Appleは、2023年9月12日(米国現地時間)に開催したスペシャルイベントで、iPhone 15・iPhone 15 Plus・iPhone 15 Pro・iPhone 15 Pro Maxの、最新スマートフォン4モデルを発表した。いずれも9月15日予約開始、9月22日発売となる。

今回発表されたすべてのモデルに、USB-Cコネクタが搭載され、Apple独自のLightningコネクタはiPhoneからは廃止された。すでにiPadは、併売中の第9世代iPadを除き、新製品はすべてUSB-Cに移行済みだ。

  • 先日発表したiPhone 15シリーズで、アップルはついにUSB-Cコネクタの採用に舵を切った。ただ、過去にもLightningからの切り替えを検討していたことがあったようだ

EUが2024年12月から、モバイルデバイスにUSB-Cコネクタの搭載を義務付ける決定を行い、Appleとしてはこれに「従わざるを得ない」と、2023年6月のWWDCに関連して行われたトークライブで、ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデント、グレッグ・ジョズウィアック氏がコメントしている。

ではなぜ、EUの決定に従ったのか。その結果、iPhoneのコネクタはどうなったのか? また、それ以前にAppleがUSB-Cを採用するチャンスはなかったのだろうか?

2つのUSB-C?

iPhone 15・iPhone 15 Proには、同じUSB-Cコネクタが搭載されている。同じ充電ケーブルを差し込むことができるし、USB-C充電器から充電することもできる。ただし、この2つのスマートフォンでできることは異なっている。

iPhone 15のUSB-Cでは、充電、ビデオ出力(DisplayPort)、そしてUSB 2(データ転送速度480Mbps)をサポートする。一方iPhone 15 ProのUSB-Cでは、USB 3をサポートし転送速度は10Gbpsとなる。コネクタが同じでも、通信速度が異なるのだ。

Appleの基調講演の説明では、特にiPhone 15 ProがUSB 3の転送速度をサポートする理由として、新たに搭載された3nmプロセスのチップ「A17 Pro」に、USB 3コントローラーが搭載されていることを挙げている。逆に、これがないA16 Bionicを搭載するiPhone 15は、従来のUSB 2までのサポートしかしていない、ということだ。

  • 基調講演内で示されたスライド。iPhone 15 Proが内蔵するA17 Proには、新たにUSB 3コントローラーが搭載されたことが分かる

実際、高速データ転送を使う場面として考えられるのは、バックアップをパソコンに取りたい時や、大きなサイズの写真やビデオをパソコンやSSDなどのストレージに直接転送したいときだ。AirDropやWi-Fiなどの無線通信が利用できることを考えると、USB-C経由でのデータ転送速度が低くても困る人は少なくない。

一方、iPhoneをビデオカメラとして活用したい人にとって、データ転送速度は大きな欠点だっただけに、転送速度向上を歓迎する声が聞かれる。

ここで認識しておくこととしては、USB-Cだからといっても、できることや性能には違いがある点だ。確かにコネクタがPCと統一されるとはいえ、仕様の違いが存在している点は留意すべきだ。

USB-Cになり、MFiライセンスは不要に

Appleはこれまで、Lightningを他社にライセンスし、アクセサリを作ることを可能とする「Made for iPhone」(MFi)認証を用意してきた。AppleがiPhoneとの互換性を保証することを示すものだ。

これができた背景には、iPodの全盛の時代、30-pin Dockコネクタが搭載され、iPod向けのアクセサリが大量に出回ったが、中にはMFi認証を取らず、うまく動作しない製品が出回った。

そうした消費者の混乱やトラブルを避けるべく、Lightningでは、認証チップを搭載するようになった。そのライセンス料は400円前後とされている。

Lightningを採用し続けようとしていた動機として、Appleが認証チップによるライセンス収入を手放したくないからではないか?との見方もあった。またUSB-Cに移行するにあたり、Appleは、引き続きMFi認証を用意するのではないか、とも言われてきた。

そうした予測はいずれも外れ、iPhone 15各モデルのUSB-Cは汎用的なコネクタで、認証を必要としないことが分かった。

裏を返せば、Appleがこれまで、MFi認証によって安全に動作することを保証してきたが、今後はそうした保証をせず、ユーザーとサードパーティーメーカーとの信頼関係などを通じて、動作保証などを担保するよう、委ねられた形となる。

