中国のBYDは小型電気自動車(バッテリーEV=BEV)「ドルフィン」を日本に導入する。9月20日に発売の予定で、価格も同日に明らかとなる。都市部のBEV需要や地方の2台目需要を狙うとBYDは意気込むが、実際のところ、ドルフィンは日本で売れそうなクルマなのか。一足早く試乗してきた。
日本の駐車場事情を考慮し全高を調整
ドルフィンのボディサイズは全長4,290mm、全幅1,770mm、全高1,550mm、ホイールベースは2,700mm。BYDジャパンによれば「Bセグメント」と「Cセグメント」の間に位置するサイズ感で、日本の一般的な機械式駐車場に入る「全高1,550mm」については、日本市場向けに特別に調整した成果なのだという(ほかの市場では1,570mm)。「車内の広さはCセグ並み、小回り性能はBセグ並み。ロングホイールベースで走行安定性も高いんです」というのがBYDジャパンの解説だ。
小さなBEVの選択肢は意外と少ない。ドルフィンよりも小さいとなると、日産自動車の軽BEV「サクラ」かフィアット「500e」くらいではないだろうか。どうしてもドルフィンと比べたくなる日産「リーフ」のボディサイズは全長4,480mm、全幅1,790mm、全高1,560mmだ。
小さいながら大きめの電池を積み、長い航続距離を獲得しているところもドルフィンの特徴。日本に入ってくる2グレードのうち、安い方にあたる車種ですらフル充電で400kmも走れる(WLTCモード、BYD調べ)というから驚きだ。
バッテリー容量と航続距離もリーフと比べてみたくなる。
リーフのバッテリー容量は40kWhと60kWhから選べる(40kWh搭載モデルは注文の受け付けを停止中)。航続距離(WLTCモード)は40kWhが322km、60kWhが450kmだ。
ドルフィンの価格は現時点で判明していない。ただ、BYDには、乗用BEVの日本導入第1号となった「ATTO3」(CセグメントのSUV)に、440万円というかなり安い値段を付けて人々を(少なくとも私を)驚かせた実績がある。ドルフィンが300万円台で登場するのは、ほぼ確実という気がする。リーフは408.1万円~583.44万円だ。
少年じゃないけどイルカに乗ってみた
実際に乗ってみた感想は、「BEVなのにアクセルペダルがたくさん踏めて、運転していて楽しい」というものだった。
これまでに、いろんなBEVに乗ってきた。多くのBEVは、モーターの動力性能が高いからか、すばらしい加速力であっという間に100km/hに達するような走りを楽しませてくれた。すごい性能のクルマに乗っている気分が味わえて、これはこれで大いに気に入っている。ただ、能力を持て余している感じがしたのも事実だ。例えばアウディの超高性能BEV「e-tron GT」などは、高速道路も走ったのに、アクセルペダルをほんの少ししか踏まなかったような記憶がある。
その点、ドルフィンの70kWバージョンは、アクセルペダルを思い切り踏んでもワープするような激しい加速をしないので、高速道路での合流や追い越しで能力を使い切っているような感覚を味わえる。ガソリン車から乗り換えても、アクセル操作や加速の仕方に違和感を感じることはまずないだろう。だからといって遅いとか、もたついているといった感じはしない。信号の多い一般道でストップアンドゴーを繰り返す場面では、発進時のいかにもBEVらしいスムーズな動き出しが気持ちよかった。
電動車の特徴でもある回生ブレーキについていえば、ドルフィンは効きがマイルドだった。なので、ワンペダル的な運転をすることはできない。ガソリン車と同じような感覚なのでなじみやすいともいえるが、踏みかえ回数を減らせるBEVのワンペダル走行が好きな人には物足りないだろう。
サイズも走りも、おそらく価格設定にも死角なしといった感じのドルフィンだが、はたして日本で売れるのだろうか。中国製というだけで選択肢から外してしまう人は置いておくとしても、日本での知名度が低いことはやはりネックになるかもしれない。世界的には、テスラを相手にBEVの覇権争いを繰り広げているBYDなのだが、いかんせん、日本ではめったに見かけないクルマだし、知らないメーカーのクルマを買うかといえば、なかなか難しい。ちなみに、日本で2023年1月に発売となったBYD「ATTO3」は、毎月100台程度がコンスタントに売れているとのこと。
BYDジャパンは2025年末までに、日本で100店舗以上のディーラーネットワークを構築する方針。ネット販売ではなく、日本の伝統的な自動車販売のやり方を踏襲してくれているところは、買う人の安心感につながるかもしれない。