支援を受けている。
今回の発表によれば、OREXで提供されるサービスは、仮想化基地局と無線装置の「OREX RAN」、基地局アンテナの自動調整や省電力機能など自律的な装置運用を行うソフトウェアの「OREX SMO」、そしてシステムインテグレーションや運用サポート、メンテナンスサービスといったオープンRAN導入時に必要なサービス群をまとめた「OREX Services」の3本柱で構成される。
ドコモ自身が無線装置や基地局を開発・製造するわけではないため、OREX RANには多数のベンダーが関わる。すでにOREX PARTNERSとして名を連ねているAMD、NVIDIA、Intel、Qualcommなどのほか、OREX RANの始動にあたって新たに無線装置(RU)ベンダーとしてNECや富士通などが加わる。OREX SMOではNTTが開発したソフトウェアを提供する。
ドコモでは、OREXのオープンRANサービスを利用することで、オープンRAN導入の初期費用や維持管理費などを含めた総保有コスト(TCO)を最大30%削減できるとうたう。
NVIDIAと協力し、GPUアクセラレーテッド無線ネットワークを商用網に導入
OREXのサービス内容を固めて売り出していく一方、先行事例としてOREX RAN/OREX SMOの内容の一部をドコモ自身の商用5Gネットワークに組み込み、9月22日から運用を開始した。
内容としては、基地局を構成する機能のひとつであるDUおよびCUを仮想化した富士通製ソフトウェアを汎用サーバー上で動かしており、その際、Wind Riverのクラウド仮想化基盤とNVIDIAのGPUアクセラレータを利用している。
なぜここでNVIDIAのGPUが出てくるのか、少しかみ砕いて補足しておくと、「コアネットワークを構成する専用機器を仮想化(ソフトウェア化)して汎用サーバー上で動かす」と言葉にするのは簡単だが、現代のモバイルネットワークで多用されているMIMOなどの高度化技術では、ネットワークの高速化と引き換えに裏方に求められる処理能力も大幅に上がる。
このため、単純に専用機器をソフトウェアに置き換えて汎用サーバー上で運用するだけでは、十分な処理能力を得るために設置スペースや消費電力がかさみ元も子もないということになりかねない。そこでGPUを使って演算能力を稼ごう、という発想自体はたとえばAIやブロックチェーンなど広く知られている用途と同様だ。
NVIDIAはこうしたvRANの運用にGPUを活用したい通信事業者向けに「NVIDIA Aerial」というプラットフォームを用意しており、今回のドコモの試みはNVIDIA Aerial vRANスタックを用いて商用環境でGPUアクセラレーテッド5Gネットワークを実現した世界初の事例となる。