いくつかあったタイミングで移行しなかった理由

では、これまでのところ、iPhoneがLightningからUSB-Cに移行するチャンスはなかったのだろうか。

Lightningは2012年に発売されたiPhone 5に初めて搭載されて以来、2022年のiPhone 13シリーズまで11年間にわたってiPhoneに採用され続けてきた。

その中でも転機の可能性の一つとして挙げられるのが、iPhone Xが登場した、2017年のタイミングだ。新しいデザインを採用していたことから、既存のLightningモデルは残しつつ、次世代モデルのUSB-C移行に道筋をつけることもできただろう。

  • 2017年のスペシャルイベントでiPhone Xが登場した際は「未来のスマートフォンが登場」と大々的に紹介されていた

しかし、当時USB-Cを採用しにくかった背景もある。実は、当時要請されていたのは、マイクロUSBへの規格統一だったからだ。

EUは、2014年3月にも、3年程度(2017年をめどに)で携帯電話などの無線機器の充電規格を、マイクロUSBに統一する案を可決していた。実はこの時、Appleも統一案に合意していた。

しかし、表裏があり分かりにくくユーザー体験を損なってしまうこと、2017年の段階ですでに近い将来USB-Cが普及することが分かっていたことを理由に、iPhone XへのマイクロUSBの採用を避け、端末自体はLightningコネクタから変更しなかった。

結局Appleは、変換アダプタが存在していることを理由に、マイクロUSBへの統一要請に対応する形としていた。当時は、特に罰則もなかったからだ。

もう一つの転機は2020年。直近の新デザイン採用のタイミングとなったiPhone 12が発表された時だった。しかし2020年も、USB-Cへの移行は見送られ、引き続きLightningが採用され続けた。

当時の時点では、iPhone向けのApple siliconであるAシリーズに、USB 3コントローラーを搭載するに至っておらず、Proモデルに対して10Gbps級の通信速度などのメリットを用意するに至らなかった、という事情も透ける。

USB-CのiPhoneの今後

では、USB-Cにコネクタが変更されたiPhone 15シリーズは、これまでのiPhoneと何が変わっていくのか。実際のところ、多くの人にとっては、大きく変わらないことが予測できる。 もちろん、Lightningケーブルしか持っていない人は、iPhone 15シリーズに付属する充電用USB-Cケーブルを使うしかないため、職場や持ち運び用に新たにケーブルを購入する必要がある。

また、充電器がUSB-C以前のUSB-Aコネクタしかない場合、ケーブルと合わせて、USB-Cコネクタを持つ充電器も用意しなければならない。

ただ、MacBook AirやiPadなど、USB-C充電器が付属するコンピュータやタブレットを持っている場合、その充電器を用いてiPhoneを充電可能になり、Macを充電しているUSB-Cケーブルも利用可能なため、追加投資は必要ない。

  • MacBook AirやiPadなどに付属するUSB-C充電器があれば、iPhone 15シリーズを充電できる

また、MagSafeやQiを用いたワイヤレス充電を行っている人は、そもそもケーブルを用いた充電をしていないわけで、ポート変更の影響は受けないだろう。

データ転送についても、これまでのiPhoneがUSB-Cポートに対応していない以上、iPhone同士ではAirDropやLINEなどのメッセージアプリを通じて、ワイヤレスに行われることになる。となると、やはりポート変更の影響は受けない。

となると、意外とスムーズな移行、もしくはほとんど影響を受けない意向となる可能性が高いのではないだろうか。あるいは、そうした環境が整うことを、Appleが待っていたとも言える。

車内、街中、ホテルでの充電に新たに必要になるのは…

ただし実生活の中で、iPhoneのUSB-Cコネクタ採用で新たに必要になりそうなのが、USB-A - USB-Cケーブルだ。

というのも、自動車や飛行機、ホテル、駅や空港のベンチなどに用意されている充電コネクタは、まだまだUSB-C化されておらず、四角いUSB-Aポートが膨大に残っている。

これらをiPhone 15シリーズで利用したい場合、付属のUSB-Cケーブルではなく、USB-AとUSB-Cのコネクタを持つケーブルを用いなければならない。しかも、インフラがそう簡単にUSB-Cに統一されるとは思えず、当面の間、このケーブルが活躍することになるだろう。