より賢く、地球環境にも優しいApple Watchが誕生
Apple Watchが誕生して以来、着実に進化を重ねてきたナンバリングモデルは「Apple Watch Series 9」に到達しました。ケースの素材はアルミニウムとステンレス、サイズは45ミリと41ミリ、5色のカラーバリエーション、セルラーモデルとWi-Fi単体モデルが選べるバラエティの豊かさが魅力的です。Apple Watchとしては初めてのカラー「ピンク」がアルミニウムケースのモデルに登場します。
昨年誕生したタフネスモデルは「Apple Watch Ultra 2」としてパワーアップします。外観のデザインに変更点はなく、49ミリサイズのケース素材が非再生チタニウムから95%再生チタニウムに変わり、画面輝度の向上などを果たしています。
高性能・高効率な「S9」チップを搭載
ふたつの新製品に共通する大事な特徴を見ていきましょう。
ひとつは、最先端の「S9 SiP」チップを載せて、AIのパフォーマンスが向上したことです。より賢いApple Watchになりました。
S9 SiPは、アップルが独自設計したウェアラブルデバイス向けのシステムICチップです。4nmプロセスルールにより製造されるiPhoneの「A16 Bionic」のノウハウをベースに、Apple Watchのために最適化を図っています。2022年モデルのApple Watchが搭載するS8チップよりもCPUのスピードが30%速くなり、また機械学習処理に特化するNeural Engineのコア数を2コアから4コア、2倍に増やしています。
機械学習に関わる進化は目覚ましいものがあります。例えば、Siriによる音声入力が快適になります。
スマートウォッチの音声入力は、アシスタントの起動がもたついて、コマンドを受け付けるタイミングが発話とずれてしまうと体験を損ねてしまいがちです。新しいApple WatchはS9チップにより、Siriの立ち上げが素速くなります。
特に「天気」「ニュース」のように、インターネットから情報を取得する必要があるアプリを除けば、Siriがデバイス上で処理をこなしてしまうため、動作が機敏になります。目安として、レスポンスはSeries 8より最大25%も速くなります。
当初は、対応する言語に日本語が含まれていませんが、ユーザーのヘルスケアやフィットネスに関連する情報をSiriによる音声操作からアクセスできるようになることも、新しいApple Watchの画期的な進化のポイントです。
例えば、アクティビティリングの進捗状況や、昨晩の睡眠時間をSiriに聞いたり、服薬記録をSiriに話しかけて音声で入力するといったことができるようになります。年内までにソフトウェアアップデートによる機能追加を実施して、英語と北京語による入力に対応します。地域の制限はないので、最初は英語で試すこともできそうです。
新しいジェスチャー操作の「ダブルタップ」とは
2023年の新しいApple Watchは、ウォッチを身に着けている手の側の親指と人差し指を“トントン”と「ダブルタップ」するジェスチャー操作に対応します。例えばタイマーを止めたり、ミュージックの再生と一時停止、電話の受話・終話、iPhoneのカメラのリモートシャッターなどが、ウォッチの本体に触れることなく素速くできます。
筆者も、スペシャルイベントの会場でSeries 9の実機を使ったダブルタップのデモンストレーションを体験しました。watchOS 10の新機能である「スマートスタック」をダブルタップで呼び出し、ウィジェットをスクロールする操作が軽快に行えます。指によるジェスチャーを解析して、同じ動作を筋肉の動きや手首の血流のパターンから読み取ってApple Watchの操作に反映させるというユニークな機能です。
加速度、ジャイロスコープ、光学心拍センサーが常時オンの状態であることが求められるので、今までよりもバッテリーを食いそうですが、S9チップの電力効率も高まったことによって、バッテリーをあまり浪費することなく待機状態を維持します。Series 9は、Series 8と同様にフル充電から約18時間を目安とする「1日中持続するバッテリー性能」を実現しました。
今のところ、シングルタップやトリプルタップなど、ダブルタップ以外のジェスチャーには対応していません。またアップルは、外部デベロッパーにダブルタップのAPIを開放することを、取り急ぎ行わない方針です。まずはユーザーがシンプルに使える機能として広く知らしめて、ニーズが拡大した時にダブルタップを発展させる可能性は十分にありそうです。
なお、6月にアップルが開催した世界開発者会議「WWDC 23」で発表したヘッドセット型の“空間コンピュータ”「Apple Vision Pro」も、ユーザーの指と手首の動きを検知してジェスチャー操作に変える機能があります。それぞれデバイスごとに使い方とできることを最適化していますが、特にウェアラブルタイプのAppleデバイスはこれからジェスチャー操作を基点にしながら、新しい体験やサービスを生み出すかもしれません。その最初の一歩に触れられる5万円台からのSeries 9は、筆者の物欲を強く刺激するスマートウォッチです。
日本未対応だが便利!ウォッチからiPhoneを「正確に探す」機能
