1973年6月に創業したパナソニックの静岡工場(静岡県袋井市)は、2023年で創業50周年です。静岡県は昔からものづくりが盛んで、東海道の中心に位置することから建設地に選んだそうです。創業からずっと洗濯機を作り続けてきた50年の歩みと、ものづくりにおける最新の取り組みについて、メディア向けの見学会に参加してきました。
50年の歴史を誇るパナソニックの洗濯機専門工場
静岡工場が創業した1973年は、二槽式洗濯機が主流の時代。静岡工場は時代を先取りする全自動洗濯機専門の工場として誕生しました。現在はドラム式洗濯乾燥機(以下、ドラム洗)がメインとなり、生産台数はドラム洗が1日に2,250台、縦型洗濯乾燥機が1日に300台となっています。
近年では、自社で材料から製造する「源泉工程」、部品から製品まで一括管理する「組立工程」、長さ100メートルの自動検査ラインを2ライン設けた「品質試験」などを、一工場で行う一貫生産体制を構築。正確な需要の把握と予測によって、在庫の適正化を図る実需連動サプライチェーンマネジメントを運用し、即納率は従来の78%から94%へと上昇。在庫日数も従来の3分の2に短縮できました。
2022年6月には縦型洗濯乾燥機の1ラインをドラム洗に切り替え。新たに「Cライン」として、ドラム洗はA・B・Cの3ライン体制になりました。3ラインとも、組立・検査・梱包・出荷まで行っています。
以前からのAラインとBラインは3号棟の1階にあり、1号棟で源泉(自社で材料から製造すること)と金属加工をし、4号棟と5号棟で樹脂部品とSUS部品(ステンレス部品)を成形。それらをラインに運んで来て組み立てています。
一方、新しいCラインは3号棟の2階にあり、組み立て前の源泉と金属加工、樹脂部品・SUS部品の成形まで同じライン上に。部品を運ぶ時間や中間在庫のスペースが省略されています。
製造工程を細かくチェックして不具合はすぐにリカバリーする管理システム
今回の見学は、1号棟の金属加工、4号棟の樹脂成形、3号棟2階のドラム洗(Cライン)という流れです。
1号棟、2号棟、3号棟は屋根続きになっていて、3つで1つの建物のように見えます。特に1号棟と2号棟は仕切る壁もないため、完全に1つの空間。3号棟も、2号棟すぐ横の壁の向こうです。
製造工程は独自のシステムで細かく管理。各装置は「稼働中」「停止中」「切り替え中」「休憩中」などを、15分単位で遠隔から監視しています。計画と実績のズレも自動で逐一チェック。不具合が出た場合にも原因を突き止めて解消しやすいため、15分のロスで元のペースに戻せるようになっています。これは他棟の工程でも同様です。
4号棟では、脱水槽や台座枠などの樹脂を一体成形しています。自動重量検査装置をすべての成形機に導入しており、検査にパスしないものは次の工程に進む前に自動ではじかれます。
ここで作った樹脂部品と、5号棟で加工したSUS部品には、すべてRFタグを付けて自動で在庫管理しているとのこと。
板金から梱包まで一本のラインで実現した最新のCライン
続いて、3号棟2階へ。ドラム洗のCラインを見学します。Cラインは、同期、直線、最短の3つをコンセプトにしており、一枚板から完成品までワンストップで処理。ラインを直線にしたことで作業配置も自由に変えられるようになっています。
平板の材料をロール状に成形しながら溶接加工し、内側から正円のまま広げるように均等に圧力をかけて、さざなみ模様を付けます。これで一気にドラムの姿になります。
洗濯槽は高速回転するので、洗濯槽のユニットがきちんと水平に形成されているかは非常に重要。歪みがないかどうか、測定装置で全数測定しています。
いよいよ組立工程。パナソニックのドラム洗は洗濯槽が斜めになっているため、駆動ユニットをあお向けにした状態で組み立てることによって作業しやすくしています。
ベルトコンベアを流れる土台の部品に駆動ユニットを設置。側面の鉄板部品などを取り付けると本体が立てられ、本体正面から見て左側に流れるようになります。
アシスト装置を使って洗濯機上部に乾燥用のヒートポンプのユニット、ファン、洗剤入れのケース、外観部品などを取り付けていくと、どんどん見慣れたドラム洗の形に近づきます。ベルトコンベアの本体奥側にも作業スペースがあり、背面や天面の作業はそちらで同時に行っています。
最後に、ロットの中から一部を抜き出すロット検査も。実際の使用環境に合わせた、床、給水栓、温度、湿度の環境で動作確認し、問題がないことを確認してようやくロット単位で梱包作業に移ります。同梱品も入れて梱包材と一緒にダンボールに詰め、出荷です。
静岡工場に息づく「やらまいか」の精神
工場ラインのあとは、静岡工場で製造された歴代8製品の展示も見学しました。
パナソニックの静岡工場は、進取の精神を浜松近辺の方言(遠州弁)の「やらまいか」と表現し、静岡発となる「初」へのこだわりを持ち続けてきました。やらまいかは「とにかくやってみようじゃないか」といったニュアンスで、遠州っ子の気質を代表する言葉とされ、静岡工場だけでなく静岡に拠点を置く多くの企業が経営理念や企業哲学にしています。
静岡工場は、最新鋭の洗濯機専用工場としてスタートし、1997年には国産初のドラム洗「洗乾ランドリーム」を生産。2000年には世界初の縦型全自動洗濯乾燥機「FD8000」、2003年には世界初のななめドラム洗「V80」も生産してします。先に紹介した歴代製品も含め、さまざまなエポックとなる洗濯機を生み出してきたと言えるでしょう。
今回の取材では、静岡工場の進取の精神が製品に対してだけでなく、DXを活用したサプライチェーンやオペレーションのマネジメントに対しても、いかんなく発揮されていることを感じます。やらまいか精神は、これからも日本の洗濯機市場と洗濯文化をリードしていくのではないか――、そうした印象が伝わってくる取材でした。