さらに研究チームは、この影響のメカニズムをより詳しく調査するため、核周円盤とリング状のガス雲の間の領域に注目したとする。この領域には、核周円盤から向かって北東と南西の2方向に向かって、ある種の分子ガスの分布が伸びたような構造が見られる。この特徴的な形態を分子ごとに分類するため、教師なし機械学習の1つである「主成分分析」を用いたとのこと。機械学習を用いると、主観の入らない客観的な結果を得ることが可能となる。そして解析の結果、核周円盤とその外側に伸びた領域は、分子ガスの分布の構造として、まったく別の領域として分類されるということが解明された。

  • (左)機械学習を用いて行われた分子の分布形態の分類図。(右)機械学習により、核周円盤とは別の領域として分類された双極の分子ガス分布構造を説明する模式図。

    (左)機械学習を用いて行われた分子の分布形態の分類図。核周円盤(およそ中心の白色の点に相当)から北東(左上)と南西(右下)の2方向に向かって、ある種の分子ガスの分布が伸びたような構造(青)が見出された。(右)機械学習により、核周円盤とは別の領域として分類された双極の分子ガス分布構造を説明する模式図。(c)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Saito et al.(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

この中心から向かって外側に伸びている領域は、先行研究で明らかにされているSMBHから噴き出す双極のジェットと見かけの方向が一致しているため、アウトフローを捉えたものと考えられるとする。ジェットやそれに起因して放出されるとされるアウトフローは、銀河円盤に対して角度を持っているため、その一部が銀河円盤をかすめることになり、そこでの相互作用によって衝撃波加熱が起きていることが考えられるとしている。

  • 銀河中心のSMBHからの双極ジェットおよび銀河円盤の位置関係と、それに起因する分子ガスのアウトフローを地球から見た場合の模式図。

    銀河中心のSMBHからの双極ジェットおよび銀河円盤の位置関係と、それに起因する分子ガスのアウトフローを地球から見た場合の模式図。(c)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Saito et al.(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

またアウトフローの領域では、一般的な銀河でよく見つかる基本的な分子種(一酸化炭素やメタノールなど)は破壊されて少なく、逆にラジカルのような特殊な分子(CN、エチニルラジカル、シアン化水素の異性体など)が増えていることが確認された。このことから、中心にある核周円盤はSMBHから噴き出すジェットやアウトフローの強い影響下にあること、そしてその影響は核周円盤からずっと外側の領域まで広がっていることが解明されたとする。

なお、このようなジェットやアウトフローの領域は、激しい衝撃波や紫外線・X線などの強い輻射を伴うことが知られており、一般的な星間分子が存在するには過酷な環境であるという。またM77の中心付近では、星の材料である星間分子の破壊も起きるため、新たな星の誕生は抑制されてしまっていることが考えられるとのこと。今回の成果について研究チームは、銀河中心にあるSMBHが、その母体となる銀河の成長を遅らせている可能性があることを化学的な観点から示した初の観測例となったとしている。