2023年、もっともプロロードレースで活躍したロードバイクと言えばCervélo(サーヴェロ)だろう。ユンボ・ヴィズマというプロチームと共にイタリア、フランス、スペインを周回する世界3大自転車レースのすべてで個人総合優勝をした。
これは100年以上あるグランツール史上初の快挙であり、モータースポーツのようにコンストラクター(製造者)の表彰があれば、優勝は間違いなしだろう。
■ツール・ド・フランスを連覇
サーヴェロのRシリーズはエアロダイナミクスを追求したSシリーズと比べ、オーソドックスで快適性を重視したモデルだ。5世代目として2021年に発表された現行モデルは、ヒルクライムに特化した性能を追い求めているのが大きな特徴だ。
昨年、今年とツール・ド・フランスを連覇したヨナス・ヴィンゲゴー選手を始め、チーム、ユンボ・ヴィズマのメンバーも勝負を決する山岳ステージではR5 Disc(以下R5)をこぞって使用した。
山岳用モデルに求められるのは軽量性である。他の性能を犠牲にしないのなら、バイクは1gでも軽い方がいい。R5のフレーム重量は695g(51㎝)。国際自転車連合は最低車重を6.8㎏に規定しているが、R5なら規定以下の完成車を組むことも容易だ。上には上がいるので、市販最軽量フレームではない。だが、トップクラスであることに間違いない。多くの人にとって最低重量規制は関係ないし、度を越えた軽量化は強度、剛性不足の原因になる。
先にも述べたとおり、重量は軽いに越したことはない。ただし、数字に惑わされてはいけない。軽量モデルは高価かつ、失う性能が多いのが常識。
これまでの経験から言えるのは、ライバルから飛び抜けた軽いバイクは、後々、折れた&割れたという話がついて回る。とはいえ、技術は進化する。かつて車重7㎏台が超軽量バイクだったこともあるが、今や昔。R5のフレーム重量700g±αというのは、現状、安心して乗れる最軽量といった数値である。
エアロバイク全盛の現在、R5のスタイリングは控えめ過ぎるように映るかもしれない。しかし、オーセンティックなバイクを好む人たちは、R5こそ本物のロードバイクと溜飲を下げているだろう。個性的なS5と比べると新しさはないが、ブレーキホース、変速ケーブルの内蔵されたシンプルで美しいスタイリングは、いかにも最新モデルのそれである。
■意のままに加速・減速する
トッププロ用と同じバイクが私たちに必要か否か。人によって判断が異なるだろうが、私に言わせれば、必要はない。ただ、贅沢とは必要以上の状態であり、R5のあるバイクライフは豊かである。その優れた性能の恩恵をもっとも受けるのはヒルクライムだが、それは相応のホイールがセットされた場合だけだ。
試乗車はRESERVE(リザーブ)の34/37がセットされている。リザーブは2014年に創業した新興ブランドで、MTBで著名なサンタクルスのエンジニアによって設立。2019年以降はサーヴェロと協力関係となり、ユンボ・ヴィズマの選手たちも使用しており、純正ホイールと言ってもいい関係である。
製品名から想像がつくだろうが、数字はリム高を示す。前輪は34㎜、後輪は37㎜と前後で異なるリム高となっている。これはトンネル出口や峠を越えると風向きの変わる山岳コースを考えれば、リム高を抑えてハンドリングを優先しているのも当然の選択である。ちなみにリム重量はフロントが351、リアは379g。クライミング用ホイールとして十分な軽さと快適性をバランスさせた仕様だ。
軽量フレームに軽量ホイールを組み合わせて走れば、当然、軽い走行感になる。というのは、軽量バイクが陥りやすい間違いである。フレームやホイールのパワーロスを最小限に抑え、重量が軽い。それが優秀な軽量バイクの基本であり、試乗車はいいお手本と言っていい。
平地からヒルクライムまで加速のレスポンスはよく、ハードブレーキングしたときの挙動にも不安がない。こうして書くと簡単だが、この質感こそ価格差である。そして、誰よりも高いレベルを求めるのがプロ選手であり、それに応えることでサーヴェロのようにレーシングブランドは鍛えられていく。
4代目となった現行R5は「フロント周りが硬過ぎる」というフィードバックを元に、ヘッドチューブの剛性を少し下げ、フロントフォークにも改良を施したという。また、旧型では3週間も続くグランツールだと、レースの後半で不快感が高まるという課題もあった。
ただ、ボトムブラケット周辺の剛性を落とすのはパワーロスになる。そこでカーボンファイバーの積層に工夫を凝らし、課題を解消できる剛性比率を見つけ出し、各部のパラメーターを調整している。
基本的に剛性アップと軽量化は両立しにくい。だが、サーヴェロは背反する性能を両立させるため、ボトムブラケットに独自規格のBBライトを導入。ボトムブラケットの中心を非ドライブ側にずらし、剛性を損なわず軽いフレームを実現している。また、フロント周りの剛性を落としつつフォークコラム上側の寸法を大型化するなど、細かなチューニングが行われている。
試乗車のサイズが小さめだったのも影響しているが、荒れた路面では振動の突き上げが大きかった。ロングライドなど長時間ライドをするなら、もう少し基本剛性が高いTLRのようなタイヤで空気圧のセッティング低めにするか、インナーチューブの材質をラテックスにすれば改善されるだろう。
ハンドリングや加速について詳しくは触れなかったが、R5をレースで使用するP・ログリッチ、Y・ヴィンゲゴー、S・クスの3人のチャンピオンは、全員がヒルクライムを得意としている選手である。加速やハンドリングに不満を感じたなら、それこそあなたが取り組むべきライディングテクニックの課題だと言ってもいいだろう。
文・写真/菊地武洋