S9のシステムには、第2世代の超広帯域無線(UWB)チップが統合されています。同じ第2世代のUWBチップを搭載するiPhone 15/iPhone 15 Proシリーズを、ペアリングしたApple Watchから遠隔探索する「正確な場所を見つける」機能が誕生します。
Apple Watchの画面には、探索しているiPhoneまでの距離と方向が表示されます。同時に、音とハプティクスによるフィードバックが、iPhoneに近付くたびに正しい位置を知らせてくれます。
筆者もなくしものが多いので、とても魅力的に感じる機能ですが、残念なことに新しいUWBチップの通信電波が日本で使うことができないため、この「正確な場所を見つける」機能が日本で利用できません。
また、オーディオ再生中のHomePodの4メートル以内にApple Watchユーザーが近づくと、Apple Watch Series 9が「再生中」を起動してメディアをコントロールできるようになったり、HomePodで何も再生していない時は、スマートスタックの一番上におすすめのコンテンツを表示する機能があります。こちらも新しいUWBチップの通信機能に基づいているため、日本では非対応です。いずれ、現在の課題が解決することを期待しましょう。
新Apple Watchはアップル初のカーボンニュートラルなプロダクト
2023年のApple Watchのラインナップは「地球環境に優しいスマートウォッチ」です。本体のケースに使う金属やマグネット、バッテリーはリサイクルされた素材をメインにして、製造環境のクリーン電力化、空輸から海上輸送の比率を高める取り組みなどを合わせて、製品自体、および“ものづくり”と販売に関わる炭素排出量削減をアップルは徹底しました。
その結果、Series 9とUltra 2にはアップルの製品として初めてカーボンニュートラルの選択肢が加わります。例えば、Series 9にスポーツループバンドを組み合わせたパッケージ商品はカーボンニュートラルとなります。
アップルは2030年までに、すべての事業、製造サプライチェーンと製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを達成する、という野心的なプロジェクトを実践しています。iPhoneやApple Watchのように、世界中に多くのユーザーを抱えるプロダクトを、新製品が出るタイミングなどで段階的に地球環境にやさしいプロダクトとして磨き上げていくことは、同じくカーボンニュートラルなものづくりによる社会貢献を目指す企業や人々の取り組みを刺激します。アップルが自社の取り組みに対する本気度を強くアピールするため、目標から7年も早いタイミングで、初めてApple Watchをカーボンニュートラルなプロダクトとしました。
Apple Watchのレザーバンドに代わる、上質な質感と装着感を実現する「ファインウーブン」というマイクロツイル素材のバンドも新たに開発しました。こちらのバンドか、または82パーセントの再生繊維により再設計したスポーツループバンドを組み合わせると、Series 9とUltra 2はカーボンニュートラルなスマートウォッチになります。
アップルは、レザーバンドの使用を廃止します。ソロループやブレイデッドループなどのほかのバンドのコレクションについては販売を継続しますが、今後もさらにエコフレンドリーな製品になるように、素材などの見直し、置き換えにも力を入れていくそうです。
なお、Apple Watch Series 9とSEはパッケージをリニューアルして、上質なデザインを変えずにコンパクト化しています。たくさんの製品を一度に出荷する際に、パッケージが小さい方が一度に出荷できるデバイスの数が25%も増え、ひいてはカーボンニュートラルな取り組みに貢献するからです。
「Ultra」がApple Watchユーザーの裾野を拡大中
S9チップに関わる革新的な体験はSeries 9とUltra 2に共通しています。Ultra 2の価格は米ドルに対する円安の状況が続くなか、初代のモデルから4,000円の値上げに踏みとどまりました。Apple Watch Ultraの購入を発売から1年間待っていた方は、今こそ買い時です。
画面のピーク輝度が3,000nitsまで引き上げられ、初代のUltraよりも50%明るくなっています。コントロールセンターから「フラッシュライト」を起動し、Digital Crownを回すと画面の明るさが一時的に2倍にブーストする懐中電灯機能が便利です。初代Ultraと比較すると明るさに違いがよくわかります。緊急時に役立つ機能としてUltraシリーズの魅力を引き立てます。
アップルによると、Apple Watch Ultraがラインナップに加わってから、Apple Watchのユーザー層が全体に広がっているそうです。タフネスモデルとして印象の強いUltraは、アウトドアレジャーやエクストリームスポーツを楽しむユーザーにも人気ですが、もっとカジュアルに楽しめるタフネス仕様のスマートウォッチを「待っていた」という方々にもUltraシリーズのコンセプトやデザイン、機能がささりました。
これからApple Watchはさらに賢くなって、先進的なスマートウォッチを身に着けるオーナーを満足させてくれるでしょう。アップルと一緒に、カーボンニュートラルな未来を追求するユーザーの必携アイテムにもなりそうです。