マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、主要な中央銀行の金融政策の注目ポイントと見通しについて解説していただきます。
9月18日に始まる1週間に、主要な中央銀行が金融政策を決定する政策会合が開催されます。それぞれの注目ポイントと見通しを概観しておきましょう。
ECBは利上げを決定
その前にまず、ECB(欧州中央銀行)が14日に理事会を開催して、0.25%の利上げを決定しました。声明では、「現時点での評価では、政策金利は、十分に長い期間維持されれば、インフレが目標に回帰するのに大きく貢献する水準に達したと判断している」と表明されました。ラガルド総裁は「政策金利がピークに達したかどうかは言えない」と述べ、追加利上げに含みを持たせました。しかし、市場は今回の利上げで打ち止めになる公算が大きいと判断しているようです。
米FRBは据え置き見通しが支配的
19—20日に米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)がFOMC(連邦公開市場委員会)を開催します。結果判明は日本時間21日午前3時。その30分後にパウエル議長の記者会見があります。
金融市場ではFOMCが政策金利を据え置くとの見方が支配的です。11月以降を見据えても、追加利上げがあるとの見方は少数派になりつつあります。換言すれば、今年7月の利上げで打ち止めとなり、政策金利は現在の5.25%-5.50%がピークになるとの見方が有力です。ただし、FRBはインフレ率が目標の2%に回帰するには時間がかかり、利下げへの転換は相当先だと考えているようです。金融市場では24年半ばまでに利下げが実施されるとの見方が根強いため、FRBが金融市場とどう対話するかが注目されます。
コミュニケーション手段の1つが議長の記者会見であり、もう一つがFOMC後に3カ月に1回公表される経済・金融見通しでしょう。後者は、個々の参加者の見通しを集計したもので、金融市場が注目する政策金利見通し、いわゆる「ドット・プロット」もその一部です。それらがどんな経済・物価の見通しや政策金利の軌道を示すのか、大いに注目されます。
英国中央銀行
20—21日にBOE(英中銀)がMPC(金融政策委員会)を開催します。結果判明は日本時間21日午後8時。
英国は主要国のなかでインフレ率の高さが目立ちます。労働ストライキが頻発して賃金上昇率が高まっており、BOEは賃金とインフレ率のスパイラル的な上昇を懸念しています。そのため、金融市場では24年初までに1~2回の利上げが実施されるとの見方が優勢です。ただし、利上げに積極的だったBOE関係者のトーンに変化はみられます。ベイリー総裁は7日、政策金利が利上げサイクルの頂点に近いと発言。背景として、インフレ率は23年中に顕著に低下するとの見通しを挙げました。また、チーフエコノミストのピル委員は、政策金利は長く高止まりするとの予想を示しつつ、利上げを続けた後に急激に利下げするより望ましいと述べました。いずれも、利上げ打ち止めが近いとの示唆と解釈できそうです。
日銀は円安進行をけん制するか
21—22日に日銀が金融政策決定会合を開催。現行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和の継続が既定路線でしょう。もっとも、植田総裁は9日付けの新聞インタビューで、「賃金上昇を伴う持続的物価上昇に確信が持てれば、マイナス金利の解除を含めていろいろな選択肢がある」、「年末までに十分なデータがそろう可能性がゼロではない」などと述べました。
植田総裁の発言は、金融政策修正の接近を示唆しているというより、円安進行へのけん制との指摘もあります。果たして、金融政策決定会合で、YCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)の修正・撤廃やマイナス金利の解除に向けてさらなる地ならしは行われるでしょうか。結果判明は22日の正午前後。植田総裁の記者会見は同午後3時30分スタートです。
※上記のほかにもスイス、スウェーデン、トルコ、南アフリカなどの中央銀行が21日に政策会合を開催します。
円安材料となる内外金利差は縮小せず!?
日本を除く主要中央銀行は、昨年来の利上げサイクルの最終局面に差し掛かっているようです。ただし、各国ともインフレ率が中央銀行の目標である2%を大きく上回っているため、景況が悪化してもすぐには利下げに転換しそうもありません。
そうであれば、日本と主要国との政策金利の差は、拡大余地は大きくないとしても、当面維持されそうです。そのため「円安」圧力はしばらく続きそうです。「円安」を抑制するのは、政府・日銀による為替介入、あるいはそれに対する警戒感という状況は大きく変わらないのかもしれません。